第2回米朝首脳会談に臨む関係国の思惑と日本の取るべき道

松川 るい

みなさま、お久しぶりです。いよいよ今日、明日と米朝首脳会談が開かれます。この1か月は北朝鮮というより韓国による反日案件がニュースになることが多かったと思いますが、これも米朝首脳会談に向けて、韓国が従来以上に北朝鮮に格好をつけたくなったということもあるのかもしれません。正統性において韓国は北朝鮮には常に負い目があるからです。

ホワイトハウスFacebookより:編集部

今回の米朝首脳会談は今後の朝鮮半島の行方を半分決めるという意味でも極めて重要だと思います。

端的に言えば、①結局、北朝鮮の核兵器の脅威がどの程度除去されるかどうか、②米国が朝鮮半島に関与し続けることになるかどうか、③南北朝鮮が「統一」に向かうかどうか、透けてみえることになると思うのです。

会談が始まる直前にこういうことを書くのはリスキーだなとも思いますが、米朝首脳会談終了後の成果について考える際の参考になるかもしれないと思って関係国の思惑と会談成果の大胆予測と日本が取るべき方針について自分なりに思うところを書いてみますね。これまでさんざん書いてきたことと重複するところもありますが、ご容赦を。私は「一部だけ書く」のが余り好きではありません。常に一話完結編です。なので長くなります。すみません。

各国の思惑を書く前に一言。よく聞かれるのが、一体、米国と北朝鮮のどちらが交渉上のアッパーハンドを持っているのかということです。いろいろな見方があるでしょうが、私は、中長期的には米国だが、今回の第2回米朝会談についていえば、どっこいどっこい良い勝負だっただろうと思います。

米国は北朝鮮に制裁をかけ続けていても何の痛痒も感じませんが、北朝鮮はそれでは困ります。米中の覇権争いの中で中国も北朝鮮の肩をあからさまにもって米国を怒らせたくはないというモードにあります。

他方において、大統領選に向けて支持率を上げたいトランプ大統領としては、北朝鮮問題の解決で支持率を上げたいところでしょうから、この第2回目の首脳会談で、米国民が良くやったと評価するような成果を上げる必要があります。さすがに、「会うこと自体が成果」と強弁するほどトランプ大統領も厚顔ではないでしょう(と、旧知の米国関係者に言ったら、「彼ならやりかねない。」と言われたことはありますが。。。(驚))他方、金正恩は選挙の心配をする必要はありません。彼は生まれながらに王様なのです。

米国はICBM廃棄と核廃棄の道筋を取りたい。北朝鮮は一部なりとも制裁解除なしに核兵器についての譲歩はしない。米国が現時点で切ることができるカードは限られている(米国独自制裁、南北案件の安保理制裁からの例外化、連絡事務所設置、終戦宣言ぐらいかと)。その中で、互いにどこまでカードを切れるかという交渉を限られた時間の中でやってきたものと思います。その交渉においては、おそらくポジションはイーブンだったのではないかと思います。

1.米国の思惑

米国はなぜ第2回米朝首脳会談をやろうと思ったのか。北朝鮮との関係で、米国が最低限達成しなければならないと考えている目標は、ホームランドセキュリティ(自国の安全確保)です。トランプ政権としては、ここに、次の大統領選に有利に働くような材料にする、という要素が加わります。したがって、北朝鮮に対しては、米国は、少なくとも米国本土が脅威を感じないように処置することは確保したいところです。

具体的にいえば、①まず米国本土に到達可能なICBMは廃棄させる、②核兵器はできるだけ削減する(特に寧辺のメジャーな施設)、そして、③最終的には北朝鮮が米国を敵視する状態をなくす、つまり、北朝鮮と友好的関係になる、ということです。それなりの信頼感が醸成できれば、連絡事務所ぐらいおいても良いと考えているかもしれません。

