2歳の子供を里親として預かった知人から相談を受けたのは1ヶ月ほど前。
ある日突然、親権を持つ実母が亡くなり、親権相続した祖父が登場して、引き取ると言い出したという。それが祖父の自宅での引き取りではなく、祖父自身が生活保護を受けていているため、子供を擁護施設に入れるというのだ。
里子が知人のもとにやってきたのは、わずか2歳の時。それから3年間、知人夫妻は我が子同然に大事に育ててきた。
今は5歳となった幼児がもっとも親を頼りにする時期に、ある日突然、祖父の事情によって、慣れ親しんだ家から、両親や友達から引き離され、養護施設に入れられた子供の不遇。 愛情を注ぎ、子供との未来を夢見ていた里親の語りつくせぬ無念。 私も相談を受けた時から、胸が張り裂けそうだった。
親権を持つ実母が、養育環境を整え、自宅で引き取るというなら、理解はできる。頻繁に会いに来ていて、子供が懐いている祖父が、自宅で引き取るなら、まだ我慢ができる。 この3年間、この子は知人の里親の元で、私立幼稚園に通い、海外旅行にも行き、里親の一人娘として恵まれた環境で家族の絆を深めて来ていた。
それが、 自宅でもなく、養護施設にそのまま入れてしまう祖父の親権を最優先に、里親から引き剥がしてしまっていいのだろうか。 児童相談所は子供の意見は聞いたのだろうか?
5歳だから意見を聞かなくていい、ということはない。
なお、児童福祉法28条には、
保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、第二十七条第一項第三号の措置を採ることが児童の親権を行う者又は後見人の意に反するときは、都道府県は、次の各号の措置を採ることができる
と定められていることから、自宅での引き取りではなく、養護施設にそのまま入れてしまうということが『著しくその監護を怠り』に該当しないのだろうか。
このケースは多くを物語る。親権は何よりも優先され、里子と里親の絆は軽視されて良いのだろうか。児童相談所の所長が28条を盾に、親権を持つ祖父を説得し、里親のもとに里子をおいておくことは出来なかったのだろうか。そのジャッジは一体、誰に任せれているのだろうか。国か都か児相長か、それとも裁判所か。
いかなる環境におかれている親権者だとしても、親権を有するものであれば、いつでも里親から里子を連れ戻すことができる、とするなら、里子に深い愛情を抱く里親は安心して里子を引き受けることができなくなるだろう。
もちろん、私は、里子として出した実親が、子供を取り戻せないようにすべきだ、などと言っているのではない。実親の養育環境が整い、里親との協議のもとに納得の上で、子供が実親のもとに帰るケースもあってしかるべきだ。 しかし、今回のケースはどうだろうか。
くどいようだが、子供を取り戻すのは実親ではなく、親権を相続した祖父であり、とても幼稚園に通わせている里親に比べても子供を十分に養育できる家庭環境にあるとは言えないし、養護施設に入れると公言している時点で、子供の権利を何よりも考えるべき事案ではないだろうか。
行政職員というのは、どうしても法律には弱い。訴えられたら、どうしよう?という警戒心が働きやすい。都民ファーストの会には幸い弁護士資格を持つ議員が2人もいるし、特に厚生委員会に所属している岡本光樹議員は児童福祉法にも明るい。
彼らの力を借りながら、児童相談所とともに、このケースに向き合いたいと考えている。 さらに、フローレンスの駒崎弘樹氏と意見交換しながら、知人の個別ケースをもとに里親制度全体の制度設計を考えていきたい。
伊藤 悠(いとうゆう)東京都議会議員(目黒区選出)、都民ファーストの会 政調会長代理
1976年生まれ。早稲田大学卒業後、目黒区議を経て、2005年の都議選で民主党(当時)から出馬し初当選。13年都議選では3選はならずも、17年都議選では都民ファーストの会から立候補し、トップ当選で返り咲いた(3期目)。都民ファーストの会では、政調会長代理を務める。