毎日新聞によると、河野行革担当相が規制改革推進会議の投資ワーキンググループで、放送の規制改革について文化庁に「やる気がないなら担当部署を変える」と迫ったという。
この記事だけではわかりにくいが、「放送をインターネットで同時配信する際、映像などの使用許諾が別々に求められるため事業者の権利処理の負担が大きい」というのは、私が15年前から指摘してきたIP再送信の問題である。
IP再送信というのは図のようにテレビの映像をインターネットで配信するもので、世界中で行われているが、日本ではできない。技術的にはできるが、著作権法で事実上禁止されているからだ。
地デジだけは例外として県域放送のエリア内だけIP再送信でき、NHKはネット同時配信しているが、民放は10月から日本テレビが「トライアル」を始めるだけだ。それ以外の通信事業者やケーブルテレビやBS・CS放送は、まったくネット配信できない。「権利処理の負担が大きい」からだ。
テレビ番組には多くの著作権がからんでいるので、通信で再送信する場合には権利者の許諾が必要だ。たとえばドラマなら脚本家や作曲家や芸能事務所など、膨大な権利処理が必要になるが、テレビ局は例外とされて個別に許諾をとる必要はなく、1年に1回の包括契約でいい。
世界的にも放送のネット配信は「有線放送」として放送と同じ扱いになっているが、日本では2006年の著作権法改正でIP放送(マルチキャスト)が自動公衆送信という通信の一種に分類され、権利者に個別に許諾をとる必要があるため、放送のネット配信がビジネスとして成り立たない。
総務省はネット配信を有線放送扱いにしようとしたが、文化庁は通信だと主張した。このとき民放連が文化庁を支援し、地上波の既得権を守るために、IP放送は放送ではないという世界にも類をみない規制をつくらせたのだ。おかげで世界ではNetflixのような動画配信ビジネスが急成長しているが、日本の動画配信は壊滅してしまった。
河野氏の意欲はいいが、この規制を変えるには著作権法を改正してネット配信を有線放送と規定する必要がある。それには関係者の合意や文化審議会の答申が必要で、担当者レベルではどうにもならない。菅首相が指導力を発揮し、日本経済のデジタル化の一環として放送のネット配信に取り組まないと事態は動かないだろう。