日産・西川社長は年俸5億円の仕事をしていない

2019年04月28日 12:30

有地浩氏との議論は、彼自身も言っているように、①日産の業績の低下が顕著であること、②ほぼ半数近い株を保有している大株主のルノーは、日産との経営統合をやろうと思えばいつでもできること、③ゴーン銭ゲバ説は誇張されている、④経営統合に反感を抱くのは、現実を見ない愛国主義だ、⑤西川社長一派はゴーン元会長の不正を見逃した経営責任があるので彼らを更迭すべき、という点において一致している。

臨時株主総会で発言する西川社長(日産YouTube)と解任されたゴーン前会長(日産サイトより):編集部

この5点はしごく当たり前のことだが、多くの日本人、それもマスコミの経済関係の人も含めた会社法の仕組みがわかっているはずの人までが認めたがらない点であって、それを理解せずにこの問題を論じるなど論外と思うことばかりである。

にもかかわらず、結論が違うのは、ひとつは、「経営統合」の意味について、有地氏がルノーによる吸収のようなイメージをもたれているからではないか。

その点については、26日の読売新聞が、ルノーが対等の立場の持ち株会社をシンガポール、オランダ、スイスあたりにつくろうと日産に提案したと報じているので、違っていると思う。

となると、違いは、急ぐか、急がないかである。有地氏のイメージは、6月の株主総会時かそれよりあとか知らないが、西川氏を退任させて新しい日本人社長を選び、時間をかけて合意点を見出していくと言うことだろうか。

それに対して、私はそんなことしていたら、業績が悪化するばかりということもあるし、西川社長が、ゴーンの罪状を立証するために、世界中で仕事ほったらかし社員100人以上に何十億円もコストかけて(人件費だけでもそのくらいとの外国報道があったが、法律事務所への支払いやその他の経費も相当なものだろう)、検察の捜査費用を分担しているわけである。

しかし、その試みが成功したとしても、ゴーンからどれだけ取り戻せるかは疑問だし、日産のイメージ低下によるダメージは、ゴーンから取り戻せる額よりはるかに大きいだろう。

そもそも、ゴーンのやり方が不明朗だったことは間違いないし、それを許した西川社長自身の責任も重大だが、その結果、日産に損害が生じたかどうかは極めて怪しい。とくに中東ビジネスでゴーンの郷に入れば郷に従え的なビジネスは、少なくとも結果を出していたのである。

また、私が最初からいっているように、ゴーンが役得を許さないフランスの経済風土がゆえにルノーから引き出せないフリンジベネフィットを日産から引き出す代わりに、ルノーに対して日産を擁護する経営をやっていたのだから、むしろ日産は十分にもとをとっていたように見える。そういうなかで、日産が民事上、ゴーンから取り戻せるかは疑問だし、ゴーンを刑事被告人にすることで、ゴーンの支払い能力をどんどん低下させ、また、中東などでのビジネスも失っているように見える。

昨年11月、ルノー工場を訪れたマクロン大統領を案内するゴーン氏(フランス大統領府動画より:編集部)

また、マクロンがゴーンに要求したのは、ゴーンがいなくなっても三者連合がうまく動くように、①後継者を育成しろ、②連合をゴーンのカリスマでなく仕組みとして不可逆的に維持できるように考えろ––ということで、これは、マクロンで無くとも日本政府だってそう要望すべきことだ。

ところが、西川社長はそれを拒否し、株式のほぼ半数(しかもほかに大株主はいない)をもっているルノーの干渉を受けずに日本人だけでやりたいらしいが、それが可能でもないし、また、この厳しい世界的な生き残り競争に勝てるのか。

トヨタでも年俸10億円でルノー出身の副社長を雇ってるというのに、日本人だけでやれるはずがない。残念ながら日本はまだそういう人材を育成できずにいるのである。ゴーンの連れてきたムニョスはさっさと現代自動車のCOOになったが、ポストを日本人が取り戻すという感覚で有能な外国人を追い出してどうして会社の未来があるのだろうか。

また、有能な外国人を雇うにもゴーンやほかの役員に対する仕打ちをみれば誰も応じないだろうし、日本の他社からも純血主義の日産には無理だ。

そして、西川社長の命令で会社のためにはなんらの利益ももたらさないゴーンの不正追及に精を出し、ゴーンやルノーに不利な証言をしないと左遷されそうという立場に社員や取引先を追い込んだら、正常にルノーが株主としての主張をしたときには居づらくなってしまう。

そういうなかでは、私は時間をかけずに、最終的な着地点を示して、手際の良い経営統合をして、西川社長やその類いの古い日産の遺伝子をもつ人材が妄動するのを排除した方が良いと思うし、そうしないと、日産の社員にとっても不幸だと思う。

ゴーン会長の2017年度の年間報酬は7億3000万円で、西川社長は5億円だが、これは検査不正問題で減額されたもので、本来は7億円くらいなのかもしれない。

しかし、どう考えても業績が悪化し企業イメージを悪くしてもゴーンの不正追及とルノーとのいっさいの話し合いを拒むという西川社長の仕事がそれに値するとはみえない。

ルノーが示しているという持ち株会社の提案は、ずいぶんと日産に甘いように思うが、なんとか、日産に時間をかけずに前へ向かって進んで欲しいということだろうし、すぐにゴーンに代わる経営者を送り込めないからでもあろう。もしいるとしても、たとえば、受けるかどうか分からないが、トヨタからルロアをスカウトするとしたら、20億円くらい必要なのではないか。

すでに前回の論考でも書いたように、日本人は「みんなで渡れば怖くない」式に厳しい現実をみないことが多いし、曖昧な同意をみせかけてボタージュすることが多い。そこを理解しないと、日産の多くの社員を路頭に迷わすことになりかねないと思う。

写真左から。ルノーのボロレCEOとスナール会長、日産の西川社長、 三菱自動車の益子修会長(日産サイトより:編集部)

技術陣については、ルノーが送り込んだ経営者なりスナール会長が、彼らを安心させることはそんな難しくないと思う。それにスカウトするとしたら中国や韓国だろうが、そちらのほうに魅力を感じるとは思えない。

それから、オマケだが、このところ、やたら、ゴーンの前半はよかったが後半はよくなかったというような論評が多い。しかし、それなら、どうして三菱自動車はゴーンの日産の傘下に入ったのか?そのほうがいいと思ったからではないのか。それとも、日産の内情がひどいことも見抜けないほど三菱自動車の経営陣も、三菱グループも、マスコミも節穴だったのだろうか。後講釈でもこれほどひどいのはあるまい。

また、西川社長はどうすべきだったのかといえば、ゴーンに支出や意思決定の透明化を図りつつルノーに対して経営統合するにしても日産の利益が護られるべく協力してあたるのか、逆にポスト・ゴーン体制へ向けて経済産業省も巻き込みつつマクロンに協力してゴーン体制を清算して新体制を協力して打ち立てる中で生き残るかどちらかが合理的だったように見える。

いずれにしても、検察にゴーンを突き出して莫大な費用を支払い企業の評判を落として何のメリットが日産にあると思ったのか、さっぱり理解できない。

それに、日産においてゴーンのブランドはプラス・イメージだったはずで、たとえ、ゴーンを追い出すにせよ、刑事被告人にするメリットがあったとも思えない。せいぜい、退職金や約束していた顧問料の支払いを減額すれば十分だったように見える。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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