QRコード決済、3つの死角

2019年05月17日 06:01

最近流行りのQRコード決済は、クレジットカードや電子マネーのように専用の端末を置く必要がなく、決済手数料もクレジットカードに比べて低く、LINE Pay、PayPay等に至っては3年間無料となっているため加盟店にとって導入がしやすい。一方利用者にとっては、重く膨らんだ財布を持ち歩かずにすみ、QRコード決済をすれば高率のポイントを獲得できるなど、QRコード決済が他の決済手段に比べて有利な点は多い。

しかしそのようなQRコード決済にも死角がある。その最大のものがセキュリティの甘さだ。

写真AC:編集部

中国での事例が良く知られているが、加盟店が自店のQRコードをテーブルやレジの横に貼り付けておいて、支払う人がスマホにそのQRコードを読み込んでお金をそのQRコードの口座宛に送る方式だと、テーブル等に貼ったQRコードの上に不正を行う者が別のQRコードを重ねて貼って、加盟店ではなく不正者の方にお金が送られるようにする犯罪が多発しているそうだ。

また、支払う人のスマホに表示されたQRコードを店側が読み取って決済をする方式では、店員に向けてQRコードを提示する際に横から、あるいはレジの付近に隠しカメラを設置してQRコードを盗撮し、店が受け取るべき代金を横取りすることも行われていると聞く。

QRコード決済が中国で爆発的に普及したのは、専用の端末が要らないというQRコードの手軽さが大きな要因の一つなので、ICチップを使ったクレジットカードや電子マネーにセキュリティの面で劣るのは、ある意味で当然のことと言える。言い換えれば、クレジットカードや電子マネーの方が、決済手段としては進化しているのだ。

また、こうした原理的な優劣のほかに、制度的な成熟度の面でもQRコード決済はクレジットカード等にはまだ追いついていない。例えばクレジットカードが盗まれたり、カード番号が盗用された場合に、暗証番号を教えるというような極端な落ち度がない限り、被害はカード会社が保険でカバーしてくれるが、QRコード決済について不正があって被害を被った場合、私の知る限り、ほとんどのQRコード決済は補償制度を持っておらず、僅かにLINE Payが上限10万円の補償を規定しているだけだ。だから私はQRコード決済で高額の支払いをしたいと思わない。そうした場合はクレジットカードを使う。

今後はQRコード決済のセキュリティを高めるために、少し利便性を犠牲にしてでも、例えばQRコードに加えてピン(暗唱番号)の入力を必要としたり、生体認証とQRコードを併用するなどの安全策を講じ、併せて不正使用被害の補償制度も整備する必要があるのではなかろうか。

二つ目の死角は、これも最近よく言われているが、QRコード決済は意外と決済が完了するまでに手間と時間がかかることだ。

QRコード決済の支払方法は、店舗側のコードをスマホでスキャンするスキャン支払いと、支払い側のスマホにQRコードを表示させて店舗側がこれを読み取るコード支払の二つの方法がある。後者はPOSレジの改修等を行うことが出来る大規模店舗が中心の方式なので、現状では一般の店舗ではスキャン支払いが行われるのが普通だ。

この場合、レジで代金の支払いを行うお客は、店員に「QRコード決済で」と告げた上でアプリを起動し、次にレジ横にある店舗固有のQRコードをスマホでスキャンし、さらに支払額を自分でスマホに入力した上で金額に間違いがないか店員に目視で確認してもらい、その後にスマホの「支払い」をタップし、支払完了画面を店員に確認してもらい、最後に店舗側に支払い完了のメールが届いて、やっと一連の手続きが終了する。

これだとレジが混雑していたら、QRコード決済に手間取って列が長くなったり、後ろの人の視線を気にしたりすることになりかねない。

Suicaなどの電子マネーやNFCチップが入った非接触型のクレジットカードは、端末にかざすだけで決済が完了するので、どうしてもQRコード決済の方が見劣りしてしまう。

そして三つめはQRコード決済だけの死角というよりは、電子決済全てについての「誤解」と言う方がふさわしい問題だが、決済情報だけではビッグデータとして不足があるということだ。

QRコード決済については中国で、決済情報を基に利用者の信用スコアを作成し、それを金融業や旅行業など様々な分野で活用していることから、QRコード決済によって支払った個人の属性や購入行動などのビッグデータを余すところなく収集できると誤解されがちだが、実際はそうではない。

POSシステムを使っているスーパーやコンビニなどは、当然のことながら、いつどの店で、どの商品が売れたか、そしてポイントカードも併用していれば、誰がそうした購買をしたかというデータも収集できる。これこそがビッグデータというにふさわしいデータだが、QRコード決済のサービスを提供している電子決済企業は、購買日時、店舗、個人の属性や合計金額は把握できるが、購入した商品やサービスの明細はわからない。

このため例えば清涼飲料水を製造販売する会社にしてみれば、どの商品がいつどの店で誰にいくらの値段で買われたかという情報が欲しくても、QRコード決済の情報だけでは、そうした商品別の明細はわからないのだ。

今後技術の進歩とともに、セキュリティを始め上記の欠点は克服されていくと思うが、当分の間は、QRコード決済の死角はなくならないだろう。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト

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