カルロス・ゴーンの三重国籍とフランスからの視点


ルノー・日産・三菱グループの総帥であるカルロス・ゴーン氏が逮捕された事件について詳細に追いかけているわけでないが、フランス政治・経済の事情に少し通じているものとして、この問題の理解に役立つかもしれないというつもりで情報提供と日本での報道や論評で気になったことを書いておこう。

カルロス・ゴーンは、レバノン人の両親のもとでブラジルで生まれた。ブラジルでは出生国主義なのでこの段階で二重国籍。さらに、当時は、フランス国営企業だったルノー専務就任時に国籍が必要だったのでフランス国籍も取得。母親がアフリカのフランス領生まれだったことも国籍取得に役立ったともいう。

幼少時にブラジルからレバノンに戻り、やがてフランスに留学してエコール・ポリテクニーク(国防省理工科学校)に外国人枠で入学。フランス人学生は成績順に最高峰の鉱山技師団(原子力・製鉄なども掌握)、それに次ぐ土木技師団などに入るが、外国人なので公務員にはなれず、パリ鉱山学校に入学。この学校に鉱山技師団の専門教育のための特別学級が併設されているのでこれと混同して、超エリート技師団のメンバーだと誤解されることが多いが関係ない。つまり、フランスの超エリートとはいえない。

卒業後は、ポルトガル語を活かしてミシュランのブラジル法人に就職し、その後、アメリカ法人でも活躍して国際派として頭角を現し、ルノーのシュバイツェル会長(シュバイツァー博士が大叔父)に見出されてミシュランの専務に就任。日産がルノー傘下に入ったことで社長に就任し、その後、ルノーのトップにもついた。

マクロン大統領が経済相時代にルノーと日産との合併を望んだことなどから対立し、失脚の可能性もあったが、日産の独立性を高めることで抵抗し、なんとか手を打ったが、マクロンとの関係はよくないといわれる。

ルノーは日産の株式の43%をもち、日産はルノーの15%の株式を持つ。このためルノーは日産で議決権をもつが、日産は子会社扱いなのでルノーで議決権をもたない。ただ、もし、日産がルノーの株式の25%を取得したら、双方の議決権が無効化する。

これをもって、日産は伝家の宝刀として25%の株式取得に向けて行動することは論理的にありえないわけではない。

ただし、そのためには、日産の経営からルノーを排除するか、ルノーの経営者がそれを望まないとできないのは当然だ。そこで、カルロス・ゴーンは首になりかかったときにその可能性を臭わした。

また、今回、ゴーンとケリーの二人が逮捕されて取締役会に参加できないことに乗じて日産の日本人がクーデターを起こし、一か八かの勝負に出ることも考えられないわけではない。

しかし、もし、それがフランス政府の意向に反してのものだとしたら、フランス政府にとって許しがたいものになるし、荒っぽい手段を使っても阻止するだろう。何しろ、戦後ずっと国営企業(ナチスに協力したので創業家は追い出された)だったルノーの経営は非常に大きな政治問題であり、政権を揺るがしかねないのである。

むしろ、フランス政府としては早々にゴーンにかわってかなりの大物をルノーに送り込み、日産への干渉を強める動きに出るとみるのが普通だ。

いずれにしても、ゴーンの不在がフランス政府の日産への影響力を減じるような方向に利用されることになれば、これは日仏間の深刻な外交問題になりかねない。

官邸サイトより:編集部

このところ、日仏関係はすこぶる良い。中国の南シナ海やジブチへの進出をを見て、インド洋や南太平洋に領土をもつフランスと、日本・オーストラリア・インドとの軍事協力が急速に進んでいるという事情もあって、中国封じ込めの要なのだから、経済問題にとどまらず、安全保障にも深刻な影響を与えかねず、安倍政権としても日産があまり勝手なことをすれば介入するしかあるまい。

そうしたなかで、フランスではルノーではゴーンを解任はしないが、政府の強い圧力で、権限を一時的に停止してリーダー不在を回避した。このあたり、フランス政府、ルノー、日産の西川社長、日本政府の関係がどうなっているか非常に興味深い。

日産の西川社長の動きが積極的なルノーの影響排除を狙った単独犯的なものだったか?

フランス政府ないしルノーのなかのゴーンを失脚させようという勢力がそれと連携しているのか?

検察が金商法違反という、どう考えても別件逮捕的で国際的な理解を率直には得られないような容疑で逮捕して日産のクーデターに“協力”したように見えるのがどういうことなのか?
(検察が普通には逮捕しないような案件で身柄を拘束して取締役会の勢力を逆転させるのに協力し、そこに朝日新聞まで深く関わっているように見えるのは何とも不自然な話だ)

日本政府はどの程度、動きを把握していたのか?

いずれも推測だが、今後の動きを注視していきたい。