大坂なおみ日本国籍選択:法改正へ 河野氏・宏池会・維新に期待

2019年10月11日 06:01

日米の二重国籍を持つテニスの大坂なおみ選手が10日、日本国籍を選ぶ手続きに入ったことをNHKの単独インタビューで明らかにした。日本の国籍法では、未成年の重国籍者は22歳に達するまでに国籍選択を義務付けており、大坂選手は10月16日に22歳の誕生日を迎えるため、近年その選択が注目されていた。

WTB Gallery/flickr

蓮舫氏の問題が起きた当時も注目されたが、日本国籍を選択する場合は次の2種類の手続き方法がある。

  1. 外国籍を離脱したことを証明する書面を役所に届け出る(外国国籍喪失届)
  2. 日本国籍を選択し、外国の国籍を放棄することを届け出る(国籍選択届)

大坂選手のケースでは、テニス担当の記者たちの知識不足からか、①と②どちらの手順を踏んだのか記事化されておらず、詳細は不明だが、②の場合であれば、米国籍の離脱は努力義務として課される(国籍法16条第1項)。

ただし、現実問題として、22歳を過ぎても多重国籍のままという人が数十万はいるとされる。特に日米二重国籍者はその傾向が強い。というのも、アメリカは離脱のハードルを設けており、アメリカ大使館のサイトによれば、離脱手続き自体で2,350㌦(約25万円)を要するなど経済的負担が生じるからだ。

大坂選手が置かれた理不尽な過酷さ

さらに大坂選手のような富裕層が米国籍を離脱する場合は資産課税がある。10年以上アメリカに居住し、国籍を放棄した時点での過去5年間の平均所得税額が 16万ドル(約1700万円)を超えるなど複数のケースが相当するという(参照:米国税務)。WTAによると、大坂選手の通算での獲得賞金額は$1349万㌦(7日時点、約14億円)。近年の活躍ぶりからすれば、余裕で該当するため、もし①の手続きで米国籍を離脱してから日本国籍喪失となると、アメリカ政府に課される資産課税は巨額になる。

つまり、①なら巨額の資産損失は確定的、②で日本国籍取得後も米国籍未放棄のままなら違法状態という、どちらを選んでも損ばかりという事態になる。一般人なら②の違法状態のままでも日常生活は送れようが、公人なら違法状態なのは問題があるし、民間人でも著名人は社会的注目度の高さを考えると、放置することは難しく、遅かれ早かれ米国籍離脱に伴い資産課税されるはずだ。大坂選手の置かれた立場がいかに過酷だったか察して余りある。

外国人をルーツに持ち、幼い時に他国へ移住することは重国籍者本人には選ぶことはできない。天賦の才と不屈の努力で、世界的な業績や地位を得たというのに、政府の法律や税制に振り回される理不尽さ。日弁連とは日頃政治的な見解が合わないことが多いが、この問題の意見書で「アイデンティティーの自己決定権などを侵害」していると指摘する点は同意だ。

制度改正へ「河野案」を今度こそ前へ

蓮舫氏の問題を追及したとき、アゴラがまるで差別論者の集まりかのように誤解に基づいた非難があったことは極めて遺憾だったが、少なくとも筆者は、多重国籍は積極的には容認しないものの、民間人の国籍選択については柔軟に対応し、裏付けとなる法整備をすることも含めてしっかり議論すべきだと以前から主張している。実害がないから運用で誤魔化すという考えも一部にあるが、人権に関わることで政治や行政の裁量が大きくなるのは健全ではあるまい。

外務省YouTubeより:編集部

これまでの政治は国籍法改正から逃げてきたが、これもなんども言うように国会では2008年時点で、現防衛相の河野太郎氏らが議員立法をめざし、精緻な私案を公表したことがある(参照:河野氏ブログ)。河野案では、「日本国籍を持つ者が他の国籍をあわせて保持することを認める」とした上で、「皇族、国会議員、大臣、外交官、自衛隊の士官、判事は日本以外の国籍を保持することはできない」などの制限を設けた合理的な内容だった。

野党でも、当時、政権交代直前だった民主党が政策インデックスで国籍選択制度の見直しを掲げていた。ただ、公職の制限について言及がないのは、のちに二重国籍者を代表にしたような脇の甘さを露呈しているが、政策として模索した事実はあるわけだ。そして、日本維新の会も、蓮舫氏の問題が起きた直後、2016年秋の臨時国会で「公職に係る二重国籍禁止法案」を提出したことがある。

あとは宏池会くらいしかいない

離合集散ばかりで政策がおぼつかない左派野党には正直もう期待していない。河野氏の実行力にはもっとも期待したいが、現在は防衛相として政府入りし、国籍法は所管外で身動きが取りづらい。

岸田氏公式インスタグラム

であれば、河野案をベースに、河野氏もかつて所属していた宏池会がここでこそ自民党リベラルらしさを発揮して法案づくりを主導してはどうか。折しも岸田氏が次期総裁選に立候補を明言したそうだから、今後の政策課題として検討する価値は大いにあろうし、この難しい改正を実現すれば岸田氏の政治的手腕は評価を取り戻せよう。

自民党の政調会、総務会を通すことの壁が小さくないだろうが、あとは世論の関心次第だ。法案を出しさえすれば、公明党は協力的だろうし、野党も、維新と国民民主党は前向きに対応するはずだ。

奇しくも10月に入り、ラグビーW杯で選手たちが多様なルーツの日本代表が活躍すれば、出生数が予測より2年前倒しで90万人を割り込む衝撃的な発表があった。そして大坂選手の日本国籍選択の報道…。人口減少とヒトのグローバル化に合わせた政策づくりができるかどうかを問う“シンボリック・オクトーバー”に思える。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」

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