伝統的な安全保障担当者(マティス元国防長官など)の考えでは、さらに、朝鮮半島全てが中国の影響下に置かれないこと、ということも目標に入っていたと思うのですが、トランプ大統領自身はおそらくそういう関心はないでしょう。朝鮮半島なんて、一体米国にとって何の意味があるんだ、脅威じゃなくなったらどうでも良い(中国の支配下に入ろうが知ったことではない)、太平洋の基地は日本で十分と思っているはずです。トランプ大統領の発想は、極めて二国間的、直接的で、同盟ネットワークの意義について共感しているとは思えないので。

なお、これは世界の警察をやめた米国の立場にたてば決して非合理的な判断ではないとは思います。

2.北朝鮮の思惑

北朝鮮の長年の目標は、朝鮮半島から米軍を追い出し、北朝鮮の下での半島統一(赤化統一)を実現するということです。とはいえ、金正恩委員長が直面する当面の課題は、まず、制裁を解除させることです(その意味で今回の制裁は効いている)。そうでないと経済発展もなにもあったものではありませんし、国内的に核削減する名分が立ちません。

もう一つは、米国の対北朝鮮敵視政策をやめさせること、究極的には平和条約を締結し、米軍の撤退縮小の方向に道筋をつけるということです。このための第一歩として、今回の会談で終戦宣言を欲しています。

朝鮮中央通信より:編集部

金正恩委員長としては、朝鮮半島に米国が関心をっもってくれたのは久々のことです。(オバマ大統領が「戦略的忍耐」と称して何もしなかったことを想起してください。これも核兵器を完成したからこそ米国が振り向いてくれたという認識でしょう。)交渉術上のレトリックかもしれないとはいえ、自分と積極的に交渉をする用意があるトランプ大統領の存在は貴重です。上記の長年の目標を達成する上での大きなチャンスだと捉えています。

したがって、制裁解除と平和条約への道筋(終戦宣言)と引き換えにICBMはじめ核兵器・施設についても削減する用意はあるでしょう。

ただ、終戦宣言だけでは核施設廃棄の譲歩をするとは思えません。終戦宣言は所詮ただの政治文書です(むろん平和条約を想起させる重要な一里塚ではありますが)。それは、北朝鮮からすれば「割に合わない」のです。一部なりとも制裁解除なくして核施設の廃棄はしないでしょう。それでは金正恩が「国内的に持たない」からです。

さらにいえば、いずれにせよ、北朝鮮には、完全に核放棄をする意図は、もはや、ないと思います。金正恩委員長の年初の辞には、「核実験、さらなる製造はしない」という、核保有国であることを前提とした発言がありました。軍事オプションが真実味をもっていた時には、おそらく全面放棄も考えたはずですが、状況は大きく変わってしまいました。軍事オプションはもはや現実的ではありませんし、中国の後ろ盾を得た上、制裁も韓国筆頭に緩和すべきという方向に働きかける国が出てきました。

そして、トランプ政権はいつまで続くのかという民主主義国ならではの制約が目に見えてきました。金正恩はあと30年統治者であるでしょうが、トランプ政権は所詮数年なのです。

というわけで、完全な核放棄をさせることを我々の側から決してあきらめてはいけません。ですが、そうならない可能性については念頭においておく必要はあります。客観的に言って。

3.会談の成果

以上考えれば、ICBMと寧辺の核施設のそれなりの部分が廃棄される(米国査察の下)なら、全核施設の申告がなくとも、終戦宣言に加え一部制裁の解除(米国の独自制裁の解除とか、南北事業の安保理決議例外化)ぐらいしても良いと米国が考える可能性は高いと思います。韓国がおそらくしつこく米国に要請したでしょうし。

加えて、米国の連絡事務所を平壌に設置するといったこともあり得るでしょう。米国が北朝鮮に連絡事務所を置くことは私は良いことだと思っています。これまで私のブログを読んで頂いている方はご存知のとおりですが、米国が朝鮮半島に関与し続けることは日本の国益に叶うことです。

他方において、北朝鮮が全ての核兵器を廃棄しない限り安保理制裁決議は継続されるという点は、「今回の会談では」という限定付きですが、変わらないものと思います。物理的にも安保理会合開かずしてそんな約束はできないという技術的な点を除いたとしても、制裁を解除した途端、米国側(国際社会側)のレバレッジがほぼなくなってしまいますから。

