感染症対策のデジタルトランスフォーメーション

2020年02月05日 14:01

中国陸軍の医療チームによる現地での活動(CCTVより編集部引用)

ある朝、診療所の前に熱を出した子どもが並んでいた。近くの別の診療所にも。しかし、新型感染症だと二人の医師は気づかず、その間に感染症が蔓延した。

こんな事態を避けるにはどうしたらよいのか。診療所での診察情報を保健所がリアルタイムで集約し、普段と異なる事態が起きたら警報を発するシステムを入れればよいのだ。

実は、これについて情報通信政策フォーラム(ICPF)では2013年2月(!)に議論している。国立感染症研究所の専門家に講演いただいたのだ。講演と質疑から重要な部分を抜き出そう。

講師は次のように話した。

バイオテロのように遅れることが致命的な場合もある。そこで、診断ではなく症状から情報収集をしようという考え方が生まれた。これが「症候群サーベイランス」である。熱っぽいなと思ったら、普通は一般用医薬品(OTC)を服用するから、これをモニターする。その先の外来受診・学校の欠席・救急外来受診・救急車の要請なども、それぞれモニターする。それらを多面的に見て、いろいろな情報を重ね合わせることで、ノイズを除去し、精度を高めるようになっている。

アメリカでは、2007年時点では、緊急外来で80〜90%症候群サーベイランスを実施しており、そのほか、毒物摂取ホットラインや911コールも加えている。イギリスでは、数年前のアイスランドの噴火の際に、国民に目や呼吸器の症状が増えていないかを調査したことがあった。

質疑では、診療所に電子カルテを備え、自動的に情報を抽出する可能性について議論した。

Q(質問):いろいろな情報源から集めることによって、ノイズが減るという説明があった。しかし、今は実質的に処方薬と学校の情報しかない。学校には休みの期間があるから、他の情報源も確保する必要があるのではないだろうか?
A(回答):ごもっともである。保育園が開園していればその情報を得るとか、救急車搬送とか。しかし、今のところはむずかしい。

Q:それでは、米国のように診療所に電子カルテを普及させ、そこから情報を取得できないのか?
A:その通りだが、膨大な予算がかかるので、政府が取り組むかどうかである。

このセミナーが開催されたのは2013年。先日、ある医師会で同様の質問をしたら、開業医のメーリングリストがあるので、医師が不思議に感じたらメールを交換して見つけるという答えがあった。これでは一歩対応が遅れる恐れがある。

米国では2000年代から取り組んでいるというのに、わが国の感染症対策のデジタルトランスフォーメーションは遅れている。今回の事態を契機に症候群サーベイランスを一気に進めるべきだ。

というわけで、「デジタルトランスフォーメーションを目指す政策」と題するセミナーを2月18日に開催する。平井卓也前IT担当大臣に、こんな惨状を打破する政策について話していただく。感染症対策を含めて、社会全体のデジタルトランスフォーメーションに関心を持つ皆様の参加をお待ちします。

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山田 肇
ICPF理事長、東洋大学名誉教授

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