ゴーン逃亡事件:フランス政府は本当に無縁なのか?

2020年01月07日 06:01

なぜか米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道ばかりが目に付く日産元会長ゴーン被告の逃亡事件だが、そのウォール・ストリート報道自身も、定評ある本来のグローバルな経済ニュースと違って、「逃亡はキャロル・ゴーン夫人による主導」など、ご本人ゴーン被告から否定されるなど、真偽定かでない印象も強い。リークしているのは、わたしもワシントンのUSA TODAY紙で経験したことだが、これまでもよく見られた米国情報機関筋からなのだろうか。

一方でそのWSJは、「事前に時間をかけ、大金をはたいて準備された大掛かりな組織による支援があった」とも報じている。ゴーン逃亡劇は、個人の役者の活躍どころか、組織的な集団劇であることが、だれの目にも明らかだ。利害関係者の組織による、相乗りの大掛かりな支援あってのゴーン逃亡劇が見えてくる。

この逃亡劇は軍事関連会社が実行し、2000万ドル(約22億円)以上の費用がかかったと報じられ、WSJによると、米陸軍特殊部隊出身の男性ら2人の協力で、音響機器運搬用の黒い箱の中に隠れて出国したと報じられているが、それをそのまま信じることはできない。もっと大掛かりな組織が背後にいるはずだ。

ルメール氏(Wikipedia)

いずれにせよ、日本時間8日夜にレバノン・ベイルートで記者会見する予定というゴーン被告だが、その前に、わたしが以前から注目するフランスの動きがようやく出て来た。5日付のフランスの日曜紙ジュルナル・デュ・ディマンシュが、ルメール仏経済・財務相の発言として、「ゴーン元会長はオランダでの疑惑をめぐって、捜査対象となる可能性があると語った」ことを日本メディアが転電したことだ。わたしには、これは、”衣の下によろいを見た”印象と、とらえている。

アゴラでは、仏国立行政学院(ENA)留学歴など、現代フランスに詳しい有地浩氏の論、『ゴーンのレバノンへの逃亡でマクロンの頭痛の種が増えた』では、「現状フランスは、ルノーと日産の関係の融和を図る方針を取っており、ゴーン氏は〜〜切り捨てるべき過去の人」とする主旨で伝えている。

それでもわたしは、ルメール仏経済・財務相の今回の発言は、時局的に何らかのシグナル、“権利の留保めいたもの”を発しているものだと思う。

このジュルナル・デュ・ディマンシュが伝えるオランダでのゴーン疑惑は、首都アムステルダムでかつて機能していた日産自動車と仏ルノーによる合弁会社「ルノー日産BV」(RNBV)をめぐる問題だ。元会長ゴーン被告はルノー日産BV社を使い、個人的な利益のため1千万ユーロ(約12億円)以上を支出させた疑いがあるとされる。ローマ法、大陸法に淵源を持つフランス法体系として、日本でのゴーン被告の裁判より、“母国”フランスでの裁判が優先するという姿ではないか。

ところでキャロル・ゴーン夫人だが、生まれはレバノンのアメリカ人だ。古い話だが、アメリカの歌手で、日本でもかつて一世を風びしたポール・アンカが代表するレバノン系は、古代フェニキア民族のDNAで商売上手だ。まるで東南アジア・フィリピン人が、英語を武器にグローバルな海外労働で本国に送金する姿さながら、彼ら海外レバノン系は祖国に稼いだ富を送り続け、たびたびの動乱に揺れた祖国を支えている。ゴーン被告と再婚したキャロル・ゴーン夫人にも、その「原点」の行動があるように思える。

日本国内テレビでは、横並びによる論がますます騒がしいが、それでも、ゴーン被告は新幹線、タクシーを使って関空に向かったことを、捜査当局からいち早く入手した手柄もある。しかし、それもあくまで日本国内の問題である。

利害関係者組織による、相乗りの大掛かりな支援あっての逃亡劇。わたしには、フランスがそれに無縁であるとは到底思えないが。

山田 禎介(やまだていすけ)国際問題ジャーナリスト
明治大卒業後、毎日新聞に入社。横浜支局、東京本社外信部を経てジャカルタ特派員。東南アジア、大洋州取材を行った後に退社。神奈川新聞社を経て、産経新聞社に移籍。同社外信部編集委員からEU、NATO担当ブリュッセル特派員で欧州一円を取材。その後、産経新聞提携の「USA TODAY」ワシントン本社駐在でUSA TODAY編集会議に参加した。著書に「ニュージーランドの魅力」(サイマル出版会) 「中国人の交渉術」(文藝春秋社、共訳)など。

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山田 禎介
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