24、25日の露朝首脳会談を前にしてロシアの英字紙ザ・モスクワ・タイムズは「露朝会談でプーチンは金正恩にただのリップサービスだけ与えるだろう」と報じたが、会談結果はその通りだった。
金正恩の首席報道官と言われる韓国の文在寅大統領が先月、米韓首脳会談で手ぶらで帰ったように、金正恩も今回、初の露朝会談で手ぶら状態で帰った。
今回の会談を要約するとロシア側は
①北朝鮮の体制保証を目指す6ヶ国協議の再稼働が望ましい
②朝鮮半島と北東アジア地域の緊張緩和に引き続き協力したい
③ロシアと米国は北の完全な非核化(FFVD)を求める同じ立場であり,核不拡散は共同目的である
④北朝鮮の段階的な非核化を支持する
–などを主張した。
ここで危険なのは、段階的な非核化である。
これは「北の手先」「従北」などと言われる文大統領も主張しており、結局、北の核保有を許容するとの主張に等しい愚策である。北朝鮮が25年以上、米国や国際社会を騙して続けてきた前例に照らして見れば、罠と言えよう。
今回、ロシアは米朝の建設的な対話を希望していると言った。プーチン氏が米国の顔色を伺っていることが分かる。ちなみに、北朝鮮を経由して韓国に向かうガスパイプラインの建設事業と電力、鉄道連結事業及びロシアで働く北朝鮮労働者の年末送還問題についても意見を交わしたが、合意書は無かった。
全てが国連制裁に違反しているので共同声明や共同記者会見も無かった。その背景には、ロシアの主な輸出品である石油、ガスの利権をめぐって米国とロシアは利害が一致しており、米国は国際油価を左右するからだ。米国が国際石油価格の下落を止める見返りとしてロシアに対北非核化圧力を求めたと考えられる。
一説には、核廃棄反対の軍部クーデターを恐れて焦る金正恩がロシアに亡命を打診したとの推測もある。今回の会談でプーチン大統領は金委員長に刀をプレゼントした(ちなみに金委員長も刀を贈っている)。昨年、文大統領が訪露した時もプーチン氏は刀をプレゼントした。ロシアで刀を贈るのは縁を切るという意味もある。刀を贈ったのはロシアの好意を裏切る場合は縁を切るという意味だろう。ロシアとしては今回、「焦る金正恩にロシア皇帝が会ってあげただけでも相当の好意を与えた」わけだから、「好意を裏切る場合は縁を切る」ということになるわけだ。
(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員、分析官歴任)
※本稿は『世界日報』(4月28日)に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。
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