独諜報機関「中国のスパイ活動」警告

「独連邦憲法擁護報告書2019」(独連邦擁護庁公式サイトから)

ドイツのホルスト・ゼーホーファー内相は9日、ドイツの諜報機関、独連邦憲法擁護庁(BfV)がまとめた2019年版「連邦憲法擁護報告書」を公表した。388頁に及ぶ報告書では極左過激派、極右過激派の動向から、イスラム過激派のテロの動きが報告されているが、今回は特に中国の諜報、情報スパイ活動に対しても異例の強い警告を発しているのが特徴だ。

BfVの報告書では「習近平国家主席が政権を掌握した2012年11月以後、諜報・情報活動の重要度が高まった」と指摘、習近平主席は情報活動を中国共産党の独裁政権の保持のために活用してきたという。ドイツでは先端科学技術分野で独自技術を有する中小企業にターゲットを合わせ、企業を買収する一方、さまざまな手段で先端科学情報を有する海外の科学者、学者(「千人計画」)をオルグしていると指摘している。

中国の諜報活動、経済活動の目標はロボット技術、宇宙開発など先端分野で中国が超大国となるという習近平国家主席の野望「中国製造2025」戦略(Made in China 2025)を実現することにある。また、中国の諜報活動はドイツの軍事関連産業、武器体系、連邦軍の教育システムにも関心を注いでいるという。

報告書は「中国の諜報、スパイ活動を甘く見てはならない。彼らの諜報活動は北京の共産党政権直々の指令のもとに動かされているからだ」と説明。中国はドイツ企業関係者、学者に対して第3国で会合や商談を進め、魅力あるオファーを提供。そして最後は北京に招待する。国家主導のスパイ活動か個々の企業の通常の経済活動かの識別が難しいこともあって、ドイツの企業関係者は騙されてしまう。

中国企業は欧米の先端技術重要産業を豊富な資金力を駆使して買収してきた。ドイツでは2016年、中国の「美的集団」が、1898年にアウグスブルクで創設された産業用ロボットメーカー、クーカ社(Kuka)を買収して話題を呼んだ。

中国からの直接投資(FDI)の場合、北京側の地政学的、戦略的観点に基づいて買収されたドイツ企業は北京の共産党政権の目標に奉仕することが強いられ、企業関係者の言動は当然、監視対象となる。中国の投資戦略は長期的視野で実施されていることを忘れてはならないと釘を刺している。

欧州連合(EU)の欧州委員会は6月17日、外国政府から多額の補助金を受ける企業に対し、EU域内での投資や買収を規制する新提案を発表した。狙いはズバリ、中国企業だ。中国企業が北京から巨額の補助金をもらって外国企業を買収するケースが多いからだ。EU首脳会談は今年3月、「欧州域内の戦略的資産や技術を守る」ための対策案を検討している。

BfVの公式サイトより

報告書は「中国の投資は経済的依存を生み出す」と警告する。新型コロナ感染でも明らかになったように、生産のサプライチェーンが中国側に握られることで、北京側の意向をドイツ側は無視できなくなるという構図だ。

中国の経済スパイの目標は「中国を世界の経済大国にすること」にある。そのため、経済スパイ活動、サイバー攻撃で科学・技術関連情報を収集する。その結果、「中国側の手に落ちた企業ばかりか、ドイツの国民経済にとっても著しい被害が出てくる」と説明している。

ドイツのシンクタンク、メルカートア中国問題研究所とベルリンのグローバル・パブリック政策研究所(GPPi)は2018年1月5日の時点で、「欧州でのロシアの影響はフェイクニュース止まりだが、中国の場合、急速に発展する国民経済を背景に欧州政治の意思決定機関に直接食い込んできた。中国は欧州の戸を叩くだけではなく、既に入り、EUの政策決定を操作してきた」と警告している。

BfV報告書は「世界の政治情勢とそれに関連した中国側の政治的、経済的野望は今後もスパイ活動や影響力の行使などに一層強化される」と予測している。新しい「国家安全法」が施行されたことで、国内外の中国人への監視、規制は強化されるとみている。

6月末に開かれた連邦議会監視委員会で「ほぼ毎月、ベルリンで中国のスパイが拘束されている」と報告されている。BfVのトーマス・ハルデンヴァング長官は、「ベルリンは既にスパイ活動の主要拠点となっている。その活動規模は冷戦時代と同程度、特定の分野ではそれ以上だ」と述べている。

中国は国民ばかりか、自国居住の外交官、ビジネスマン、学生たちの全ての情報を収集している。ドイツのデータバンクや中国の社会クレジットシステムは情報源として利用されている。中国のアリペイ(支付宝=Alipay)やテンセントの微信 (WeChat Pay) などのオンライン決済を利用する者は自動的にその情報は中国当局の手に渡る(「中国の監視社会と『社会信用スコア』」2019年3月10日参考)。

中国共産党政権は一党独裁を否定したり、少数派民族の独立運動など、反体制派(ウイグル人、チベット人、法輪功信者たち)に対して厳しく監視している。中国治安関係者はそれらの反体制派運動を5つの毒(Five Gift) と呼んでいる。

中国共産党政権は今年7月1日を期して香港に対し新しい「国家安全維持法」を導入したことで、香港市民にも北京の国家安全法が及ぶことになった。そのためドイツ外務省は自国民に香港旅行への注意を促している。ドイツと香港の間には犯罪人引き渡し条約があるからだ。カナダやオーストラリアは香港との引き渡し条約を停止、ないしは破棄している。

注:上記のコラムには海外中国メディア「大紀元」独語版を参考にしました。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。