私が東京で経営するシェアハウスに家賃を滞納していた方がいました。退去した時に約半年分ぐらい溜めたでしょうか?その後、親が半分払い、残り半分を本人が少しずつ払っており、あとちょっとで完済します。この彼女、どうやって払うのかと思いきや、給与の前借で払ってくれているのです。確かに前借制度は今、かなり普及してきているのですが、我々の年代にはちょっと違和感があるでしょう。
私が80年代初頭にアメリカにいた時、アメリカ人からこんなことを言われました。「給与支払いの頻度は仕事や能力によって変わる。フルタイムのきちんとした仕事の人は月に一度、一般的なスタッフは月二回、季節工などは週給、その場限りの人は日払いだ」と。当時、私の認識は月一度の給与しかなかったのでかなりの驚きだったのでよく覚えています。理由は「貰った給与を全部飲み代に使い、給与前になると食べるものも食べられなくなる人がいるから」と。つまり個人の管理能力が給与システムに反映されていたのです。
日経の18日一面トップ記事「デジタル報酬 広がる スマホで即日、交通費精算も」はまさに給与を前借するシステムですので月一回の給与日を待っていられない方向けのサービスです。が、裏返して言えば、1カ月分の生活ができないほどピーピーだとも言えそうです。
2-30代の人の平均貯蓄額は150万円程度とされますが、貯金ゼロも4分の1ぐらいいます。ほとんど、家計管理ができない状態です。その人たちが更に前借をすれば結局ローンや借金など過去の出費への支払いに押され、未来への支払いができない人が増えているともいえるのでしょう。
これはお金がないから消費が縮こまりやすくなるとも言えます。シェア経済は今や、ごく普通に浸透してきていますが、お金がないから資産として買えないのでシェアする、あるいはいったん買ったものをメルカリで売却してまた新しいものを買う流れとも言えます。ミニマリストも同じ。私のシェアハウスに入居する人で引っ越し屋を頼む人は5人に一人ぐらいでしょう。あとはほぼスーツケースです。つまり自分の持ち物はそれしかないのです。
一方、私が近年日本で行う不動産投資のリターン(利回り)は5-10%程度。5%ならば20年でようやく元本回収です。それでも投資をするのはそれを必要とする人々がいるからで気の長い話をしています。
多くの若者が目先のお金に飛びつく時代に20年間資金を寝かせ、果報は寝て待てをビジネスとして忠実に行うのはなぜでしょうか?それは将来への投資と考えるからでしょうか?今、世の中を席巻するような富豪達は先見の目でじっくり時間をかけて育てることで大きく花が咲いています。ウォーレン・バフェット氏などはその典型でしょう。我々は目先のことに振り回され過ぎていないでしょうか?
株式市場と向き合っているとこの時期、突然株価が大暴落する銘柄があります。決算発表絡みで失望売りが出る場合です。先日もNY上場のあるアメリカの金融サービスの会社の株価が一日にして33%下落しました。今期の見通しが悪かったからです。私は即座に調べ上げ、これは成長過程の波動だと判断、すぐに買いを入れました。企業の成長なんてそんなまっすぐな道のりではありません。ベクトルはどっちなのか、その会社の事業は社会が必要としているのか、というマクロを見て企業IRのミクロが単なる歪かどうかを判断するのです。
情報化が進むとどうしても短視眼的モノの見方が生まれてきます。今、急いでこれをやらないとゲットできないといったメディアやSNSの影響も大きいでしょう。ビットコインのような狂乱も個々人が考えているのではなく、サーフィンのように波乗りをしているだけですが、波はすぐになくなってしまうことに気が付いていない人がとても多くなっています。
こんな時代だからこそ20年先を見たいと思っています。カナダで今手掛けている新しい不動産開発と運営事業(高齢者向け施設)は資金回収にはもっと時間がかかります。でもそれには意味があると信じて私は長期的ビジョンで資金を投じます。何時か必要とされることを祈って。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月20日の記事より転載させていただきました。