専門家会議は「新しい生活様式」の説教よりデータを出せ

池田 信夫

専門家会議が「新しい生活様式」を提言した。

  • 公園はすいた時間、場所を選ぶ
  • すれ違うときは距離をとる
  • 食事は大皿を避けて、料理は個々に
  • 対面ではなく横並びで座る
  • 毎朝、家族で検温する

など細々と生活様式についての説教が列挙されているが、余計なお世話である。こうした接触削減で感染の拡大が防止できたというエビデンスは何もない

次の図のようにイタリアでもフランスでもイギリスでも、新型コロナの死者が減り始めるのはロックダウン(★)から1ヶ月ぐらい後であり、その効果は見られない。ロックダウンした国でもしなかった国でも、感染開始から1ヶ月ぐらいで死亡率がピークアウトする。

各国の新型コロナ死者(ft.com)

これを従来の疫学理論で説明するのはむずかしい。基本再生産数R0が2.5だとすると、人口の60%が感染するまで感染は指数関数で爆発的に拡大するはずだ。これが西浦博氏の「42万人死ぬから8割の接触削減が必要だ」という珍説の根拠である。

それに従うと、日本でも3月末で(おそらく感染者が人口の10%以内で)感染がピークアウトすることはありえない。ところが専門家会議は感染のピークは4月1日だと認め、国立感染症研究所も「感染のピークは緊急事態宣言の前の3月29日だった」と認めている。

日本の新規感染者数(国立感染症研究所)

現在の疫学理論には欠陥がある

なぜこのように理論とデータが大きく食い違ったのだろうか。その原因はいろいろ考えられるが、最大の問題はマイケル・レヴィットの指摘するように、現在の疫学理論に欠陥があるからだろう。そこでは感染が指数関数的に拡大すると想定しているが、これは閉鎖系の均質な集団の話だ。

実際には最初に死ぬのは高齢者や基礎疾患をもつ人であり、感染初期には死者が急増してパニックが起こるが、そういう「死にやすい人」が死ぬと死亡率は自然に下がり、感染曲線はフラット化する。

日本に特徴的なのは、初期の感染激増の局面がなくゆるやかに増え、欧米の1/100以下という驚異的に低い死亡率が続いていることだ。これは日本人にはBCG接種などの原因で非特異的な自然免疫があり、もともと多くの人がコロナに強かったと考えるしかない。

これを「今は8割削減でなんとか感染を抑えているので、それをやめると感染爆発が起こる」という説明は、R0が世界共通で永久に2.5だという仮定に依存しているが、これは日本で観測されたデータではない。西浦氏の説明は「ドイツの数値」だとか「武漢の数値」だとか転々としている。

武漢のような感染爆発は日本では起こらなかったし、今後も起こらない。今回のパンデミックは最悪の時期を過ぎたとみていいだろう。ただ今年後半に第2波が来る可能性はある。このときはウイルスが変異しているおそれが強く、今回のような幸運が続くとは限らない。

専門家会議の本来の役割は国民の「生活様式」に口を出すことではなく、緊急事態宣言などの政策を提言して、その結果を検証することである。今後の流行に備えるためにも専門家会議は今回の調査データをすべて公開し、国民の批判をあおぐべきだ。

この問題はややこしいが、今月から始まったアゴラサロンでは、専門家もまじえた議論が続いている(今月中は無料)。