目的はなんだ?被災者へのNHK「東京オリ・パラ」アンケート

2019年03月11日 06:01

3月9日のNHK7時のニュースは「東京五輪・パラ『復興の後押しにならない』が6割 アンケート」とのリードで次のように報じた。

東日本大震災から、まもなく8年となるのを前に、NHKが岩手・宮城・福島の被災者にアンケートを行ったところ、政府が「復興五輪」と掲げている東京オリンピック・パラリンピックについて、4割近くの人が楽しみにしていると回答した一方で、6割近くの人は被災地の復興の後押しにならないと感じていることが分かりました。

東京・渋谷のNHK放送センター(写真AC:編集部)

聞いていて何か違和感を覚え、なぜだろうと考えて、「一方で」の前後が対句になっていないからだと先ず気付いた。「4割近くの人が楽しみにしていると回答した一方で」と来れば「X割の人が楽しみにしていない」とすべきだし、「6割近くの人は被災地の復興の後押しにならないと感じている」と来るなら「一方、Y割の人は復興の後押しになると感じている」とすべきではないか。

次がアンケートの目的だ。

「政府が平成27年11月に閣議決定した東京オリンピック・パラリンピックの基本方針を踏まえて、『被災地の復興を後押しするとともに、復興に向かいつつある被災地の姿を世界に発信する』と掲げた国の理念が実現されると思うか尋ねた」

訳だから、例によってそう閣議決定した政権の批判が目的なのだろうと感じた。

そこでNHKに聞いてみた。アンケートの目的とこの対句を成していない語法の意図だ。すると今日10日に以下の回答を頂戴した(太字は筆者)。実に早い。

NHKの番組をご視聴いただき、ありがとうございます。お問い合わせの件についてご連絡いたします。NHKでは、ニュース報道については、報道機関として自主的な編集判断に基づいて放送しています。なお、個別のニュースの編集判断につきましては、お答えをしておりません。

ご参考までに、「東京オリンピック・パラリンピック」に関するアンケートにつきましては、NHKオンラインに掲載しておりますので、よろしければご覧ください。

今後とも、NHKをご支援いただきますようお願いいたします。お便りありがとうございました。NHKふれあいセンター(放送)

「木で鼻を括る」事例の模範解答はこう書く、といわんばかりの内容で思わず唸る。そのうえ支援の要請までするとは見上げたものだ。NHKの報道姿勢などに納得がいかなければ受信契約しなくて良いとの最高裁判決があるらしい。そうしようかなとも思う。が、NHKに質問する楽しみも捨てがたく、迷う。

都知事選FBより:編集部

復興オリ・パラといえば誕生直後の小池都知事を思い出す。ボート競技を被災地の福島で、と発案し県知事の案内で現地を視察したことがあった。如何にも小池さんらしい受け狙いの思い付き。うろ覚えだがお台場は風が強い上、海水でボートが傷むなどの課題もあった。が、コンパクトが売り物なのに何だ、と反対の声が直ぐに上がった。

筆者は「やればっ、距離は問題じゃない」と思ったものだ。なぜなら自転車競技は確か修善寺。伊豆と福島、距離は福島の方が遠かろうが時間はどうだ。伊豆方面は車が混むし、新幹線も熱海で乗り換えだ。福島は高速でも新幹線でも便が良い。余り変わらないではないかと思った。が、予算問題などもあり結局元の鞘に納まった。

そもそも「被災地の復興の後押し」といったところで、被災地にこのような意味での具体的な恩恵などないことは誰もが当初から判っていたこと。だから閣議決定は後段で「復興に向かいつつある被災地の姿を世界に発信する」としているのだろう。

つまり、海外からのお客様に東北に足を運んでいただいてありのままを見てもらい、復興振りへの称賛をもらえればそれをさらなる励みにし、復興が進んでいないとの批判があればそれを叱咤激励と受け止めてさらなる復興に歩を進める、そういった意義ならあるはずだ。

が、先に挙げたアンケート記事の内容を読み進めると次のような記述がある。

こうした回答の理由を複数回答で尋ねると、「復興五輪は誘致名目にすぎない」が53.9%と最も多く、「経済効果に期待が持てない」が51.6%、「復興のための工事が遅れる」が51.3%に上ったほか「復興の途上で、開催時期が早すぎる」が38.1%、「五輪のことを考える余裕がない」が34.5%などとなっています。

自由記述の中で、岩手県一関市の71歳の男性は、「東京だけ『復興五輪』と銘打って、東北の被災地は『置いてきぼり』という感がぬぐえず、手放しで喜べない」とつづっています。

それぞれのご意見にそうだろうなあ、と同感し、また、お気の毒にと同情する。が、一方でまたNHKお得意の手法かと鼻白みもする。「復興オリ・パラ」の理念がそもそも先述のようなのだから、それどころでない被災者の方の思いとはそもそも噛み合わない場合があるに決まっている。

NHKは折角4,400人もの被災者を対象にしてアンケートをするのなら、やるせなく気の滅入るような手法ではなくて、皆の気持ちがより前に向くような編集判断に基づいてアンケートをし、報道するべきだ。何があろうと東京オリ・パラは行われるし、被災地の早期復興が必要なことも自明なのだから。

復興問題を報じるなら、東京オリ・パラに水を差すようなこんな形で被災者を巻き込むことはやめて、正攻法で現状を取材報道し、是々非々で政府の対応を批判し、そして提言するような編集判断をNHKにはお願いしたいものだ。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。

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