バロンズ:膨れ上がる財政赤字、問題視される時期はくるのか

2019年03月04日 06:00

バロンズ誌、今週のカバーに製薬会社が注力する遺伝子治療を取り上げる。大手製薬会社はこれまで、新薬開発で遅れをとってきた。こうした製薬会社にとって、遺伝子治療は新たな希望の星となるかもしれない。遺伝子治療は血友病や筋ジストロフィーなど数々の遺伝的疾患を治療する上で活路を見出すだけに、期待が大きい。

例えばスイスの製薬大手ロシュ・ホールディングスは、血友病や目の稀な疾患治療薬でリードするスパーク・セラピューティクスを48億ドル、1株当たり114.50ドルで買収したが、これは買収前の株価の2倍に相当する。スイスの製薬大手ノバルティスも、脊髄性筋萎縮症の治療薬で有名なアベクシスを87億ドル、1株当たりでは同じく2倍の上乗せ価格で買収を決定した。遺伝子治療薬メーカーをめぐる争奪戦が苛烈となり、勢力図が塗り替えられつつある製薬業界は今後どうなるのか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は米連邦債務を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

財政赤字、今の左派と右派には双方にとって問題なし—Do Budget Deficits Matter? Not to Today’s Left or Right.

チェイニー副大統領を描いた映画「Vice」はアカデミー作品賞を受賞しなかったが、映画によればチェイニー氏は、ブッシュ政権(子)で最初に財務長官を務めたオニール氏に対し「レーガン政権は、赤字が問題でないことを証明した」と語ったとされる。

それから17年後、債務王を名乗るトランプ氏が大統領に就任し財政赤字は1兆ドルを超え、国内総生産(GDP)比5%に相当する見通しだ。しかも税制改革法の施行が一因でむしろ景気回復は今年の6月で10年目を迎え、金融危機発生により急増したわけでもない。

左派の間では、現代貨幣理論(Modern Monetary Theory、MMT)が支持を広げている。極端に単純に説明すると、国債は紙幣を印刷することで返済可能であるため、政府は財政赤字によって縛られないという考え方である。仮に過剰歳出でマネーが流通量が増えインフレが加速したとしても、財政政策を調整すれば抑制できることになる。MMTの支持者にはアレクサンドリア・オカシオ−コルテス下院議員が挙げられ、同議員は何兆ドルものコストが掛かる公算が大きいグリーン・ニュー・ディール政策を主張する一人だ。

逆にパウエルFRB議長はMMTを支持せず、半期に一度の議会証言ではMMTに対し「自国通貨で借入が出来る国にとって財政赤字は問題ないとの考え方は、誤っている」と発言。さらに同議長は「(Fedの役割は)特定の政策への支持を提供するものではない」と述べ、グリーン・ニュー・ディール政策にFedの保有資産を活用する道筋を断ったと言える。

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議会証言中のパウエル氏。(出所:Federalreserve/Flickr)

パウエル氏の考え方は、多くのエコノミストや金融の専門家も同調する。財政赤字は民間投資を締め出し、金利と物価を上昇させるため、悪とされてきた。財政赤字は緊急時こそ問題にされてこなかったが、詳細の成長を抑制するものとして判断されてきたためだ。

もっとも、足元では民主党寄りのエコノミストを中心にこうした考えに真っ向から対立しつつある。オバマ政権での大統領経済諮問委員会(CEA)委員長だったジェイソン・ファーマン氏、オバマ政権での国歌経済会議委員長でクリントン政権では財務長官を務めたラリー・サマーズ氏は、フォーリン・アフェアーズ誌への寄稿文で、インフラ投資のような切迫した必要性を鑑み、財政赤字縮小を先送りすべきだと主張した。

彼らによれば、財政赤字が問題か否かは債券市場が教えてくれるという。民主党系だけでなく、一部の金融市場関係者も債務拡大に無頓着になってきた。S&Pグローバル・レーティングスによれば、世界中の政府が7.8兆ドルの国債を発行し、全世界の政府債務残高が50兆ドルを超える見通しだというのに、である。

現時点で、債券市場は平静そのものだ。米連邦債務は2月に22兆ドルを突破しただけでなく、2018年のGDPである20.8兆ドルを上回った。それにも関わらず、米10年債利回りは2.5〜3.0%のレンジで安定推移している。インフレも、失業率が4%割れとほぼ完全雇用の状態であるにも関わらず、Fedの目標値2%以下だ。

BCAリサーチのピーター・ベレジン首席グローバル・ストラテジストは、金利が名目成長率以下であれば、利払いを除く財政赤字はGDP比の赤字が高水準にあっても持続可能と説く。ただしベレジン氏いわく、財政赤字の拡大でしわ寄せがくるのは、債券市場ではなく為替市場だ。仮に自国通貨の価値が急落したならば、国民は価格上昇リスクに備えカネを物資に変えることに奔走すると、ベレジン氏は予想する。MMT支持者によれば、この状態こそ財政引き締めの兆候で、過剰な情を物価上昇で抑え、財政赤字も縮小するという。

しかしながら、米国はユニークな立場にある。ドルが世界の基軸通貨であり、米国債は世界で最も流動性の高い安全資産であるためだ。

ゴールドマン・サックスによれば、国内債務が高水準にある場合の欠点は、経済の難局でも政策当局者が十分な借入に消極的となり、逆に金融政策に穴埋めを求めるリスクにある。例えば、Fedが政策金利をほぼゼロに設定した当時、Fedはバランスシートを4倍に拡大させた。

ユーロ圏では、財政刺激による弊害が一段と深刻だ。欧州中央銀行(ECB)が(日本と同様に)マイナス金利を含むあらゆる手段を講じたため、世界の国債利回りのうち11兆ドルがゼロ以下の利回りで推移している。

中央銀行による量的緩和策は、資産価格押し上げに役立ち、支出と投資を支えた。お陰で投資家を中心に恩恵を受けることができた半面、貯蓄に頼る者が受け取る金利は微々たるものとなり、格差が拡大し社会的緊張をもたらした。もしワシントンがインフラ債を発行し、Fedが米国債や住宅ローン担保証券ではなくそれを購入したならば、米国の橋や空港などが整備され、企業の自社株買いが膨らむことはなかったかもしれない。しかし、そんな話をしても後の祭りだろう。


インフラ投資と言えば、足元でトランプ政権でも議論が下火になった感は否めず。足元、米中通商協議をはじめとした通商政策で手一杯であり、かつモラー特別検察官のロシア疑惑最終報告書の公表も控え、新たな一手を打ち出すのは困難なのでしょう。逆に言えば、敢えてロシア疑惑の最終報告書に合わせ臭いものに蓋をするかのように、トランプ大統領が具体策なしのインフラ計画を言及する可能性も。一般教書演説でもインフラ計画に言及しており、2020年の大統領選を控え無視できず、遅くとも下半期入りには詳細案を公表してもおかしくありません。

(カバー写真:Lorie Shaull/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年3月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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