SUGIZOの「ビジュアル系は差別用語」発言をめぐって

「一度全てを失って、半分はもう死んだ身」――成功と挫折を経たSUGIZOが今、ボランティアに励む理由

Yahoo!ニュース特集に掲載されたアーティストSUGIZOのインタビュー記事は、大変に読み応えのあるものだった。ウェブメディアの可能性を感じるものであるし、音楽ファン以外にも届く人間ドラマだった。

ヤフーニュースより編集部引用

LUNA SEA、X JAPAN、さらにはJUNO REACTORなどのギタリストとして活躍し、ソロ活動にも没頭している日本が世界に誇るアーティストである。彼は災害時にボランティアに没頭したり、中東でチャリティー演奏をしたりする社会活動家でもある。山本太郎を応援しており、よく選挙イベントでは応援演説などに登壇する。

そんな彼の生き様を赤裸々に伝えるインタビューだった。あっぱれである。これが無料で読めるなんて。ウェブメディアの「功」の部分を感じた。

もっとも、非常に複雑な心境で受け止めたのは、次の発言である。そうか、彼にとって「ビジュアル系(ヴィジュアル系ではないのは、どういう意図なんだろう)」は、それほど吐き気を催すワードだったのか、と。

「ビジュアル系は、僕にとって差別用語。いまだにそう揶揄されると吐き気がする。デヴィッド・ボウイやJAPANといったアーティストに影響を受けたから、ステージで着飾ってメイクをするのは当たり前だと思っていた。でも、ボウイはメイクをしていたけど、ビジュアル系なんて言われなかった。僕らの音楽のクオリティーが、思い描いたビジョンに届かなかった」

もちろん、この言葉は文脈を読まなければならない。この発言の最後にもあるとおり、初期作品のクオリティが理想とはいえないものだったということも含めて解釈すべきだ。

ただ、「差別用語」という言葉が出たが、具体的には書かないものの所謂「差別用語」として取り上げられる言葉とビジュアル系が同等かどうかは疑問だ。もっとも、この「それくらいのことを差別と言えるのか?」という問題は当事者とそれ以外で感じ方が違い。当事者にとっては一大事である。それを差別だと感じない私たちも悪い。

「○○系」「○○派」というのは自称と他称があり。他称の場合はレッテル貼りやスティグマ化にもつながるわけで、心地よいものではない。同意というか、同情する。

私は「意識高い系」の仕掛け人ということになっている。そのことでたまに批判されたりもする。言葉の意味は常に変化する。もともとは空回りした自己啓発に警鐘を鳴らす意味で私は仕掛けた。「負け犬」も「草食系男子」も意味が変わっていった。そして名乗るか、名乗らないかという問題。意識高い系は自分からは名乗らない(ほぼ)。

「負け犬」は本来、酒井順子さんが「私たちは負け犬という言葉を受け入れよう」とご著書で触れており。ただ、いつの間にか、自虐的に言う人はたまにいるが、人を「いじる」言葉になった。「いじる」は立派ないじめだ。

別の論点として、その言葉を褒め言葉と捉えるか否か、さらには(褒め言葉ではないにしろ)誇りを持つかどうかというものもある。たとえば、X JAPANで一緒のYOSHIKIは海外からのインタビューでも「bヴィジュア系」とローマ字で語っている。むしろ、ビジュアル系という言葉に誇りを持つという方向もあったのではと思ったのだ、私は。ビジュアル系が一大ムーブメントになった今、そしてSUGIZOさんが唯一無二の存在である今、この言葉に寛容であるというあり方もあってよかったのではなかったか。

ただ、これは本人が決めることだ。SUGIZOさんは「ビジュアル系」という言葉が嫌いであり、差別用語だとすら思っている、と。

私はビジュアル系に感謝している。まだ、この言葉が生まれる前に小学生の頃から日本のメタルにハマり。X JAPANがまだXで、インディーズだった頃に衝撃を受け。他、ガスタンク、DEAD ENDなどビジュアル系に影響を与えたバンドにもハマり。

10代から髪を染めている。安易な金髪や茶髪ではなく、シルバーとかヴァイオレットとかを実は入れていて。論者がそういう髪型をする時代にビジュアル系は影響を与えている。ビジュアル系は自由で多様性に満ちているはず。ビジュアル系に感謝している。「差別用語」と言わず、誇りを持つ方向もあったのではないかと思っている。

このインタビューを読んでますますSUGIZOを尊敬した。何度も彼のステージを見ているが、彼は完璧なプロである。東京ドームや幕張メッセの後ろの方でも、彼の一挙手一投足、もちろん音が伝わるパフォーマンスだ。幸運なことに、ライブハウスでJUNO REACTORのバックで弾く彼を観たこともあるが、小さな小屋でも彼が仕事人であることは全く変わらない。

ただ、彼が「ビジュアル系」を「差別用語」と呼ぶことに、彼やビジュアル系のことをまだまだ理解できていないことを猛反省し。一方で少しだけ寂しくなった。ナイスなインタビューだった。SUGIZOとヤフーに感謝。ありがとう。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2019年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。