鼎談「知財本部の15年」。

2019年01月28日 11:30

雑誌「ジュリスト」の企画で、中山信弘東大名誉教授、荒井寿光初代知財本部事務局長と「知財本部の15年」の鼎談を神田・有斐閣にて行いました。

知財政策を立ち上げ作ってきた大大先輩はどちらもチョー過激で迫力があり、自分が実に小さく感じました。この世代はやはりスゴい。海賊版対策もハッパかけられました。

お二方の発言は、条約をぶっ飛ばせとか内閣○○局をぶっ飛ばせとか○○省は○○だとかヤバい内容が多く、紙面は大幅カットとなるでしょう。
ぼくの発言は穏当につき、ひとまず概要をメモしておきます。

○知財にはどのような関心?

・学生時代、音楽をやっていて役所に入った。創造・表現活動を活性化したい、今でいうコンテンツの領域を活性化したい。それで通信・放送政策やコンテンツ政策を担当。

・大学でも創造力・表現力を新技術で誰もが高めることに取り組んでいる。それを持続・発展させるインフラが知財制度。インフラ整備の観点で取り組んでいる。

○最近の知財本部?

・コンテンツ政策やクールジャパン政策では、かつては経産省・文化庁・総務省が中心で、受け身の姿勢も見られたが、今は国交省、外務省、農水省などを含め10近い省庁がテーブルにつき、自分たちでどんどん前のめりにカードを切る。

・コンテンツ分野と産業分野とが二分されていたが、第4次産業革命のAI論議になり、データの扱いが主戦場となるに至り、両分野を一体化する議論になっている。
・海賊版対策や教育情報化が典型だが、知財政策とIT政策の連携もますます重要性が高まっている。

○知財戦略の成果と評価は?

・知財高裁や特許審査、職務発明制度など荒井さんが進めた産業分野の成果が先行して知財政策を引っ張ってきた。
・ここ数年で、著作権法改正やデジタル教科書の制度化などコンテンツ領域も制度対応が進んだ。

・クールジャパン機構など支援措置も充実し、政策ツールも揃ってきた。コンテンツ海外展開などの成果も数字となって現れている。

・特にコンテンツ分野は、20年ほど前からのPCやネットによる「デジタル化」、10年前からのスマホやソーシャルメディアによる「スマート化」、さらに昨今のAIやIoTによる「超スマート化」という大きな環境変化に対応していくことが主要課題であった。

・それは一人勝ちのアメリカにキャッチアップする十数年だったが、今度は中国というチャンピオンも現れてきて、環境は厳しさを増している。

○知財教育はどうか?

・私が所属する大学院はメディアを専門に扱う場で、著作権をはじめ知財教育には力を入れているが、知財を専門にして食べていく人は少ない。一方、どの産業に進むにしろ誰もが身につけるべきリテラシーとして捉えられており、知財教育の大衆化が課題になっている。

・誰もがITで情報を利用・発信する時代は著作権法に1億人が関わる社会であり、初等中等からの教育が重要になっている。

○企業の知財戦略は?

・コンテンツ業界のように知財が経営資源の大本である会社は知財戦略が経営戦略の中心になっている。だが一般の企業が知財戦略を第一に据えているかは疑問。
・ひとえに経営者が製造、営業、財務、人事などと比べて知財戦略にどれくらい重きを置いているか、その認識によると考える。

・それは政治や行政にも言える。TPPの交渉などにしても、農業や製造業などと比べ知財の扱いは高いとは言えない。そのプライオリティーの置き方、日本が今後何で食べていくかの認識がまだ国全体で共有されていないのではないか。

○最近の知財環境の変化は?

・知財への関心が高まり、重要性の認識が定着した。特許や著作権の扱いによって日本が停滞したことも認知されている。それにより、専門家を生むこと以上に、全ての職業人が知財の知識を身につける重要性が高まっている。

・国内市場中心の議論が海外展開へと主軸を移した。これまでの経済停滞と今後の少子高齢化を踏まえ、海外市場に向けた知財戦略が中心課題となっている。コンテンツ分野はさらに一巡し、観光や食などと連携したインバウンド戦略に力が入っている。

○コンテンツ戦略は?

・知財本部ではデジタル教科書の制度化、教育の情報化をコンテンツ政策として推進してきた。前国会でデジタル教科書の制度化やそのための著作権法の整備が実現したのは喜ばしい。

・そしてこれはコンテンツが産業政策だけでなく、教育など文化社会政策を含むより広い観点から捉えられているということ。またそれは学校のIT整備とセットで進められる案件で、知財政策とIT政策の連携が求められている。

・最近は海賊版サイト対策に力を入れており、ブロッキングという手法の是非が社会の注目を集めている。これは著作権という知財政策と、通信の秘密の保護というIT政策とが衝突している案件であり、知財政策だけでは正解が得られない。IT政策など他の政策領域との連携・調整を要する事態が増えている。

○知財本部の課題は?

・3つあると考える。
・海賊版対策に現れるように、知財政策とIT政策の連携・融合が重要。これは省庁再編の必要性も示唆している。

・2020年は著作権法の制定から50年。これまで何とか手当してきたが、小学生でも知っておくべき制度としては使い勝手が悪すぎる。抜本的に見直すチャンスではないか。
・これらを通じ、知財政策の優先度を向上させることが重要。ぜひ荒井さんの唱えた知財立国を進めたい。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年1月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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