「上級国民」ついに容疑者に:読売が元院長の呼称を変更

アゴラ編集部

東京・池袋で4月、暴走した乗用車に母子2人がはねられて死亡した交通事故で、運転していた飯塚幸三・元通産省工業技術院院長(87歳)について、読売新聞がこれまで使っていなかった「容疑者」の呼称を使い始めたことがネット上で静かな話題になっている。

読売と異なり、NHKは退院時「飯塚幸三元職員」と呼称(NHKニュースより)

読売新聞は事故直後から容疑者の呼称を使ってこなかったが、17日付の夕刊で「池袋暴走、87歳を聴取」と題した記事で、警視庁が任意で事情聴取を行なっていたことを報じた段階から、次のように「飯塚幸三容疑者」と記載(太字は編集部注)。

先月19日に起きた東京・池袋の暴走事故で、警視庁が車を運転していた旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三容疑者(87)を、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で事情聴取していたことが捜査関係者への取材でわかった。

この記事はすでに読売新聞オンラインでは会員限定でしか読めなくなっているが、翌18日朝、退院した直後の速報でも「容疑者」の呼称をつけている()。

東京・池袋で12人が死傷した高齢ドライバーによる暴走事故で、車を運転していた旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三容疑者(87)が18日午前、入院先の東京都新宿区の病院を退院した。

出典:池袋暴走、容疑者が退院…任意で事情聴取受ける(読売新聞オンライン:5月18日)

事故直後から、ネット上では、飯塚容疑者を逮捕しなかったことへの疑問が噴出。読売新聞以外のマスコミも含めて、容疑者という呼称が使われなかった。やがて怒ったネット世論から飯塚容疑者に対して「上級国民」という俗称が生まれ、そうした過程もまたマスコミで話題になった。

数多くの献花がされた池袋の事故現場(5月7日、編集部撮影)

読売新聞は、ネット発で異例の社会的注目を集めたことに反応し、4月26日付の朝刊で「加害者呼称 各紙で違い 池袋暴走事故 肩書か敬称か」と題した検証記事を掲載。ただ、電子版の読売新聞オンラインで会員以外が自由に読める形では公開されなかった。

しかし、ネット世論に配慮したのか、読売オンラインでは10連休明けの5月10日、社会部デスクの足立大記者が「容疑者でなく元院長、加害者の呼び方決めた理由」と題した解説コラムを掲載。この容疑者呼称について、ネット上で読売の判断がようやく注目された経緯があった。

足立記者は、容疑者という呼称が1989年から使われ始めた歴史的経緯も紹介しながら、逮捕や書類送検をされていないことを挙げて、当初、容疑者の呼称を使わなかった理由として次のように書いている。

「容疑者」の法的立場にはまだないこと、本人の正式な弁解もなく容疑の内容をきちんと提示できるには至っていないこと、これらが容疑者を使用しない理由でした。

このコラムの中で足立記者は「呼称は報道機関が独自に判断します」とも説明しているが、読売新聞の「基準」に照らすと、今回の呼称変更は、飯塚容疑者は逮捕や書類送検こそされていないものの、警視庁が事情聴取を行い、捜査対象としての「法的立場」に立たされたと判断したとみられる。

かつて読売新聞社会部に1年在籍した新田哲史・アゴラ編集長は、「自分は警視庁クラブの経験はなく、社会部の同僚ならこう判断するだろうという感覚の話にはなるが」と断った上で、「飯塚容疑者が事故を起こした事実が確定的な上に、警視庁クラブの記者が捜査関係者への取材の結果、ほぼ間違いなく立件するという確証を得たことも呼称変更に踏み切った理由ではないか」と話している。

ネット上では、読売の対応について様々な意見が出た。

バズフィードジャパンの古田大輔創刊編集長は、ツイッターで「容疑があって調べられてるから実質的には容疑者。でも個別ケースを考えると非常に難しい」とコメント。

一般のネット民は、

読売新聞がようやく飯塚幸三 容疑者と報道した。これは評価出来ます。

という好意的なものもあれば、

容疑者では無く敬称を使う言い訳をウダウダ申し述べたばかりの読売が突然飯塚を容疑者と切り捨てた。法制度が機能してない中で民間は忖度しないという突破口になってくれれば。

などと厳しい意見も。

また、読売が容疑者の呼称を使い始めたのに、系列の日本テレビが「元院長」の呼称を使い続けていることに対して、不満を持ち、日テレに抗議電話を入れたとツイートする人もいた。

読売新聞では飯塚容疑者とあるのに朝から’院長’の連呼‼️司会の男性1人だけ事故を起こした男性と、日テレに苦情の電話をしました。被害者家族は容疑者の謝罪を受け入れられないと‼︎

なお、今回の容疑者呼称変更について、読売新聞は20日朝までに特別な説明はしていないとみられ、今後、紙面や電子版で新たに補足記事を出すのか注目される。