知財計画2019、どうにかまとまりました。

知財計画2019。
安倍首相はじめ閣僚が集まった官邸での会議で決定されました。
ぼくが共同座長を務めて10回めの計画です。
最初のラウンドで、クールジャパン政策の一環で和服姿を強要されたので、和服になって10年ということになります。

まず昨年策定した「知財戦略ビジョン」が掲げた「価値デザイン社会」を実現するため、「脱平均」「融合」「共感」の3本柱を据えました。
脱平均:個々の主体を強化しチャレンジを促す
融合;分散した多様な個性を融合し新結合を加速
共感:価値が実現しやすい環境を作る

「価値デザイン社会」はわかりやすく訴求することが課題でしたが、脱平均、融合、共感という、シンプルで、かつ、魅力的な整理にたどりついて、ぼく好みでうれしい。
と同時に、短期の施策をよくその枠組に落とし込んだ。
本計画は事務局・政府及び関係者の労作だと思います。

「脱平均」の施策として、創造性の涵養・尖った人材の活躍、ベンチャーの後押し、模倣品・海賊版対策の強化などが並んでいます。EdTechの活用、STEAM教育、教育コンテンツ・オンラインライブラリー構築を挙げたのがトピックですが、担当が文科省じゃなく経産省とされている点がミソ。

そして海賊版対策。
「効果的な著作権教育の実施、正規版の流通促進、国際連携・国際執行の強化、検索サイト対策、海賊版サイトへの広告出稿の抑制等の対策、その他の実効性がある制度の検討等、関係省庁等において総合的な対策メニューを実施するために必要な措置を進める。」
とあいなりました。

今期は海賊版対策でコンテンツ分野の知財戦略が非常に注目を集め、総合対策が出来上がってきたことは大きな成果だが、知財とITを巡る意見対立も顕在化して、今後の知財戦略・IT戦略を構築する上でも大きな問題提起となりました。引き続き、デジタル時代の知財戦略のあり方を模索していきたい。

「融合」の施策は、オープンイノベーションの促進、知的資産プラットフォーム、データ・AI等の適切な利活用促進に向けた制度・ルール作り、デジタルアーカイブ社会の実現。
情報信託機能の認定スキーム指針の見直し、情報銀行の実装が挙げられている点が目を引きます。
実装、しましょう。

「共感」の施策はクリエイション・エコシステム構築やクールジャパン戦略の持続的強化など。
音楽分野の権利情報データベース整備、国際的な音楽配信サービスを通じた海外市場への進出に必要な外国語メタデータの整備という項目は、ぼくらのアーティストコモンズやSyncMusicにつながるものです。

重要項目が入りました。
「同時配信等に係る著作隣接権の取扱いなど制度改正を含めた権利処理の円滑化について、関係者の意向を十分に踏まえつつ、年度内早期に関係省庁で具体的な検討作業を開始し、運用面の改善を着実に進めるとともに、制度の在り方について本年度中に結論を得る。」

NHKの同時配信を認める放送法改正が成立しましたが、ネット配信のネックが著作権処理。いちいち許諾を要する日本の制度が問題視され、音楽業界など権利者側も制度変更を求める事態となりました。次の大きなテーマです。

また「eスポーツ産業の健全な発展のため、競技大会のガバナンスの在り方について検討する。」という項目が経産省担当として入ってきました。eスポーツ政策の始動です。

「新たなクールジャパン戦略を本年夏ごろまでに策定し、関係省庁が協力して実施する」という項目も入りました。これは平井卓也大臣の肝いりですね。さあて、クールジャパンという名前を変えるところまでやるかな?

そして最後の施策として「クールジャパン人材の育成に資する専門職大学制度の運用」が掲げられました。承知いたしました。専門職大学として設立するiUが、育成に資することとしましょう。

2020年東京オリパラ、2025年大阪万博を見据えて日本文化の発信力の強化を図るとされている。この大きなチャンスを知財戦略にぜひ活かしていきたい。令和のスタートに合わせた新しい知財戦略を進めていきたい。
とりまとめ会合でこう申し上げ、締めました。
おつかれさまでした。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年7月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。