自民党行革推進本部提言:国民の不信を払拭すべく不退転の統計改革を

今年の1月に注目された厚生労働省の統計不正。3年前から行政改革推進本部の提言を元に取り組んできた統計改革によって問題が明確になったとはいえ、行政の信頼を揺るがす驚愕の事案でした。今回を機に、構造的な問題を解決し、正しい統計を元にした、エビデンスベースドポリシーメイキング(EBPM)を推進すべく、行政改革推進本部として提言を提出しました。以下提言本文を掲載します。

統計改革・EBPM推進検討チーム提言 ― 国民の統計不信を払拭すべく不退転の統計改革を ―

令和元年6月11日
自由民主党行政改革推進本部
統計改革・EBPM推進検討チーム

行政改革推進本部は過去3回にわたって統計改革・EBPM推進の提言を逐次行ってきた。これらの提言を踏まえ、政府は統計改革推進会議を開催し一昨年に最終取りまとめを行った。その上で、GDP統計のSUT体系への移行をはじめ経済統計の抜本改革が進み始めるとともに、各省の統計幹事・政策立案総括審議官の設置や統計委員会の権限強化、政府統計の品質向上の取り組み等が本格化した。

その矢先に、厚生労働省の毎月勤労統計を始めとする各種の統計の問題が浮上した。統計委員会での集中した議論を通じて長年にわたる不正が発覚した事案は、数次にわたる我々の統計改革の提言が実を結びつつあると捉えることもできる。しかしながら、今般明らかになった事実、すなわち、現場職員から幹部職員にいたる統計業務への理解や知識が不足していること、データの修正に止まらず、他のデータを用いて欠落した統計の補正や推計ができる専門的な統計人材が不足していること、統計作成プロセスがブラックボックス化しており外部のチェックが働き難くなっていること、統計人材の不足を補うのに十分なデジタル化が進展していないこと等は我々の想像を大きく超えるものであった。

そこで、国民の統計不信を一刻も早く払拭すべく、当チームは有識者や政府へのヒアリングを重ね、下記のとおり提言する。

(1)政府統計体制の強化

政府統計は、政府に限らず、国民や企業の各種活動の指針となる共通財産であり、調査に当たっては国民に義務や負担を課すものである。したがって、統計行政、統計改革は、国民の負託を受けた政権、内閣が責任を持って推進することが基本となる。一方、統計行政、統計改革には、高度な専門性も必要であり、専門家による統計技術的な提言、チェック体制を併せて整備しなければならない。

このため、今般、統計改革を更に進めるに際し、改めて、閣僚と有識者からなる統計改革推進会議を強化し、ユーザーの声も踏まえた総合的な統計改革を推進するための活動を恒常化する。具体的には、統計幹事に加え、ユーザーである政策立案総括審議官を、会議の「目」、「耳」として活用し、統計の体系的整備と個別統計の改善に関する課題を産学官から継続的に把握し、外部人材も活用して、対処方針、優先順位等を提言する常設部会を、統計改革推進会議に早急に設置する。また、本部会を、統計改革や更にはEBPMに関する各省の取り組みのピアレビューの場として活用し、各省の底上げを図る。さらに、部会の提言を、専門家や実務家を集めて集中的に解決する枠組みも整備するとともに、これらを支える常設の事務局体制を充実する。

統計委員会については、まずは、昨年の法改正で設けられた機能や組織を的確に活用していくことが重要である。このため、統計委員会と各省の「統計技術面のリエゾン」として、かつ、統計委員会による「統計技術面からのチェックの最前線」として、また、各省の統計幹事の「統計技術面からの指導者」として、統計委員会が若手専門家(外部人材)をプールし、各省に、いわば「統計技術面からの外部監査役」として派遣する。その際、このような「統計技術面からの外部監査役」が、各省で、各省の論理に振り回されることなく、自律的に活動をすることができる環境を整備する。

