ゴーン逃亡は、仏政府が自国民の権利保護に外交特権利用か?

2020年01月03日 06:01

レバノンに逃亡した日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告は、8日に首都ベイルートで”開き直りの会見”をやるそうだが、この逃亡劇を支援したのは、報道されるキャロル・ゴーン夫人でも、レバノンでもないと思う。大胆に推理するものだが、かかわった裏部隊はやはりゴーン被告の旅券発行当該国の公的組織だとわたしは考える。

Adam Tinworth/flickr:編集部

ここでは国際的に非難される日本の刑事裁判制度には触れない。それよりもむしろ、外国は自国民の権利と保護というものに、超法規にも近い外交特権の切り札を便用する実例をこの逃亡劇に見たと思っている。ゴーン被告は8日の会見では、日本の法制度非難に終始するだろうし、逃亡記をすべて明らかにするとは思えない。

すでに八幡和郎氏の論「ゴーン海外逃亡:レバノン政府などの関与はあるか?」のなかで同氏はやんわりと、「自国民救出のためにフランス政府が知恵を出したことはありうるが、それは永久に外へは出ない性質のモノだ」と述べているが、あるいはそれにわが推論も含まれるのか、まさに外交世界には、永久に外へは出ないものが多々、含まれる。

ささいなもので、永久に外へは出ないものではないが、わたしの欧州駐在時代に日本の隣国首脳がベルギー・ブリュッセルの日本料理店に現れたのに偶然同席した。街路にはメルセデスベンツがずらり並び、大使夫人とみられる女性が足早に動き、店側に指図していた。

翌日、その国の大使館に確認電話を入れると、「何を馬鹿なこと言ってるんだ!」と一蹴、一方的に切られた。この首脳本国駐在の同僚に、これまた電話で聞くと「首脳は休暇で国内の山荘で休養」となっていた。後年、もう職を離れていたベルギー駐在日本大使の一人は、この首脳のお忍び欧州旅行については、内々連絡を受けていたことを明かしている。

機密文書が大使館と母国を往復する際、外交特権で保証された、クーリエ(外交行嚢)を使う古いしきたりはいまも残存している。だが現代版のクーリエには、トレーラートラックに載せる大型コンテナ数個という例もある。わたしは実際、ジャカルタ米国大使館から運び出される、巨大なコンテナ・クーリエを目撃した。外交特権に便乗したりすれば、日本からの脱出方法など、あまたと生まれてくる。

レバノンに逃亡したゴーン被告のルートは、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道などで、プライベートジェットによる関西空港から、ロシア空域を通過、トルコ経由でレバノン・ベイルート入りしていること。その際、フランス旅券で合法的に入国したとされる。当たり前のことだ。レバノンの旧宗主国はフランスだから、否応ないことだ。

フィリピンの独裁者マルコス政権の崩壊時に、マニラのアギナルド兵営でマルコス側フィリピン国軍と警察軍が衝突、兵営はブロックされ、多くの取材記者は追い返されたが、わたしの場合、在日米軍発行の記者証を示すと、ライフルを構えた警察軍兵士は、たじろぎながら上官と相談、兵営に招き入れた。旧宗主国の威光はそんなかたちでいまも残る。

ところで、定期便でないプライベートジェットによるロシア空域通過は、最高に危険である。旧ソ連時代から現代プーチンのロシアまで、国籍不明機として扱われた民間航空機が戦闘機、ミサイルにより何度も撃墜、あるいは緊急不時着にあっているからだ。

が、隠密行動ともなれば、また最高に安全でもある。ただしロシア当局の承認あってのことだ。そこにゴーンに絡む大国、それもロシア、トルコと縁のある欧州国の影がある。フランス旅券といい、ロシア空域を通過からトルコ経由といい、これは公的な組織による空域航行通告と相手側の了解がなければできないことだ。

またゴーンのフランス、ブラジル、レバノンの旅券は、ゴーンの弘中弁護士の手中にあるのも事実のようだが、日本は旅券を、箱根の関所の手形のように、いまだに唯一無二で神聖視するのが盲点だろう。数個の旅券を持つ外国知人がいたが、いまでは日本成人の誰もが複数のクレジットカードを持つように、国際社会では旅券も、そんなカードのような存在だ。

当局による再発行はいくらでも出来る。それにお堅い日本のケースでも、わたし自身の体験だが、封鎖国ビルマ(現ミャンマー)に会社員を装って入国しようとした際、隣接国でかつて、ベトナム和平工作の裏方を務めた日本大使は、「旅券を落としてしまったら再発行するしかないな」と大胆なヒントをくれたことがあった。

正月とはいえ、日本国政府もいまだに正式な反応を示さないのも、疑問と言えば疑問だ。あるいは外交の裏チャンネルにより、ゴーン被告当該国からの公的メッセージが届いているのかもしれない。それは永久に外へは出ないものとなるのかも知れない。

山田 禎介(やまだていすけ)国際問題ジャーナリスト
明治大卒業後、毎日新聞に入社。横浜支局、東京本社外信部を経てジャカルタ特派員。東南アジア、大洋州取材を行った後に退社。神奈川新聞社を経て、産経新聞社に移籍。同社外信部編集委員からEU、NATO担当ブリュッセル特派員で欧州一円を取材。その後、産経新聞提携の「USA TODAY」ワシントン本社駐在でUSA TODAY編集会議に参加した。著書に「ニュージーランドの魅力」(サイマル出版会) 「中国人の交渉術」(文藝春秋社、共訳)など。

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