4.韓国の思惑

さて、この米朝首脳会談を誰よりもワクワクドキドキして期待で一杯になっているのはムンジェイン大統領ではないかと思います。米朝首脳会談に続けて3.1運動記念日もやってきます。ここで一気に「抗日」を共通項に南北統一ムードにもっていきたいところでしょう。その過程で、また反日案件が野放図に出てきて日本との関係が緊張しそうな予感です。

韓国大統領府FBより:編集部

ムンジェイン政権というのは、北朝鮮との融和(「統一」)しかほぼほぼ考えていない政権です。ムンジェイン大統領の頭の中の95%は北朝鮮との統一への道に占められていることでしょう。短期的には韓国に不利益になろうと南北融和(統一)ができさえすれば構わない、「南北ファースト」なのであり、韓国ファーストでさえありません。

統一といっても、別に突然北主導の統一国家になるとか韓国主導の統一国家になるという意味ではありません。北朝鮮は王国であり、韓国は民主主義国ですから、連邦国家はおろかEUまでもいかない緩やかな国家連合体的なものでしょう、少なくとも当面は。ムンジェイン大統領自身は、「南北経済共同体」という表現をしています。しかし、向かう先は統一です。普通の意味でいうところの。

いずれにせよ、日本との関係も米国との関係もその「北朝鮮との統一レンズ」からしか評価されていません(「統一に役に立つかどうか」という)。おそらく。

最近の立て続けに傍若無人な反日行為が相次ぐ背景にも、従来からの歴史修正の試み(日本と戦った戦勝国になりたい)に加え、南北融和にトライするにあたり、ちゃんと日本軍と戦ったことのある北朝鮮と肩を並べたい(「結婚するために、婚約者に合わせてスペックを上げたい」みたいな気持ちに近い。)という動機もあるのかもしれません

ムンジェイン政権は、北朝鮮の非核化よりも南北融和(統一への道)の方が大切なのです。彼の「理論」でいけば、南北統一は全てを解決するからです。北朝鮮の核兵器は除去したいが、しかし、南北「統一」できれば北朝鮮の核は脅威ではなくなるので南北融和が優先。南北「統一」ができれば、経済的にも非常なるメリットがあり、全ての経済失策も克服できる。北朝鮮の人口は3000万弱ですが、廉価で勤勉な労働力は確かに魅力でしょう。南北「統一」できれば、人口8000万の国家群となるわけで、日本や中国や米国に頼る必要も減るので怖くない、安全保障上も自立できる。といったところかと。

100年に一度の統一のチャンスが訪れたと思っているムンジェイン政権として、今回の米朝首脳会談には、何としても南北「統一」の実現に向けて動いてきたことでしょう。非核化よりも、北朝鮮が欲している制裁解除、開城工業団地や金剛山観光の再開、終戦宣言の実現を米国に訴え、おそらく米国の相当の不信を買ったはずです。米韓同盟の弱体化につながらなければ良いですが。

5.南北統一の流れが加速化する

いずれにせよ、南北融和の流れは変わらないと思います。あとムンジェイン大統領は3年もいるわけで、その間にかなりのことができてしまいます。進んだ後に戻ることは難しい。我々は生きている内に統一朝鮮連邦国家群を見ることになるのではないでしょうか(王朝と民主主義なので一つの国家になるハードルは高いと思います)。

南北首脳会談プレスセンター提供、2018年4月27日

日本の人口は1億2千万ですが、2060年には8000万人となる推計です。対する韓国は5000万人、北朝鮮は3000万人弱。フェリーで福岡から3時間の場所に、8000万人の反日国家群が出現することは日本にとっては是非とも避けなければなりません。

つまり、韓国が反日で、北朝鮮が核保有国なら、日本にとっては、南北は分断されたままの方がまだましということになります。もちろん、同じ民族が融和に向かうことは隣人として喜ぶべきことでしょう。モラルの上では。でも、日本の国益のためには、融和に向かうのであれば、その統一朝鮮国家群が日本にとっての脅威にならないようにしなければなりません。