さらに、体制の弱い省が、総務省統計局・統計研究研修所、(独)統計センターと一体的に統計を企画・調査・作成する「共同化」を検討し、リソースの有効活用を図る。

なお、統計庁の設立等による政府統計の「一元化」についても議論したが、組織を大幅に改編するよりも、まずは現在進行中の統計改革を着実かつ加速度的に実施することで統計行政の集権化を進める方が、実質的に政府統計の改善につながるとの意見が多く聞かれた。

(2)政府統計の見える化

政府統計の作成方法やプロセスが不透明な場合、利用者には、どのような利用が可能か、許容されるかがわからず、数値に疑問があっても検証困難で、利用し難い。これが、統計の利用が進まず、利用者による外部チェックも不十分であり、また、利用されても、統計に対する不信が生ずる原因の1つとなっていると考える。

このため、すべての政府統計について、作成方法やプロセスを原則オープン化するとともに、各省が統計を作成した際には、それらのチェックを行い、その結果を併せて公表し、見える化を行う。これは、再発防止の観点からも効果的であると考えられるので、必要なチェック体制を早急に整備する。また、作成した統計が埋もれたり、利用者を意識せずに漫然と前例踏襲で作成されたりすることのないよう、作成した統計の洗い出しや利用状況のチェック、それらの見える化を計画的に行う。さらに、その結果を踏まえ、利用が見込まれない調査や項目は削減することにより、筋肉質な政府統計を確立し、削減分を新たな統計の財源の一部に充てる。

これらのチェックは、各省の単なる内部チェックとならないよう、また、各省間でチェックのレベルをそろえられるよう、一元的かつ強力な体制とする必要があることから、内閣官房統計改革推進室にチェック体制を設けて、そこから各省に派遣された者が中心となって行う。なお、当該チェック体制には、外部人材(民間人材)を積極的に登用する。

(3)政府統計のデジタル化

統計職員の調査、作成の負担を軽減し、企画や改善に注力させるとともに、統計利用者の利便性を向上するためには、政府統計のデジタル化が重要である。特に、誤りや改善の指摘は、利用者の指摘に負うところも大きく、利用促進は、信頼確保や改革の基盤としても重要である。確かにデジタル化は、一時的に予算がかかる場合もあるが、長期的にコストを下げ、職員の有効活用や統計の改善につながるため、集中的、計画的に行うべきである。

このため、統計調査のオンライン化について、法人対象の原則オンライン化の実現を始め、聖域を設けず、計画的に促進する。また、目視によるデータチェックなど未だに残っている手作業を、原則としてシステム対応とする、調査項目や調査方法の変更に柔軟に対応でき、システムエラーのチェックも容易となるよう、旧式や使い勝手の悪いシステムを洗い出すなど、システム部門の支援・チェックを得つつ、作業手順やシステムの点検を行い(BPR)、業務やシステムの刷新を、内閣官房統計改革推進室が中核となって、計画的に進める。こうした取り組みを通じて、統計調査の原票管理の杜撰さも解決されていくことが期待されるが、その過渡期においては、各省が原票管理を徹底することが重要である。

また、統計データの提供は、過去のデータも含め、利用しやすい形で標準化し、機械判読可能な形式で公表することや、利用者が自動取得可能な形での提供(API機能の構築)を進め、利用者が統計を地理情報化するためのシステム等の提供も充実する。さらに、利用者による加工を念頭に、調査票情報のデータ形式の統一化を図るとともに、セキュリティを確保しつつ、調査票情報の二次利用ができるよう、オンサイト施設を拡充する。

このほか、民間のビッグデータや、長年、課題となっているにも関わらずなかなか進まない行政記録情報の利用、今後の統計の作成方法の見直しや業務の効率化につながるAIやRPA(自動化ロボット)の導入を抜本的に進めるため、各府省がバラバラに行っている調査研究の連携・調整を行った上で、大幅に拡充し、政府一体となって計画的に遂行する。

(4)統計人材の育成

政府統計に携わる人材の育成は、OJTや短期間の研修に頼ってきたが、統計組織の規模が小さくなり、特定の者が何度も統計業務を経験することが少なくなった現状では、そのような対応では、問題の発生防止さえままならず、まして、今後の統計改革を支える人材の確保はおぼつかない状況にあり、採用前、採用、育成、活用の各段階における取組を強化すべきである。

このため、大学、大学院に、経験の豊富な各省の実務家を派遣し、統計の作成、活用に関する実務教育を充実する。また、勤務先としての国の統計部門の魅力を向上するとともに、人材を有効活用しつつ、知識経験の豊富な職員を育成するため、各省の統計部門の共同による職員の採用や育成、運用を導入する。さらに、優秀な人材の官民の行き来の垣根の解消を図る観点から、このような職員には、十分な長期研修の機会を付与できるような措置を講じ、民間のデータサイエンティストとしても通用する人材として育成するとともに、高い能力を有し、高度な職務に従事する国の統計職員には、それにふさわしい処遇ができるようにする。こうした取り組みを通じて、高い能力を持つ人材が集まるキャリアパスの確立を図るべきである。

一方、国・地方の統計部門の定員については、合理化を従前の延長で機械的に行うのではなく、調査方法の見直し等の実情に応じて減らすべきところは減らしつつも、時代に対応した調査の見直しや、調査環境の悪化への対応、チェック体制や指導体制の強化等に必要な要員は着実に増員する。特に、各省で統計改革等に関する各種提言を個別統計に反映・具体化することのできる専門性の高い企画要員には、統計改革の成否がかかっており、改革の進捗を踏まえ、定員・人材の両面から計画的に確保する。

最後に、統計人材の育成のみならず、統計の見える化による統計不信の払拭や統計調査の回答への協力態勢など、統計改革の成否は国民の統計に対する理解のもとに成り立つ。政府は、統計に対する国民の更なる理解促進のため、普及・啓発活動に取り組むべきである。

なお、今般の提言は、統計改革が中心となったが、EBPMについても、引き続き推進する必要がある。これは、EBPMの着実な推進こそが政策立案者の統計データに対する意識や関心を高め、ひいては統計の不正や誤りの是正や、品質の改善につながるからである。EBPMの取り組みが、一連の政策立案・実施・評価のプロセスと重複した「作業のための作業」とならないよう、予算要求・査定、政務への選択肢の提供、与党や国会への説明、政策評価や行政事業レビュー等と一体的、整合的な取り組みとするとの観点から、実践事例を踏まえつつ、不断に改善すべきである。同時に、EBPMが、予算削減の根拠に利用されることで各省にEBPMへの萎縮効果が生まれぬよう、気をつけなければならない。

また、職員が、部内の手近な既存データから安易に政策立案を行うこととならないよう、省内のデータの見える化、省内外のデータ案内窓口の充実、データリテラシーの向上等により、部局間や省間のデータ利活用を容易とすべきである。

諸外国では、既に政策立案におけるデータ利活用が進んでおり、特に経済政策を担当する職員には留学で統計やデータ処理を学ばせることや、国際機関でデータの利活用に携わった者を登用することも行うべきである。さらに、中長期的な観点から、事業の中に、その効果の把握に必要なデータ収集や分析も組み込み、合理的な証拠たり得るエビデンスを収集・活用するなど、従来あまり行われていないEBPMの手法についても、必要な試行を行い、課題を着実に整理すべきである。

本提言に関する政府における検討・対応状況については、本チームにおいて継続的にフォローアップを行う。

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小林 史明  衆議院議員(広島7区、自民党)

自民党青年局長代理、行政改革推進本部事務局長。 電波、通信、放送政策、海洋水産政策、社会システムのデータ、標準化に取り組んでいる。2007年上智大学理工学部卒業後、NTTドコモに入社。2012年の衆院選で自民党から立候補し、初当選。第3次、4次安倍改造内閣にて総務大臣政務官(情報通信、放送行政、郵政行政、マイナンバー制度担当)。公式サイト。LINE@では、イベントのおしらせや政策ニュースをお届けしています。登録はこちら


編集部より:この記事は、衆議院議員、小林史明氏(自由民主党、広島7区)のオフィシャルブログ 2019年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は小林史明オフィシャルブログをご覧ください。