注目の国会:小野田紀美議員「ヘイト規制法は日本人を守らない?」

田村 和広

あいちトリエンナーレにおける「言論の不自由展」は、芸術監督の目論見通り注目を集めた。しかし、多くの日本人が「芸術を隠れ蓑にした反日活動」がいかに狡賢く行われているかに気が付く契機ともなった。普段はヘイト言動とは無縁な圧倒的多数の日本人も、疑問や嫌悪感を抱かざるを得ない事態だった。

ただ忌まわしきテーマの属性から本邦外出身者との関係は容易に連想できるので、軽々に非難や疑問の声をあげると「本邦外出身者に対するヘイトスピーチ」に該当してしまう恐れもあった。その構図の中では、多くの国民は納得できない感情を心中深くに押し隠すしかなかった。

その「納得できない感情」がまだ残っている現在、小野田紀美議員が参議院法務委員会に登場し、多くの国民を代表して誠に時宜を得た質疑をされたので特記したい。それは11月14日に行われた森まさこ法務大臣とのやりとりだった。

小野田氏(参議院インターネット中継より)

よくある誤解:日本人になら「ヘイト」にならない

大抵の日本人は日常生活において「ヘイトスピーチ」で他者を攻撃したり逆に攻撃されたりはしない。かつての日本社会で、「ヘイトスピーチ」という日本語化した英単語は一般的ではなく、筆者も“hate”という英単語は中学生時代に英語の勉強の中で“嫌々”暗記した記憶がある。

平成時代にマスメディアで「ヘイトスピーチが行われ…」などというニュースに接した際に、「随分ネガティブな言葉がカタカナ語として定着したものだ」と違和感を覚え、また特定の活動団体の不気味な意図を感じたものだ。

最近では、特定のカテゴリーの人々(≒本邦外出身者)が別のカテゴリーの人々(≒日本人)の言論を封じる際に「それはヘイトスピーチだ」と使う場面がよく見られる。仮に言われた(日本人)側が「君達の言動もヘイトである」と返せば「ヘイト規制、日本人は適用外だ」という反論もまた多くのケースで観測される。最近では、話題の芸術祭や川崎市の条例などをきっかけにこの論争がマスメディアやSNS上で広く行われていた。

確かにヘイトスピーチ規制法は分かりにくい

いわゆる「ヘイトスピーチ規制法」は、附則に加え第1条から第7条までの条文で構成されており、全ての文は「本邦外出身者」つまり「日本出身ではない人物(≒外国人)」に対して日本国民が差別的な言動をすることを禁じている。確かにこられの条文だけならば「ヘイトスピーチの対象にしてはいけないのは本邦外出身者(≒外国人)であって、日本人を対象にすることは禁じられていない」と読むことができる。

特に法律に詳しいわけではない大多数の国民が、日常語の定義と普通の注意力で読むならば、寧ろそう受け止める方が自然だろう。

「ヘイトスピーチ」規制法条文(:本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)

では本当に、日本人にならば何を言っても「ヘイトスピーチ」には該当しないのだろうか。小野田議員と森法務大臣との間の質疑応答で、この疑問への明確な答えが出された。

小野田議員の会心の質疑

11月14日参議院法務委員会においてなされた質疑は次の通りである。

小野田紀美議員:本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取り組みの推進に関する法律、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」についてお伺いいたします。この法律の第二条に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」という定義が示されているが、「衆議院の付帯決議」にもあるように、「この二条が規定する者以外の者(つまり日本人に対して)であれば、いかなる差別的言動であっても許される、という理解は誤りであり、あらゆる形態の人種差別に関する国際条約の精神に鑑み適切に対処すること」とはっきり明記されております。

にもかかわらず、一部で「日本人は本邦外出身者ではないから、差別的な扱いをしても問題はないのだ」という意見が最近あり、これが私は非常に残念だと思っております。「本邦外出身者と同様に、日本人・本邦出身者に対しても『貶めたり差別的な言動をとったりしてもいいんだ』ということではない」ことを改めて大臣に確認させて頂きたい。
(参議院インターネットライブラリ法務委員会より。文字起こし、要約、太字は筆者)

要するに小野田議員は、巷に広がる「日本人に対してならば、いかなる言動も『ヘイトスピーチ』には該当しない」という理解は正しいのか否かを質問している。これに対する森法務大臣の明確な回答は以下の通り。

答弁する森法相(参議院インターネット中継より)

森まさこ法務大臣:いわゆるヘイトスピーチ解消法は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動を対象とし、そのような言動があってはならないという理念を明らかにしておりますが、他方、衆議院および参議院の各法務委員会における付帯決議において、本邦外出身者に対する不当な差別的言動以外の言動であれば、いかなる差別的言動であっても許されるという理解は、誤りである旨、あきらかにされているところでございます。従って、本邦外出身者であるか否かを問わず、国籍人種民族等を理由として差別意識を助長しまたは誘発する目的で行われる排他的言動はあってはならない、と考えます。(前掲ライブラリ)

実に明瞭な回答である。これでこの疑問については明確に答えが出た。小野田議員は続けて具体的な改善提案も行う。

小野田議員:この認識をぜひ皆さんに共有して頂きたいと強く思います。法務省のヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動というサイトがあり、ヘイトスピーチに関する記事がわかり易くまとめてあるが、一応「付帯決議」というリンクが張ってあるがなかなかそれが表に出ていなくて、そこだけ見ている人は「ほら日本人に対しては書いてないから、いいのだ」みたいに言ってらっしゃる方がいるのが残念なので、「いかなる国籍民族日本人に対してもいけない」という前提がわかり易く前の方にしっかり記載されるようにホームページの記載をお願いしたい

筆者も以前この啓発サイトを訪れて勉強したことがあり、全く同じ思いをしていた。そのためこの改善要望には、個人的にも強く同意する。

結論

ヘイトスピーチに関して間違った認識が広がってしまった背景には、法務省と国民の間のコミュニケーションギャップがある。巷間広がる誤解に加え、不勉強なマスメディアによる煽りもあって、日々不毛なヘイトの応酬が広がる。

一人や二人の国民が省庁に意見具申しても全く動かないが、多数の国民の代表である国会議員が、国会論戦という記録に残る正式な活動でそれを指摘すれば、省庁に迅速な改善行動をとらせることも可能である。今回の対応を法務省に約束させた小野田紀美議員には、心より感謝を申し上げたい。

旭日旗に関する松川るい議員の韓国語版HP作成提案は、既に実現した。英語民間試験に関する城井崇議員の延期提案も、劇的な実現を見た。今回はヘイトスピーチ規制法に関する誤解の解消策である。幹部たちの動きはよくわからないが、若手議員の活躍は実に眩しい。

「多くの国民が政治家に期待していない」という趣旨の調査結果も報道されていたが、こういう良い仕事を見る限り、国民側の関心の低さも低評価の一因である。衆参のインターネットライブラリなども活用して引き続き国会議員の活動に注目し、良い仕事は正当に評価し、不適切な活動には非を唱えて行きたい。

田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。