緊急事態宣言で国民全員の行動を制限する「8割削減」の根拠となった西浦モデルでは「42万人死ぬ」はずが、今の死者は約800人。3桁もはずすと、さすがに感染症の専門家も反省しているだろうと思うと、意外にそうではない。
日本が第一波をかなりうまく乗り切ろうとしているのだけど、最大の功労者の一人は西浦博先生だよ。それは絶対に間違いない。
— 岩田健太郎 Kentaro Iwata (@georgebest1969) May 20, 2020
「何もしなかったら42万人死んだはずだが、西浦先生のおかげでその1/500になった」というわけだ。これは「壺を買わなかったら死ぬ」と脅して100万円の壺を買わせ、「効果がなかった」といわれたら「壺のおかげで死なずにすんだ」という霊感商法と同じである。
その壺が役に立った証拠はどこにあるのだろうか。残念ながら岩田氏はそれを教えてくれないので、私が調べてみた。
まず感染がピークアウトしたのは3月末であり、4月7日の緊急事態宣言で新規感染者の減少率には変化がなかったので、このとき安倍首相が国民に要請した8割削減に効果がなかったことは明らかだ。
では「小池都知事の3月25日の「感染爆発の重大局面」という記者会見がきいた」という説明はどうだろうか。上の図を見るとわかるように、3月18日ごろから実効再生産数は下がり始めていた。つまり3月中旬が感染速度のピークだったので、小池会見はピークアウトの原因ではない。
8割削減はなぜ空振りになったのか
ではその原因は何なのか。多くの人が指摘するのは、3月中旬にEUからウイルスが入ってきたことだ。これは国立感染症研究所も指摘している。
渡航自粛が始まる3月中旬までに海外からの帰国者経由(海外旅行者、海外在留邦人)で “第2波” の流入を許し、数週間のうちに全国各地へ伝播して “渡航歴なし・リンク不明” の患者・無症状病原体保有者が増加したと推測される。
この「感染の輸入」が3月21日のEUからの入国禁止、26日のアメリカからの入国禁止で止まったことが、ピークアウトの原因だったと思われる。感染を止めたのは水際対策であり、国内の自粛はほとんど効果がなかった。
霊感商法の論法でいうなら、入国拒否が遅れていたらEUのような感染拡大が起こっていたかもしれないが、爆発というほどではなかっただろう。それは4月に感染が急にペースダウンしたことをみてもわかる。日本の死亡率は3月末でイタリアの1/100だったのだ。
これが日本とEUの最大の違いである。EUでは国境閉鎖してロックダウンしたあとも感染が拡大して死亡率が上がったが、日本はほとんど上がらなかった。
その原因(山中伸弥氏がファクターXと呼ぶ)については諸説あるが、感染率や重症化率の大きな差は抗体などの獲得免疫だけでは説明できない。日本人にとっては、コロナは新しいウイルスではなかったかもしれないのだ。
8割削減が空振りになった原因は、複雑な自然免疫を無視して獲得免疫だけで機械的に感染が拡大するSIRモデルで考えたことだった。その教訓を学んで自然免疫のメカニズムを解明することが、今回の騒ぎの高価な教訓である。