2020年大統領選挙まであと1年以上の月日があるが、直近の世論調査や政治情勢を分析してみると、世界がどんでん返しする可能性が生じていることが分かる。
そのどんでん返しする可能性とは、2020年大統領選挙・上下両院議会議員でトランプ大統領及び共和党が敗北し、民主党大統領・民主党上下両院支配が確立するというものだ。
各種報道の中にはトランプ大統領の再選確実の報道を見かけるが、それは幾つかの重要な条件を前提としており、現在の選挙情勢の地合いを公平に見たものとは言い難い。
トランプ大統領の全米支持率は40~45%で安定しており、共和党支持者からの支持率は80~90%と一見して歴代大統領と遜色のない数字を出しているように見える。
しかし、トランプ大統領に対する共和党支持者からの支持は、詳細を見ると積極支持・消極支持の2つに割れており、その実態としての勢いは疑問だ。また、大統領に対する不支持を表明する層の有権者の勢いは強く、最終的な投票率次第によって非常に不利な状況となっている。
一方、勝敗を決する全米各地の接戦州(フロリダ、オハイオ、ネバダ、ノースカロライナなど)の世論調査の状況はトランプ大統領と民主党の有力候補者らの数字はほぼ互角である。したがって、特段トランプ大統領不利の状況とは必ずしもなっていない。
しかし、8月頭に公表された一部の世論調査では共和党にとっての本丸であるテキサス州で、トランプ大統領はバイデン・サンダース両候補に数字で負けていることは重要だ。
前回の大統領選挙は五大湖周辺の製造業地帯であるラストベルトの支持者を奪い合う戦いであったが、最近では南部のサンベルトにおける人種構成変化、都市からの移住者増加、そしてトランプ関税への批判が高まりつつある。その影響で共和党側は、サンベルトを守りながらラストベルトに攻め込む、という利害が異なる両者のバランスを取る難しい選挙戦を強いられている。つまり、選挙戦の難易度は格段に上がっていると言っていい。
トランプ大統領が急速にナショナリスト姿勢を強めている背景には、中国が貿易戦争で安易に妥協しない姿勢を示していることから、自らの対中政策の正当性をラストベルト・サンベルトの有権者双方にアピールし、対中弱腰姿勢が想定されるバイデンに対抗することに迫られているからだ。特に関税に嫌気が差しつつある共和党のお膝元の支持者・支持母体らの理解を得ることは喫緊の課題となっている。
上下両院議会議員選挙の状況は更に厳しい状況となっている。
上院構成は、現在は53対47で共和党が過半数を握っている。しかし、2020年の改選議席3分の1は共和党大勝年の入れ替え選挙となる。その内訳は共和党改選人数は23に対して、民主党改選人数は僅かに12である。
共和党側はコロラド、メイン、アリゾナの3州で大苦戦の見込みであり、現職が引退を表明したジョージア州、農業州のアイオワ州なども厳しい戦いとなる可能性が高い。そして、ケンタッキー州の上院トップのミッチー・マッコーネル院内総務の支持も危うい状況となっている。
一方、民主党側はアラバマ州1州のみが落選可能性があるだけで、その他の州の状況はほぼ盤石だと言える。つまり、上院議員選挙において、共和党は上院トップが落選した上に過半数を切る可能性が現実のものとなっている。
下院構成では共和党は既に過半数割れしており、多数派を取り戻せるかが勝負の課題となる。ただし、こちらも情勢は比較的厳しい見通しだ。
共和党候補者はかつては民主党候補者に資金面での優位を得ていたが、急速に成長している民主党の左派系ネット献金システムによってその状況は逆転している。具体的には、2018年中間選挙時には接戦選挙区の共和党現職候補者を民主党の新人候補者が資金力で上回ったこともあり、多くの共和党議員が民主党新人の勢いに膝を屈した。その状況は現在でも大きな変化は起きていないどころか、民主党大統領候補者らはネット献金を更に活用する選挙戦に拍車をかけている。
下院共和党はトランプ大統領の歳出拡大・債務上限引き上げなどの大きな政府傾向に反対する姿勢も強く、政局運営上も必ずしも政権とは一枚岩と言えない厳しい立場となっている。そのため、今後も選挙に向けて民主党から過半数を取り戻す大きな流れが作れるか、というと疑問が残らざるを得ない。
以上のように、トランプ大統領・上下両院共和党はいずれも2020年大統領選挙において民主党に敗北する可能性が十分にある状況だ。今後、様々なイベントが選挙戦当日までにあるだろうが、選挙戦を取り巻く基本構造は1年で変わることはない。
筆者は民主党政権よりも共和党政権のほうが日本の国益にかなう可能性が高いと思う。しかし、米国の国政選挙を通じて世界が激変する可能性を見据えることも重要である。日本政府には米国の政局状況を踏まえた柔軟な対応を講じることを求めたい。