心を失った医療が生み出す詐欺師的医師

2020年02月16日 11:30

美容整形外科医ががん治療に手を出し、常識では考えられないような治療成績を謳っている。これを専門家が雑誌で批判している。批判を受けてしかるべきだが、このような「白衣を着た詐欺師」のような医師が跋扈している原因が自分たちにあることを臨床腫瘍専門医は理解できていない。

FineGraphics/写真AC

臨床腫瘍医が、がん患者や家族に寄り添い、信頼を受けていれば、患者さんたちは詐欺師には引っ掛からないはずだ。患者さんや家族の気持ちも考えず、プロトコール、マニュアル、ガイドラインと呼ぶ名の治療を提供していれば、自分たちの責任を果たしていると妄信している態度が、現状を生み出しているのだ。

患者さんや家族は、心の救い、希望を求めて彷徨っている。心のケアもせず、マニュアルに依存した治療を機械的に提供するだけなら、人工知能のアルゴリズムで十分に置き換えることができる。今のような機械的な接し方は、機械に任せればいい。血の通った人間の医師でなければできないことは、血の通った医療の提供だ。患者さんや家族に寄り添う医療ができるのは人間だけだ。それなのに、過度なマニュアル化、標準化によって、患者さんを絶望に突き落とす例が絶えない。

患者さんが自分のがん組織の返却を求めても渡さない病院は少なくない。病院の規則だと言う。患者さんが生きたいと願って、それを利用したいと思っても、病院の規則が優先するのだ。憲法には生きる権利が保障されている。生きたいと思う願いを実行する患者さんの憲法に保障された権利よりも、病院の規則が優先する現実をどう理解すればいいのか?桜も、モリカケもいいが、もっとまともな患者さんが直面している問題提起ができないのか?国会議員は!

マニュアル化が進み、セカンドオピニオン受診者数が減ってきている。専門病院は金太郎飴のようにガイドラインに従った治療しかできないのだから、当然だ。SNSで情報がすぐに拡散する時代だから、標準化という名のギルドの形成が進み、がん医療は硬直化していることなどみんなわかってきたのだ。「自分の方針に従わないなら、どこにでも勝手に行け」という態度を示す医師も少なくない。患者さんや家族は病院から突き放されないように、医師に気を遣っている。

しかし、こんな話を聞くたびに、怒りを覚えることがなくなってきた。悲しくて、空しい思いしかしなくなってきたのだ。歳を取ったのか、あきらめが強くなったのかわからないが、自分が情けなくなる。

医療から「心」「思いやり」がなくなり、機械の組み立て工場と同じようになってしまった。この「思いやり」の欠如が、見かけだけは患者さんにソフトに接し、心の中でお金のことしか考えない守銭奴医師を生んでいる。このような医師を目の敵にして批判する医師たちは、自分が天に唾したものが、自分に跳ね返っていることを考えもしない。

詐欺師的医師を批判するなら、生きることを願う患者さん、生きていて欲しいと願っている家族、その思いを受け止められる医療体制を構築すればいいのだ。政治の世界と同じで、無責任な批判はしても建設的な提案ができなければ、患者さんたちは戸惑うだけだ。自分たちが絶対的な善であり、正義であると信じているだけでは、何も変わらないし、困っている、苦しんでいる人を救えない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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