スパイ活動の温床?「日中友好都市」計画の監視強化を

長谷川 良

海外中国メディア「大紀元」(11月19日付)に、4人の米上院議員が米中間の「姉妹都市計画」の厳格な審査を求める法案を提出したことが報じられていた。

同法案作成者の一人、共和党のマーシャ・ブラックバーン議員は17日、記者会見で、「中国共産党政権が友好都市プロジェクトを政治武器として利用し、スパイ活動や米国世論操作に利用している」と指摘している。米NPO「国際姉妹都市(Sister Cities International)」の統計では、米国の157の都市が中国各都市と姉妹都市関係を結んでいる。

神戸市と日中最初の「友好都市」を締結した中国・天津市(Liyao Xie/iStock)

同法案は「姉妹都市透明化法」と呼ばれ、米政府当局に「外国姉妹都市での米国内での活動を調査し、スパイ活動、経済的リストを厳重に調査すべきだ」というわけだ。

「姉妹都市計画」が米情報機関からスパイ工作機関と受け取られている「孔子学院」と同じような統一戦線の使命を帯びている、というものである。大紀元によると、ポンペオ国務長官は今年2月、全米知事協会の会議で、中国当局が姉妹都市関係を利用していると警鐘を鳴らしたという。

例を挙げる。チェコの首都プラハ市は北京市と姉妹都市を締結していた。プラハ市のズデニェク・フジブ市長は昨年、チベットへの支持を表明し、中国共産党による台湾政策「一つの中国」を受け入れられないと述べた。

そして同年10月、プラハ市は北京市との姉妹都市協定を終了させ、今年1月に台北市と姉妹都市関係を正式に結んでいる(「中欧チェコの毅然とした対中政策」2020年8月11日参考)。

ところで、「孔子学院」についてはこのコラム欄でも数回報じてきた。中国共産党政権は欧州では動物園にパンダを贈る一方、「孔子学院」の拡大を主要戦略としてきた。

2004年に設立された「孔子学院」は中国政府教育部(文部科学省)の下部組織・国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)が管轄し、海外の大学や教育機関と提携して、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的としているというが、実際は中国共産党政権の情報機関の役割を果たしてきた(「『孔子学院』は中国対外宣伝機関」2013年9月26日参考)。

オーストリアのウィーン大学にも開講されている。米国務省は「孔子学院」を中国共産党政権の情報機関とみなし、監視を強化してきた。全米学識者協会によれば、今年9月7日時点で、米国内の孔子学院は67校。既に54校が閉鎖、ないしは閉鎖中だという。

「孔子学院」は今年6月現在、世界154カ国と地域に支部を持ち、総数5448の「孔子学院」(大学やカレッジ向け)と1193の「孔子課堂」(初中高等教育向け)を有している。世界の大学を網羅するネットワークだ。

中国側の考えでは、「姉妹都市計画」を推進することで、「孔子学院」を開講できる環境を拡大し、先端科学情報を有する海外の科学者、学者のオルグ「千人計画」を進めていく。中国共産党政権下では全て統一戦線のもとで関連している。だから、「姉妹都市計画」についても厳しい目で監視しなければならないわけだ。

と、ここまで書いてきて「日本では日中姉妹都市計画はどうだろうか」と考えた。ちなみに、日本では中国側の要請もあって「姉妹都市」とは呼ばず、「友好都市」と呼んでいる。「姉妹」と言えば、どちらが「姉」で、どちらが「妹」かといった厄介な問題(?)が出てくるからだ。

日本は2018年12月末現在、1734件の友好都市を締結しているが、このうち日中間で締結された「友好都市」は364件。日米友好都市が454件だから、2番目に多いことになる。

ちなみに、日中国交が締結された1972年の翌年、神戸市と天津市が最初の日中友好都市となった。日中友好都市の締結件数の推移をみると、1990年代が最も多く144件だった。ただし、日中間の政治的悪化もあって直近の3年間では2016年0件、17年1件、18年0件と停滞している。

友好都市は両市の市長が署名した提携書をもとに、市議会で承認を受ければOKだ。日中友好都市を結んだ日本側が中国内に「在中国地方自治体事務所」を開設する。現在83事務所が中国に事務所を開き、観光、経済、人的交流、情報収集などの窓口となっている。

中国では国の認可なくして外国都市との姉妹都市を締結できない。国の外交、政治政策に合致しているか否かが大きな審査対象となる。

中国国際友好都市連合会の統計によると、中国は2018年12月末時点で136カ国との間で合計2629件の友好都市提携を行っている。欧州の都・市との友好都市提携数が941件と最も多い。中国共産党政権が先端科学技術をターゲットに「姉妹都市計画」を窓口に、欧州各地に積極的に進出しているわけだ(「独諜報機関『中国のスパイ活動』警告」2020年7月12日参考)。

日本の政界では中国の習近平国家主席の訪日が再び政治的議題となってきている。中国の王毅外相が今月24日から訪日する予定だ。「スパイ防止法」さえ持たない日本で中国共産党政権は着実にその情報工作を進めている。日本には既に日中友好関連の民間団体が7つある。

同時に、「友好都市」を日本全土に広げ、通称「友好都市交流事業」を通じて日本の地方行政にまで影響を及ぼしている。その組織的、持続的工作活動は日本政府が考えている以上だ。日本はスパイ防止法を早急に施行し、中国側の諜報活動を厳重に取り締まるべきだ。

注:当コラムで掲載しました統計は主に「自治体国際化協会」北京事務所作成の「2019年9月18日レポート」を参考にしました。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。