先日、ある仲間と出会い、中国の薬物事情について聞くことができました。
我々、日本人は中国は違法薬物に対して厳罰化を貫いていて、売人は「死刑」というイメージが強いですよね。
実際に、日本ではあまり騒がれていませんが、すでに8人の日本人が死刑執行されています。
しかも無実を訴えたまま、ろくな裁判も行われず死刑にされているのです。
これ他国だったら人権問題として大騒ぎになっているはずですよ。
この記事は、7人目の日本人が死刑になった際に報道されたものです。
読むと実に嫌な救われない気持ちになりますが、ご興味のある方はご一読下さい。
中国「秘密裏の死刑」の実態 日本人7人目執行…手紙でSOS、無罪主張かなわず(産経WEST)
インドネシアでも外国人に死刑判決が出て、その中にオーストラリア人が含まれていたことから、オーストラリア政府はもちろんのこと、国連の事務総長や全く関係のないEUまでもが声明を出しました。
インドネシア政府も全く聞く耳を持ちませんでしたが・・・
そしてこういう報道があると、多くの日本人は、
「そうか、中国では厳しく取り締まられ、きっと薬物問題はないんだろうな・・・」
と勘違いし「日本も厳罰化を!」なんてことを言いだす人がいる始末ですが、現実には、こういった厳罰化はうまくいきません。
今回ご本人了承のもと、中国の薬物事情が良く分かるインタビューをとって参りましたので是非ご一読下さい。
彼の名はKさん。
高校を卒業後、3年間のフリーターを経験し、2010年に中国は上海の大学に入学しました。
何故、中国の大学への留学を選んだかと言えば、中国経済が急成長していたことと、当時はまだ元も安く、その上学費も日本の国立大学よりさらに安いので入学しやすいこと、そして、日本での生きにくさも海外に出れば、何か変わるのではないか?と思ったからとのことです。
Kさんはそれまで日本でもちょこちょこと大麻を吸っていたことがあり、中国でも大麻を手に入れようと思いたちます。
そこで、日本で言う「歌舞伎町」の様な繁華街に出向き、「そこにいた悪そうな顔をした奴に声をかけてみた。」そうです。
「ある?」と聞くと「あるよ!どのくらい欲しいの?」と答えてきたそうで、日本の場合は、1gずつとか細かいパケに分けて売っているのですが、向こうでは「小・中・大どのパケがいい?」と聞かれたそうです。
そこで「じゃあ、大きいの」と答えた所、ジップロックの一番小さい袋位の大きさに、パンパンになる位詰まって出てきたそうです。
これで当時のお金で7000円位(今なら1万円位)、概算ですが日本の1/40位の価格だそうです。
品質の方は、「中の中」位。
ただ量を気にせず使えるので、彼曰く「発泡酒的な感じですね。」とのこと。
そしてその人の電話番号を聞き、2回目以降は手に入れたそうです。
受け取りは、彼らのアジトの様な部屋に取りに行くこともあれば、部屋に持ってきてくれたり、どこかで待ち合わせしたりと様々なケースがあったそうです。
そしてKさんは、2〜3か月後にコカイン、ヘロイン、MDMAなどを1~2回ずつ経験してみたそうです。
そこでKさんは私たち依存症界では良く言われる「拍子抜け」の体験をし、「なんだ、言われているほど大したことないな」という思いを抱きます。
この辺、本当に日本の依存症予防教育がなっていないところなんですよね。
「1回でもダメ絶対!」と強調するあまりに、
「1回だけでもめくるめく快感がやってきて、そのとりこになってしまう」
という誤解があるので「なんだ大したことないな。」「別に平気そうじゃん。」となると、
そこから気軽に回数を重ねてしまうようになるんですよね。
Kさんの場合は、もっと刺激的なものを求めて「アイス」に手を出します。
この覚せい剤の別名「アイス」は海外ではよく使われる隠語ですが、日本ではあまり広まっていないので(日本ではシャブですよね)、Kさんは当初「アイス=覚せい剤」だとは分からなかったそうです。
覚せい剤を何故「アイス」と呼ぶのか?と言えば、おそらくやると手足が冷たくなるからだと思われます。
Kさんは、こういった暮らしを続けている間に、彼らのアジトの様な部屋に行った際に、ソフトボール大の覚せい剤があって、適当にさささっと削って、「はい!」っという感じで手渡してくれたそうです。
Kさんの予想ですがおそらく3gくらい入っていたとのことで、値段にして千元(1万円ちょっと)。
日本なら1g、3~4万円と言われていますから、破格の安さです。
これにはさすがのKさんも「あんなの見たことない!」と驚いていました。
また覚せい剤以外にも、大麻がでかいごみ袋に入れられて何袋もころがっていたそうです。
これらKさんが手に入れていた違法薬物のルートは、覚せい剤が北朝鮮から脱北者たちが運び込み、大麻は、ウイグル人達が自分たちの故郷で栽培し運び入れるらしいとのことでした。
話を聞いていると、日本よりはるかに厳罰化が進んでいる中国なのに、日本よりも断然流通しやすく、安く薬物が出回っていることがわかります。
その理由の一つに、警察の賄賂社会があります。
もし、違法薬物を所持していたとしても、その場でお金を渡せば何事もなくスル―されるそうで、実際、Kさんも一度警察に見つかってしまったのですが、その場で日本円でおよそ1万円位の賄賂を渡したら、そのまま行ってしまったとのことです。
それから中国の人達は、他人事に首を突っ込まないという気質の様で、例えばタクシーをチャーターして、後部座席で薬物の売買を行う・・・などというパターンもあるそうなのですが、それでもタクシーの運転手さんは、見て見ぬふりをしているのだそうです。
こうして厳罰化をしても、実際には大した効果はあがっていないのが現実です。
けれども、おそらく「日本の警察は違う!」と多くの方が思われたと思うんですね。
でも、日本の警察だって、裏取引をしたり、賄賂や見返りをもらっている警察官なんかよくある話ですよ。
さんざん映画やドラマにもなっていますが、警察官だってみんながみんな法令順守している訳じゃないし、金に薄汚い人もいれば、金に困っている人もいますからね。
私たちには、ありとあらゆる相談が集まって来ますから、警察に賄賂を渡していたという、元闇カジノ従業員の話も聞けば、元警察官から、そういった癒着の話しも聞きます。
日本の警察が潔癖、高潔を保っている!なんてごく一部の一般市民の幻想じゃないでしょうか?
もちろんそんな人達が沢山いるわけではないし、日本の警察が優秀であることも間違いないですが、あれだけのマンモス組織ですから、完璧なんて有り得ないです。
厳罰化をしても、法の網目はいくらでもかいくぐれるわけで、むしろ禁酒法とアルカポネのように厳罰化でマフィアが大儲け!してしまう可能性もあります。
このように、中国は違法薬物厳罰化政策をとってきていますが、現実には実にたやすく、安く薬物が流通しています。
薬物政策というのは、そんなに単純なことではなく、
- 流通ルートを国際社会で手を結んで断つこと、
- 薬物以外に生活の糧がない、貧困問題を解決すること
- 薬物依存症者を回復させること
といった取組みが実際には成果をあげています。
ご参考までに。
田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト