海外でまた慰安婦報道:日本外交官よ、「反日報道」に怒れ!

新年早々またかと思われる読者もおられるだろう。許してほしい。何もなかったかのように黙って看過できないと考え、コラムとして書いている。オーストリア代表紙プレッセ2019年12月30日付でブルクハルド・ビショフ記者が、「紛争地域、北東アジア、核ミサイルと慰安婦」という見出しで、日韓両国関係が険悪化していると報じ、「日本軍は進出する地域で5万人から20万人の女性を強制的に売春させたが、多くは韓国女性だった」と書いている。記事の内容は一方的だ。

Wikipediaより

ビショフ記者は既に昨年8月19日付の社説で「強制労働(元徴用工)と慰安婦=北東アジアの険悪な状況」という見出しで、「日本の戦争犯罪」という表現を使い、「安倍晋三首相は日本の戦争犯罪を可能な限り矮小化しようとしている」と記述している(「日韓の歴史紛争は日本側の責任?海外紙論調に反映する『朝日』の誤報」2019年8月21日参考)。今回はその2弾目の記事だ。

残念ながら、ビショフ記者は朝鮮半島の最新動向をフォローしていない。慰安婦(Trostfrauen)問題でもその起源、朝日新聞の誤報などについては全くフォローしていないか、恣意的に無視している。悪いのは日本軍であり、犠牲者は韓国だという書割でしか、日韓情勢を見ていないのだ。同記者は韓国人学者が書き、韓国でもベストセラーとなった「反日種族主義」を読めば、自身の無知を恥じるだろう。

記者は安倍晋三首相を民族主義者と受け取り、その視点から独断で記事を書いている。曰く、「日本の為政者、首相は韓国に対し心からの謝罪を表明していない」と指摘、日本政府の首相は韓国人の痛みに対し、明確な遺憾を表明していないと説教する。

ビショフ記者よ、日本で新しい政府が発足する度に、韓国側の強い要請に応じ、日本は謝罪を表明してきた。その回数は1度や2度ではないのだ。

日韓両外相(岸田文雄外相と尹炳世韓国外相=いずれも当時)は2015年12月28日、慰安婦問題の解決で合意に達し、両政府による合意事項の履行を前提に、「この問題が最終的、不可逆的に解決することを確認する」と表明した。日韓政府が合意し、アジア女性基金に日本は10億円の拠出に応じたが、文在寅政権になると、同合意が無効とされ、基金は解体した。

その責任は文政権だったという事実を記者は全く重視していない。元徴用工問題も1965年の日韓賠償協定で解決済みだが、それを韓国側は蒸し返し、日本企業に賠償金を請求している。問題は日韓で締結した協定や合意を無視して、問題を蒸し返す韓国側にあることは余りにも明らかだ。

安倍首相は文大統領との会談では、「韓国は国際条約を守っていただきたい」と要請しているが、これは日本国民の偽りのない願いだ。一旦合意した国際条約を、国内事情から一方的に破棄することは本来認められない。ビショフ記者はそのような経緯も知らず、朝日新聞自身が20数年経ってから誤報だったと認めた慰安婦情報をもとに、日本を批判しているわけだ。

欧州の記者が朝鮮半島の政情を完全にフォローすることは難しいが、誤報は誤報だ。ただし、問題は深刻だ。ビショフ記者のように、正確度のない、主観的な記事をプレッセ紙に掲載できる背景には、駐オーストリア日本大使館の怠慢があるからだ。駐在先のメディアが日本に関連する記事で間違いがあれば即指摘し、訂正させるべきだが、日本側はこれまでそれをほとんどやってこなかった。だから、海外メディアは記事の真偽を再考する機会を失ったわけだ。

メトロ新聞や大衆紙の報道ではなく、オーストリア代表紙の著名な記者が署名入りで書いたコラムで間違いがあるならば即抗議すべきだ。日本の名誉問題だけではない。既に誤報がまかり通っているばかりか、嘘が定着して日本に対する偏見、根拠のない反日が拡大するからだ。犯罪防止という意味でも、誤報があれば抗議すべきだ。

日本大使館は日本文化の華道や茶道の普及には積極的に努力されているが、慰安婦問題でオーストリアのメディアが一方的な立場から日本批判をした時、日本の外交官は国民の代表として抗議すべきだ。そして関連資料を提供して、偏向の是正に努力すべきではないか。

その点、韓国外交官を見習うべきだ。彼らは海外で積極的に自国の主張を訴えてきた。竹島問題から日本海の呼称問題でも韓国側は海外でシンポジウムなどを開催して、日本側の主張を批判している。それに対し、日本大使館の外交官が抗議したということを聞いたことがない。

ウィーンのミュージアム・クォーター(MQ)で昨年9月26日から11月24日まで、「Japan Unlimited」(仮題・日本、無制限な世界、空間)と呼ばれる芸術展が開催された。同展示会は日本とオーストリアの外交関係150年を祝賀する記念イベントの一環として開催された。

ウィーンのMQで開催された展示会「Japan Unlimited」のポスター(2019年11月6日、撮影)

展示された作品は典型的な左翼思想に凝り固まった芸術家によるもので、安倍政権批判から天皇陛下への中傷まで表現した作品だけだった。日本大使館関係者は展示会のオープニングに参加し、歓迎したが、同展示会が反日であることがメディアで報じられると、10月30日になって慌てて150年修好記念ロゴの使用禁止を要請した、という経緯がある(「日本大使館の35日目の『改心』劇」2019年11月10日参考)。日本大使館は作品をよく見ずに150周年記念イベント用ロゴの使用を認めたことになる。なんと無責任で怠慢な外交だろうか。

繰返すが、ビショフ記者の今回の慰安婦報道について、日本大使館は即抗議すべきだ。年末年始の休暇中でプレッセ紙の記事を読まなかったとはいわないでほしい。外交官は日本の国益を守るために海外に派遣されている立場だ。プレッセ紙編集部に電話をかけるとか、少なくとも抗議の反論記事を寄稿すべきだ。

新年そうそう檄を飛ばして申し訳なかったが、日本人も怒るべき時は拳を挙げて激怒すべきだ。親切で人のいい日本人では激しい情報戦には生きていけない。韓国は一部の民間NGOも海外に出かけ、嘘情報を声高く執拗に訴えている。この行動力に日本は押されているのだ。新年は「優しい日本人」から「怒る日本人」に脱皮していただきたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。