確率・統計が投資の神様バフェットをビッグにした

バフェット氏ツイッターより:編集部

投資の神様ウォーレン・バフェットは、「投資をするのに高等数学が必要なら、私はいまだに新聞配達をしていただろう」というジョークをとばしている。

実際、私の35年以上におよぶ投資人生(バフェットの半分ほどしかないが…)においても、高等数学が必要な場面に遭遇したことが無い。

一時<金融工学>なるものが流行って、ディーラーや経済学者がやたら難解な数式を振り回して暴れたが、投資ではほとんど成功できなかった…ノーベル賞経済学者を集結させたLTCMは、金融業界を揺るがすような破たんをしている。

バフェットが鋭く指摘するのは、「目の前に2メートルの柵があれば、それをよじ登ろうとせずに、周りに30センチの柵が無いか探すべきだ」ということである。私は、同じことを「鼻からうどんを食べる必要は無い」と言っている。

難しい話をされると、世の中の人々は「何かすごいことを言っているんだ」と思いがちだが、
真実・真理とは極めて単純であるはずだ。

そして、投資の世界では(よく探せば)30センチの柵が見つからないことはまずない。だから、足し算。引き算、掛け算、割り算の四つができれば、高等数学など知らなくても、バフェットのような偉大な投資家になれるのである。

ただし、一つだけ欠かせない素養がある。それは「確率」の概念である。もちろん、数式としては前記の四つだけで十分である。

しかし「確率」というものは、人間の直感に反するので、ほとんどの人が間違って理解している。しかも、数学界ではでは一段低く見られている。

ギリシャ時代に遡る「定理・公理」という大義名分を持つ公式に基礎を置く伝統的数学に対して、確率は16世紀の数学者カルダーノによって、はじめてまとまった体系が整備された新しい学問だからである。

しかも、カルダーノは本業が医者でかつ賭博師でもあり、確率の理論はギャンブルの実践の中で鍛え上げられた。だから、伝統的数学者が毛嫌いするのも当然かもしれない。

逆に言えば、「確率」ほど実践的な数学は無いということであり、「確率」を正確に理解できれば、直感で(間違った理解で)取引をしている投資家(ギャンブラー)をしり目に大成功できる。

バフェットは、いわゆる株式(企業)への投資でも「正しい確率」の概念によって、大きな成功を収めているが、見過ごされがちなのは、保険ビジネスでの確率の活用である。

バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、投資会社と思われがちだが、米国でバークシャーの証券分析を担当するのは「保険会社」を専門とするアナリストである。つまり、バークシャーは保険ビジネスが主要事業なのだ。

GEICOのように一般顧客に自動車保険を販売するビジネスの規模もそれなりに大きいが、基盤となるのはアジット・ジャイン率いる損害保険ビジネスであり、その中でも「再保険」が高い収益を上げている。

保険とは要するに「逆ギャンブル」である。つまり、「当たらなければ儲かる」仕組みだ。だから、<どのくらいの確率で当たって、その時にどのくらいの損が出て、それが(確率的に)払い込まれる保険料と見合うのか>を見定めるのが、損益の分かれ目だ。

バフェットが、スカウトしたアジット・ジャインは、この「確率」のセンスが抜群で、他社がしり込みするような保険を「(実際のリスクよりも)はるかに高い保険料」で引き受けて多額の利益を得た。

直感的には確率が高くてリスクが大きく見える保険も、きちんと確率的に分析すれば本当のリスクは少ないことを理解しているからできる技である。

株式投資では「当たればもうかる」のだから、保険よりももっとわかりやすい。

バフェットが「他人がパニックに陥ってろうばい売りをしているとき」に買い向かうことができるのも、正しい確率をきちんと理解しているからである。

ニュートン4月号では、この確率とそれに深く関係する統計について、極めてわかりや好く明瞭にまとめている。

★本記事は、人間経済科学所HP<参考書籍等紹介>内の書評『ニュートン2019年4月号 確率・統計』を加筆・修正したものです。

大原 浩(おおはら ひろし)国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー
1960年静岡県生まれ。同志社大学法学部を卒業後、上田短資(上田ハーロー)に入社。外国為替、インターバンク資金取引などを担当。フランス国営・クレディ・リヨネ銀行に移り、金融先物・デリバティブ・オプションなど先端金融商品を扱う。1994年、大原創研を設立して独立。2018年、財務省OBの有地浩氏と人間経済科学研究所を創設。著書に『韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか』(講談社)、『銀座の投資家が「日本は大丈夫」と断言する理由』(PHP研究所)など。