「徴用工」訴訟をめぐって外務省は、日韓請求権協定についての交渉過程の外交文書を公開し、菅官房長官は「韓国にあらためて国際法違反の状況を是正するよう求める」と強調した。
この外交文書のコアとなる韓国の「対日請求要綱」は以前から外務省が情報公開請求に対して公開しており、Wikisourceにも出ている。重要なのは次の部分である。
第5項 韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本国債、公債、日本銀行券、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する。
韓国政府は「徴用工」の未払い賃金を日本政府に請求し、それを元労働者に支払う約束になっていた。今回公開された外交文書には「その他の請求権」に「精神的・肉体的苦痛」が含まれるとした上で「韓国が国として請求し、支払いは国内措置とする」と書かれているという。
これも既知の話で、韓国外務省は「新しく発見されたものではなく、韓国大法院もそれを考慮して最終判決を下した」と反論した。これは事実である。大法院判決が「徴用工」の請求権を認めた根拠は、請求権協定ではないのだ。判決は次のように述べている。
原告らの損害賠償請求権は、日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権である。
つまり1910年の日韓併合は、日本が国際法違反の「侵略戦争」で朝鮮半島を支配した不法行為なので、それに対する慰謝料を請求する国際法上の権利は今も残っている、というのが大法院の論理である。
これはそれなりに一貫している。日韓併合が不法行為だとすれば、それを不問に付したまま国交を回復した日韓基本条約も、それに付随する請求権協定も無効であり、日韓両国は1965年以前の状態に戻って再交渉しなければならない。
だから本質的な論点は、日韓併合は国際法違反だったのかという歴史問題である。韓国政府は「日韓併合条約は武力で強制された条約だったので無効だ」と主張しているが、日本政府は「国際法に照らして有効だった」という見解をとっている。
この点で両国の見解は一致しないため、日韓基本条約では「経済協力」という玉虫色の決着がはかられた。ところが韓国政府は1990年代の慰安婦問題から請求権協定の対象を限定的に解釈するようになり、2005年に盧武鉉政権は「慰安婦は請求権協定の対象外だが、徴用工については決着ずみ」とした。
今回の大法院判決は、外交文書に明記されている徴用工についても請求権協定の対象外とした。これは非常識だが、それを手続き論で批判しても、韓国は応じないだろう。問題は根本的な歴史認識の違いだからである。これはそれほど自明の問題ではないのだ。