そのためには、一体どうすれば良いか。まず、話の流れで先に書きますが、同盟国である米国が北朝鮮及び韓国に関与し続けることは良いことです。平和条約締結の流れになれば、在韓米軍が縮小することは避けられないと思います。しかし、出来る限り在韓米軍維持が望ましいところです。そして、米国が北朝鮮と国交を結び経済含めそれなりの関係を持つことになれば完全なる代替ではないにしても北がまっさらな脅威という状況ではなくなるでしょう。

日韓関係が良好に維持され、日朝関係が正常化でき友好関係を建設できれば何の問題もありません。もちろん。しかし、課題は大きいと言わざるを得ません。

これまでもさんざん書いてきましたが、韓国の反日は韓国という国自身の「成長過程」で不可避的に出てきているものであり、いかんともしようがありません。問題は日韓関係ではなく韓国自身なのです。韓国がこうだったと信じたい歴史と自己像と日本の承知している事実とはどうしようもなく噛み合わないからです。日本の知っている事実と突き合わせると韓国としてあらまほしきアイデンティが保てないのです。

北朝鮮にとっては、殆どどうでもよいことです。日本軍とたたかった金日成主席が建国した北朝鮮には、韓国のようなトラウマがありません。韓国は日本と戦ったことがないという事実において、北朝鮮に対し、正統性の面で一抹の後ろめたさがあるのです。

韓国が経済発展して自信が深まれば反日じゃなくなるだろうという目論見は崩れました。韓国の信じたい歴史と日本の知っている歴史とは違うわけですから、お互い違ってもしょうがないよね、というところに腹落ちができない限り続くのです。時間が解決すると信じたいところです。

日本のレバレッジは、お金です。日本以外に兆単位のお金を北朝鮮に払う用意のある国はありません。もちろん、拉致核ミサイル含む諸懸案が解決され、日朝国交正常化ができたらという前提ですが。米朝関係が軌道にのる見込みが見えたら、日本は、さっさと日朝国交正常化交渉をすべきだと思います。その過程でしか拉致問題は解決できません。北朝鮮と日本が直接関係を持つことは、韓国の暴走を防ぐ上でも有効だと思います。

また、日本としても、北朝鮮の全面核放棄が期待できないなら、つまり、北朝鮮の能力をなくすことができないなら、北朝鮮を脅威でなくするしかないのです。つまり、北朝鮮が日本を攻撃したり脅したりするインセンティブをできるだけ減らすということです。そのためには、日朝国交正常化を実現し、建設的な関係を築く必要があります。

その上で、最後に、一番重要なのは、日本が将来にわたって、朝鮮半島国家群の視点から見て、「強国」であり続けることです。だいぶ落ちたとはいえ、まだ日本は韓国からみても完全に無視はできない程度の経済力も軍事力もあります。南北朝鮮ひとまとまりになったとしても、それでもなお、無視できない力を経済でも軍事でも蓄えておくことは、日本の生存のために必要です。

短期的な防衛力整備などという以上に、少子化対策が重要です。株と同じです。「割引現在価値」です。この会社は将来成長するか、または没落するかによって、「現在の」株価は決まります。国もほぼほぼ同じです。この国は、将来強いままでいるのだろうなあと思われるか、この先は没落の一途だよねと思われるかにより、「現在の」国力が決まるのです。日本の将来が明るいんだろうなあと思われるためには、少子化の克服、イノベーションの創出、強靭な経済、防衛力が必要なのです。

朝鮮半島よりも、中国の方が課題ですが、その上でも日本が強くあり続けることは必要なことです。ポスト冷戦期のグローバル社会において、ネーション・ステートなんて意味がなくなりボーダーレス社会が訪れるという論が流行った過去の一時期がありましたが、残念ながら、世界は既存の国際秩序が揺らぎパワーポリティクスに動いています。我々はその現実を直視し、日本の生存戦略を考える必要があります。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏の公式ブログ 2019年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。