韓国軍レーダー照射で、日韓「擬似同盟」は死語に

2018年12月23日 06:00

能登半島沖で航空自衛隊の哨戒機が21日、韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダーを照射されたという一報を聞いたときは、さすがに耳を疑った。火器管制レーダー照射は狙いを定めて引き金を引ける態勢に入ったことを意味するくらいは、軍事が専門でない筆者でも知っている。まさに「臨戦」体制だ。

自衛隊機に火器管制レーダーを照射した韓国海軍艦艇「クァンゲト・デワン」(防衛省サイト

2013年1月にも東シナ海沖で海自の護衛艦が中国海軍のフリゲート艦に火器管制レーダーを照射されたことがあった。しかし、今回は、事実上の「仮想敵国」である中国軍が相手ではない。日韓の間では軍事同盟こそ締結されていないが、それぞれアメリカと同盟関係を結び、東アジアの安全保障体制を築きあげてきた。

日韓関係が、元徴用工裁判の判決などで過去20年でもっとも峻厳な状態になっているとはいえ、少なくとも日韓が軍事衝突すれすれになりかねない事態というのは、あまりに異例だ。

日本側の発表に対し、韓国側は反論。公海上で遭難していた北朝鮮籍の船舶を捜索する中で、火器管制レーダーを含むあらゆる装備レーダーを稼働させた結果として、航行中の自衛隊機に電波が当たったなどと「アクシデント」を強調している。

これは報道があった当夜に田母神俊雄氏が下記のようにツイッターで示した分析に近い。日頃は韓国に厳しい田母神氏が「冷静」に述べたことが意外で反響もあった。

これに対し、小川和久氏は韓国側の見解について、Facebookで疑問を呈している。

火器管制レーダーを感知したから、P-1哨戒機は回避行動を取ったわけだ。火器管制レーダーを船舶を探す対水上レーダーと偽れると思うとは、韓国の国防部は何を考えているのか。

防衛省も翌22日、韓国側の見解に再反論した。小川氏が述べたように分析した結果として「火器管制レーダーによるものと判断」であることを改めて強調。さらに

「火器管制レーダーは、攻撃実施前に攻撃目標の精密な方位・距離を測定するために使用するものであり、広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには、水上捜索レーダーを使用することが適当です。」

「仮に遭難船舶を捜索するためであっても、周囲に位置する船舶や航空機との関係において、非常に危険な行為です。」

などとレーダー運用の常識を述べた上で、韓国側の今回の運用は、船舶・航空機の接近時における火器管制レーダー使用は控えるべきとするCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)に違反していることを示唆している。

田母神氏がCUESの規定について言及しなかった理由はわからないが、ここまでの日韓論戦では、防衛省側の見解の方が説得性があるように見える。

仮に韓国側に悪意がなかったにせよ、同盟関係を正式に結んで「味方である」と法的に定義づけられてない日韓の軍事関係というのは、「敵ではない」というだけに過ぎず、この程度のレーダー照射でも緊迫してしまうだけの脆弱なものだったことが、改めて浮き彫りになったのではないか。

微妙な関係であり続けてきた日韓の「擬似同盟」

植民地時代の暗い記憶を背景に、日韓の軍事関係は微妙なものであり続けた。防衛庁長官が初めて韓国を訪れたのは1979年(当時は山下元利長官)。日韓基本条約で国交が正常化してから14年もの歳月を要したことを見るだけでも難しかったことがうかがえる。朝鮮半島有事に備える上で、民主主義・資本主義の価値観を共有する日米韓の3国が緊密に連携することは必要だが、日韓はそれぞれアメリカと同盟関係にはあるが、互いに直接的な軍事同盟を結ぶには至らなかった。

チャ氏(CNBC出演時、本人ツイッターより)

この間、韓国は軍事政権から民主化が進んだものの、1992年に国交を樹立した中国への配慮から、日本と軍事的には一定の距離を置く傾向が定着してきた。こうした日韓の微妙な関係について、ブッシュ政権の国家安全保障会議(NSC)でアジア部長を務めたビクター・チャ氏は1999年、自著において「擬似同盟」と表現した。

2002年には、日韓共催のサッカーW杯により友好ムードがピークとなることもあったが、盧武鉉政権以後の反日路線は、日韓の「擬似同盟」を危うくしてきた。2012年には、当時の李明博政権が、物品役務相互提供協定を締結の1時間前になってキャンセル。その後も、半島有事における在韓邦人の救出に自衛隊機が韓国内に出動することは拒否されており、同盟どころか危機管理上の協力体制すら構築できない事態が続いている。

アゴラでおなじみの元韓国国防省北朝鮮分析官、高永喆氏は日韓関係についてしばしば「晴れ時々曇り」と天候に例える。「空模様」を決める要因はどこかといえば、チャ氏が指摘するように、アメリカの東アジアにおけるプレゼンスの度合いだ。2人の表現を私なりに混成すると、アメリカが半島への関与が強い時は両国は、「雨交じりの曇り」になり、アメリカが引き気味の時は、その穴埋めのために「晴れ」になるというところだ。

しかし同盟に実体がないと、天候次第で日米韓の安全保障体制は揺らいでしまう。それを宿命と割り切り、かつてのように、“晴れ時々曇り”の天候回復の余地があった時代と今では様変わり。慰安婦財団の解散、元徴用工の判決などの“土砂降り”が止まらない。その中で起きた今回のレーダー照射は、擬似同盟という言葉を完全に吹き飛ばす“台風”になってしまったのではないか。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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