緊急事態宣言・西浦モデルの検証(4月12日)国民の疲弊リスク

2020年04月13日 06:01

安倍首相が述べた「予測」は妥当だったのか

尾見茂氏と記者会見に臨んだ安倍首相(官邸HP)

安倍首相は、4月7日の非常事態宣言会見の際に、「東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります」と発言した。

前回書いたように、東京都の累積感染者数が1,000人を超えたのは、4月5日のことで、1,032人であった。

4月12日は、ちょうどそこから1週間がたった日だ。累積感染者数は、2,068名となっている。

4月7日からの5日間を見ると、約73%増で、「足元では5日で約1.73倍になるペース」である。ちなみに今週の新規感染者数は、先週の新規感染者数の1.72倍である。倍増は7日かかる。

果たして「2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります」という予測は妥当だっただろうか。

西浦博氏(「POLICY DOOR」より引用)

確かに、1つ前の週の3月30日~4月5日の1週間は、前の週から2.4倍の増加を見せていた。新規感染者数では、2.06倍だった。緊急事態宣言が発出される直前の週は、増加率が高かったわけである。しかし今週の感染者増加率は鈍化している。

ちなみに3月23日~3月29日の週の増加率も非常に高い3.1倍で(週単位の新規感染者数は6.08倍)、その前の3月16 日~3月22 日の週の1.5倍の増加率(週単位の新規感染者数は1.84倍)から大きな変化を見せていた。この大きな増加の中で、小池東京都知事が、3月25日に外出自粛を求める会見を行った。

Googleモビリティを見ても、3月25日小池都知事会見の後には、東京(及び近郊県)では、かなり目立った人の移動の減少があったことがわかる(参照拙稿:新型コロナ:世界的科学者のご神託よりビッグデータ)。

東京は“2週間前のニューヨーク”なのか

日本全体の傾向も見ておこう。

日本全体では、4月6日~12日(現在の測定値)の週は1.85倍の増加(週単位の新規感染者数は1.67倍)、3月30日~4月5日の週は2.04倍の増加(週単位の新規感染者数は2.50倍)、3月23日~3月29日の週は1.71倍の増加(週単位の新規感染者数は2.78倍)、3月16日~3月22日の週は1.33倍の増加(週単位の新規感染者数は0.88倍)であった。ゆるやかな推移ではあるが、基本的には、東京とほぼ同じような傾向を示している。

2月24日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が出した「今後2週間が急速な拡大に進むかの瀬戸際」という見解を受けて、安倍首相が学校の一斉休校要請を打ち出したのが2月27日だった。その後の3月半ばまでの2週間は東京を含めて全国的に増加率が抑えられていた。

ところが3月の後半は、東京が牽引する形で、全国的に増加率が上がった。そして、3月25日小池東京都知事会見の効果が出始めた今週に入って、鈍化がみられるようになった。

緊急事態宣言で、平日昼なのに閑散とした銀座(編集部撮影)

ところで、最近、巷では、「今の東京は2週間前のニューヨークだ」という言説が洪水のようにあふれた。しかし現在の東京の累積感染者数は、(人口比も加味すると)ニューヨーク市の3月13日頃の水準である。「4週間前」だ。しかもその頃のニューヨーク市は、1~2日に倍増のペースを続けていたので、現在の東京都の増加率とは全く次元の異なる世界であった。

もちろん、私は、世界最悪のニューヨークと東京が違うからといって、東京が安心できる状況にある、と言いたいわけではない。世界全体の累積感染者数はこの1週間で120万から180万人と50%増のペースで、週単位の新規感染者数でもスピードは鈍化してきている。現在、東京(日本)は、世界平均より速いスピードで増加している。

長期戦と短期戦を混同してないか?

さて西浦理論にもとづいた安倍首相の緊急事態宣言には、東京都が「2週間後には1万人、1か月後には8万人」の悲観的な予測が一つ、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」という楽観的な見通しが一つあった。インフレ気味に厳しい現状認識と、すぐそこにあるかもしれない明るい未来提示の二つの要素があった。

私は、この二つの要素の関係に、疑問を持っている。

安倍首相の緊急事態宣言会見の冒頭で示された目的説明である「医療崩壊を防ぐ」は、増加率をふまえた感染者数予測と、現在及び近い将来の医療能力とを比較することによって計算されてくるはずだ。本来であれば、その計算にもとづいて、人と人との移動の制限の範囲の妥当性もまた、政策的に見極められるはずである。

しかし西浦理論にもとづく安倍会見は、「8割削減」で「2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせる」という野心的な目標も挿入した。西浦教授が示したグラフの影響も大きく、巷では、「8割削減」は、コロナ危機の「収束」として語られている。

日本経済新聞より

「欧米に近い外出制限を」 西浦博教授が感染者試算(日本経済新聞)

わかりやすく言おう。「医療崩壊を防ぐ」は「長期戦」に即した目標である。「2週間後には減少に転じさせる」は早期の収束を目指した「短期戦」に即した目標である。

現在、緊急事態宣言下の日本人は、「長期戦」の目標と「短期戦」の目標を同時に掲げて、がむしゃらに努力することを求められている。

果たしてこれは何を意味するのか。

今、日本は、「8割削減」を掲げて、「医療崩壊を防ぐ」ことを達成しようとしているのではないだろうか。これはこれで妥当である。(「8割削減」について、西浦モデルとは違うモデルを用いると、そうなる。)

しかし、そのために、なぜか「長期戦」と「短期戦」が混同されるような説明がなされた。

この説明では、「短期戦」を終えたと思ったとき、「実は長期戦でした」と言われて国民の疲弊が高まる、というリスクがあるのではないだろうか?

この問いに答える手がかかりを考えるためには、さらに楽観論の部分についての検証も必要なのだが、それはまたの機会に譲る。

今回の検証では、東京都の感染者数が「1か月後に8万人」でなければ緊急事態宣言の効果があったと言える、というわけではなさそうであることについて、とりあえずの示唆をした。

なお前回の「緊急事態宣言・西浦モデルの検証(4月10日)」について、日本の感染者数は検査数が少ないので信用できない、という指摘を受けた。しかし、私が行っているのは、緊急事態宣言の時点からの増加率の検証なので、感染者の絶対数の信ぴょう性は基本的にあまり関係がない。検査が一貫したやり方で行われていれば、傾向は判明するはずである。そもそも安倍首相の緊急事態宣言も、同じ統計を根拠にしている。

ただし、もちろん検査対象が飽和状態になってくればくるほど、統計が意味を失うことはあるだろう。たとえば検査対象の陽性率が100%となってくるような場合には、増加の傾向を考えることは無意味になってくる。その点は、留意点として、付記しておく。

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篠田 英朗
東京外国語大学総合国際学研究院教授

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