新型肺炎対策で「台湾排除」は犯罪だ

長谷川 良

台湾の約2400万人の国民の人権が蹂躙されている。台湾では中国本土から戻った国民に武漢発の新型コロナウイルスの感染者が出ているが、世界保健機関(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)は台湾への情報提供を拒否するばかりか、ICAOの台湾排除に対する抗議のツイッターアカウントをブロックしていることが判明し、「国連専門機関として相応しくない対応だ」といった批判の声が高まっている。

新型コロナウイルスの対策に取り組む研究団(2020年2月4日、新華社公式サイトから)

中国共産党政府が「台湾はわが国の一部」という政策を貫いていることは周知のことだ。しかし、191カ国が加盟するICAOが中国の政治的思惑に左右され、台湾2400万人の健康を損なうならば、ICAOはもはや国連専門機関の資格がない。

もちろん、同民族の健康問題を政治的な思惑で無視する中国共産党政権はそれ以上に非人道的だ。台湾政府が湖北省に取り残された台湾人たちを戻すため、チャーター機の入港許可を求めた時、中国政府はそれを拒否している。

世界で流行性疾患が発生した場合、WHOやICAOは加盟国の航空会社に迅速に情報を提供する責任がある。台湾は中国共産党政府の圧力でWHOやICAOに加盟できない。その結果、加盟国が受けている便宜を受けられずにいるのだ。

台湾は国民の健康、福祉問題に関係のあるWHOの加盟を模索、意思決定機関の世界保健総会(WHA)に2009年からオブザーバーとして参加してきたが、17年から招待状が届いていない。中国共産党政権は、台湾で2016年5月、民主進歩党(DPP)の蔡英文氏が第14代総統に就任して以来、台湾への政治的圧力を強化し、国際社会での台湾の孤立化を画策してきた経緯がある。

台湾に不幸なことは、ICAO事務局長が中国政府民間航空局元高官の柳芳氏だという点だ。柳芳事務局長はICAOの事務局トップだが、中国共産党政権の意向を無視できない、というより、その意向に沿って職務をせざるを得ないのが現状だろう。新型肺炎で新型コロナウイルスが拡大してきた現在、柳芳事務局長は北京からの指令を受けて、それを実行しなければならない。

国際刑事警察機構(本部リヨン、ICPO)の総裁に2016年11月に就任していた孟宏偉氏(65、Meng Hongwei)が2018年10月7日付けで突然辞任した。孟宏偉氏が北京当局によって一方的に強制帰国させられたのだ。同じ危険性は柳芳事務局長にもある。

WHOのテドロス事務局長は先月28日、北京を訪問し、習近平国家主席と会談、そこで中国のトップダウンの決定を称賛し、「中国政府は感染拡大阻止に並外れた措置を取った」「中国は感染封じ込めで新たな基準を作った。他国も見習うべきだ」と賛辞を繰り返した。エチオピア人の同事務局長の親中姿勢は中国の長いアフリカ政策の成果だ。要するに、ICAOやWHOのトップからは国連専門機関としての公平性、中立性などは期待できないわけだ。

ウィーンの国連建物前の広場で台湾のWHA参加を訴える集会が開催(2019年5月16日午前、ウィーンで撮影)

台湾はWHOの年次総会、WHOの意思決定機関のWHAに参加を要望したが、中国側の妨害で実現できないでいる。昨年5月16日、ウィーンの国連建物入口ゲイト1前の広場で台湾のWHA参加を支持する集会が行われた。台湾国民のほか、支持者が集まり、「台湾のWHA参加を支持する」「健康問題は人権だ」とアピールし、台湾の国旗を振りながら訴えた。

集会に参加していた台湾出身者は「国民の健康問題は人権だ。その人権を無視し、政治的思惑から台湾のWHO加盟を拒んでいる。台湾は世界の健康向上に貢献できる国だ」と説明していた(「台湾の『世界保健総会』参加を認めよ」2019年5月18日参考)。

中国共産党政権は台湾の中国本土併合を画策、台湾との国交を締結する国には様々な外交上の圧力を行使し、台湾を国際社会で孤立させようとしてきた。中国共産党政権は医療問題を政治化し、それを政治武器として弄んでいるのだ。約2400万人の国民を有する台湾を世界の医療ネットワークから外すことは台湾国民への人権蹂躙だ。もっとはっきり言えば、犯罪行為だ。

世界のグロバリゼーションの波に乗って経済的恩恵を享受してきた中国は今日、経済大国にのし上がったが、新型コロナウイルスの感染の危険性を政治的思惑で隠蔽したり、同民族、台湾国民の健康問題を無視する非人道的政策を繰返している限り、世界の指導国家という称号を得ることはないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。