スリランカ爆発:宗教色深める「国際テロ」のトレンド

スリランカの最大都市コロンボなどのキリスト教会や高級ホテルで今月21日、テロとみられる計8回の爆発が起き、24日現在、日本人1人を含む359人が死亡したというニュースは世界を震撼させている。同国国防次官は、「今回のテロ事件は3月15日に発生したニュージランド(NZ)銃乱射事件に対するイスラム過激派の報復テロの可能性が考えられる」と述べている。NZ中部のクライストチャーチの銃乱射事件は、白人主義者で反イスラム教の犯人が2カ所のイスラム寺院(モスク)で銃乱射し、50人が死亡した事件だ。

スリランカの爆弾テロ事件で嘆き悲しむ犠牲者の親族ら(バチカン・ニュースのHPから、2019年4月23日)

現地からの情報によれば、スリランカ内のイスラム過激派「ナショナル・タウヒード・ジャマア(NTJ)」による犯行と見られている一方、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)は「スリランカで有志連合の国民とキリスト教徒を狙ったのはISの戦闘員だ」と犯行声明を出している。

スリランカのテロ事件の詳細な情報はコロンボからの現地情報に委ねるとして、「国際テロ」事件の過去の動向を振り返ると、明らかに一つのトレンドが浮かび上がってくる。

1)「小規模なテロ事件」から「大胆な計画的、組織的テロ」に移行

2)世界の耳目を奪うために「無差別テロ」や「トラック車両突入テロ事件」
①フランス革命記念日(2016年7月14日)、同国南部ニースのプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近でトラック突入、84人が犠牲
②同年12月19日、ドイツのベルリンのクリスマス市場で大型トラックが突入、12人死亡
③スペインのバルセロナで2017年8月17日、ワゴン車が市中心部の観光客で賑わっているランブラス通りを暴走、13人が死亡

3)襲撃対象を「宗教関連施設」に集中
①フランス北部のサンテティエンヌ・デュルブレのカトリック教会で2016年7月、2人のイスラム過激派テロリストが神父を殺害
②昨年10月27日、米ペンシルバニア州ピッツバークのシナゴーク(ユダヤ教礼拝所)の襲撃事件(11人が死亡)
③NZの2カ所のイスラム教モスク襲撃
④スリランカの3か所のキリスト教会爆発テロ事件

もう少し詳細にみると、テロリストは、モスクやキリスト教会が宗教的行事を行っている時を選んで襲撃している。

①NZの場合、「金曜礼拝」時だ。イスラム教徒にとって一週間で金曜日の祈祷集会は最も重要な宗教行事だ。
②シナゴーク襲撃事件ではユダヤ教の「安息日の礼拝」中。
③フランスのカトリック教会襲撃事件では教会の「朝拝の礼拝」時。
④今回のスリランカではキリスト教会最大のイベント、「復活祭」の記念礼拝中。

この一連の流れから判断できることは、テロリストは襲撃対象を宗教関連施設に絞る一方、襲撃時期も宗教的イベントの開催中を選んで実行していることだ。もちろん、スリランカの場合、3カ所の高級ホテルが同時に襲撃されているから、イスラム過激テロ組織の伝統的な襲撃対象、欧米社会のシンボルを攻撃するという目標は依然、失われていない。

次は、なぜ、テロリストは宗教関連施設を襲撃するのだろうか。イスラム過激派テロ組織にとって異教徒のキリスト教会は最大の憎悪対象だ。同時に、テロを実行する側にとって宗教的に表現すれば「聖戦」だ。聖戦意識はテロリストたちの憎悪、敵愾心、戦闘意識を否応なく高揚させる。

テロの場合、襲撃対象を「ハードターゲット」と「ソフトターゲット」に分けられるが、政府機関や公共機関は前者でテロ対策も厳重だ。一方、劇場やスポーツ競技場などはソフト・ターゲットで、テロ対策は難しい。2015年11月13日、パリのバタクラン劇場で起きたテロ事件はその典型だ。

国際テロで宗教関連施設を狙うテロ事件が多発してきたのは、「襲撃しやすい」という物理的、外的な条件が考えられる。治安関係者が全ての宗教関連施設を警備することは実質的に不可能だ。どうしても警備体制に隙間が出てくる。そのうえ、一度の襲撃で「無防備な多くの信者を殺害できる」からだ。

ちなみに、5月5日から6月4日の1カ月間、ラマダン(断食月)だ。この期間、イスラム教徒はモスクに集まり、断食明けをする機会が増える。NZのモスク銃乱射事件のように、イスラム教徒を狙ったテロ事件が発生する危険性は高まる一方、イスラム過激派の宗教熱が高揚し、テロなど戦闘的な言動に走りやすい。国際テロ対策からいえば、「ラマダン」は危険な時期だ。

国際社会は宗教戦争の様相を一層深めてきた「国際テロ」に対し、これまで以上に警戒が欠かせられない。特に、2020年東京夏季五輪大会を開催する日本は「国際テロ」の新しい動きには十分注意を払う必要がある。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年4月25日の記事に一部加筆。