独で同性愛者への「矯正療法」の是非

2019年11月06日 11:30

ドイツのイェンス・シュパーン保健相(39)は同性愛者を治療によって矯正する療法を可能な限り禁止させる方向で関連法の改正に乗り出している、というニュースが流れてきた。同相自身は同性愛者だ。昨年12月の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の党首選に出馬している。

▲未成年者の同性愛者への矯正療法の禁止を訴えるシュパーン保健相(Jens Spahn)=シュパーン氏の公式サイトから

▲未成年者の同性愛者への矯正療法の禁止を訴えるシュパーン保健相(Jens Spahn)=シュパーン氏の公式サイトから

同相が禁止を考えているのは通称コンバージョン療法(Konversionstherapien)と呼ばれるもので、その基本は「同性愛は病気だから、治療できる」というものだ。それに対し、自身が同性愛者のシュパーン保健相は「矯正療法は狂気だ。健全な対応ではない」と指摘、18歳以下に対して矯正療法を一般的に禁止することを考えている。ただし、未成年者の同性愛者で矯正療法の意味を理解でき、本人が希望する場合には禁止しない、といった例外条項を織り込むという。

一方、成人の同性愛者の場合でも本人の了解が欠かせられない。療法への理解が乏しいとか、外部から脅迫されているとかといった状況があれば、治療は禁止される。同法に違反すれば、1年までの拘留、ないしは罰金刑に処される。

同相は「可能な限り同治療を禁止させたい。矯正療法は同性愛者に心理的、精神的に大きな後遺症を残すからだ。治療は逆に病気にさせるだけだ」と主張し、「同療法を禁止することで同性愛が病気ではないというシグナルを社会に送ることができる」と考えている。

独週刊誌シュピーゲル電子版によると、保健省は同性愛者の矯正治療に関する専門家の鑑定を依頼したという。その鑑定報告によれば、「同性愛は病気でないから、治療は必要ではない。その上、治療で同性愛の性向が長期にわたって矯正されるという保証はない。むしろ、治療によって深刻な心理的重荷を背負い、不安、憂鬱をもたらし、自殺の危険性も高まる」というのだ。ドイツでは毎年、数千人の同性愛者が矯正治療を受けているという。

ドイツで同性愛者の矯正療法を支持するのは、過激なキリスト教グループ、一部の医者、精神テラピストたちだ。彼らは異口同音に「同性愛は精神疾患だから治療できる」と強調、矯正治療の実施を要求してきた。

療法には、①電気ショック療法、②カウンセラーの会話療法、③嫌悪療法などがあるという。特に、③の場合、自身への憎しみを煽る結果となって、療法後、欝になり、時には自殺するケースも報告されているという。いずれにしても、同性愛者を精神疾患と考え、治療可能と受け取るケースが多いが、宗教的な理由から矯正療法を強いるケースも少なくない。

ルドヴィック・マキシミリアン大学のマーティン・ブルギ法学教授は、「国家による禁止は個人の基本法に干渉することになるから、そのような禁止法を安易に政治的に実行することは許されない。ただし、例外はその禁止が社会の利益を擁護する場合だ」(シュピーゲル誌)という。換言すれば、「同性愛者は精神的疾患だから、治療すべきだ」というコンセンサスが社会にある場合ということになる。

ドイツでは2013年、「同盟90/緑の党」が連邦議会に未成年者への同性愛者に対する矯正療法の禁止を明記した動議を提出したが、支持を得られなかった。ヘッセン州など数州で昨年禁止イニシャティブがあったほか、シュパーン保健相が矯正療法禁止の請願書の署名を開始した。シュピーゲル誌によると、6万1251人が同請願書に署名している。ドイツ以外では米国の多くの州で矯正療法は禁止され、マルタやスペインの2、3地域では既に禁止されている。

性的少数派(LGBT)にとって、同性愛を精神疾患と受け取られ、矯正を強要されれば、苦悩は大きいだろう。アイルランド出身の英国劇作家オスカー・ワイルド(1854~1900年)は同性愛者として刑務所に拘留された体験をした小説家だ。英国の数学者で人工知能の父といわれるアラン・チューリング(1912~54年)も同性愛者だった。現在は同性愛を含む性的少数派への理解は深まっている。今年5月の時点で世界では27カ国・地域が同性婚を認め、欧州では16カ国が同性婚を認めている(「ワイルドもチューリングも悩んだ」2016年6月22日参考)。

ドイツでは過去、ベルリン市長だったクラウス・ヴォーヴェライト氏やギド・ヴェスターヴェレ元外相(故人)が同性愛者であることをカミングアウトした。そして若手のホープといわれるシュパーン保健相が登場してきたわけだ。彼らは政治の表舞台で同性愛の権利をアピールしてきた。シュパーン保健相はキリスト教という看板を掲げる政党(CDU)に所属している政治家だ。

問題は、性的少数派が市民権を得る一方、異性間の伝統的な婚姻形態が大きく揺れ動いていることだ。当方は性的少数派への社会的差別が解消されることは歓迎するが、異性間の婚姻の意義が忘れられてきていることに懸念を感じている。異性間の婚姻は社会のマジョリティ(多数派)だが、彼らの声が、マイノリティ(性的少数派)に押され、時には沈黙を強いられてきているのだ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年11月6日の記事に一部加筆。

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