政府の「脱炭素」推進は、ポーター理論と「やってみなはれ」で

2020年12月21日 06:00

mindscanner/iStock

世界的にコロナ禍に見舞われた2020年でしたが、年の瀬になり、各国で近年強まっていた「脱炭素」「カーボンニュートラル」のトレンドが我が国でも大きく意識づけられました。皆さま、ご承知の通り、菅総理が先の臨時国会で、2050年までに、国内外の温暖効果ガス(CO2)の排出を実質ゼロにすると宣言されたことがきっかけです。

海外では、欧州のライエン委員長をはじめ歓迎する声が聞かれていますが、今回掲げた目標達成が並大抵のことではないことは明らかです。というのも、我が国はもともと「2050年80%削減」を掲げていましたが、これとて「野心的な目標」という声が少なくありませんでした。

そもそも、原発の稼働がかつてのように望めない中で、火力発電をはじめ、化石燃料の使用を減らさなければならず、これまでの省エネ技術だけでは難しいと言えます。そして今回の「2050年実質ゼロ」は「80%削減」を上回る目標設定ですので、とてつもなく高いところにハードルを上げてしまった感があります。

実際、経団連の中西会長は総理の演説直後に出された談話で、「2050年カーボンニュートラルは、言うまでもなく、達成が極めて困難な挑戦」と述べられました(出典:経団連サイト)。

2兆円基金、産業界の挑戦に政策的後押しを

しかし、一方で、中西会長は「経済成長との両立を図るうえでは、革新的技術の開発・普及、すなわちイノベーションが不可欠である。これは日本の産業競争力の強化にもつながるものである」とも指摘されました。

この間、経産省や電力業界、自動車業界の情報や関係者の反応に触れていますと、産業界の目の色が着実に変わってきていることも実感します。カギとなるのが、CO2を回収・貯留する技術「ネガティブエミッション」をいかに進化させていくかです。

まだ多くが構想段階ではあるものの、たとえば鉄鋼では、水素還元製鉄技術という超革新的な手法で「ゼロカーボン・スチール」の実現をめざしていますし、紙パルプ製造では、脱水や乾燥の工程で使う熱源をバイオマスに転換することなどが想定されています。

いま世界各国でこの技術競争に突入しているわけですが、日本は環境技術(カーボンリサイクル)については競争力がありますので、ここで勝ち抜くべく政策資源を惜しまず投入したいところです。まずは研究開発税制の拡充、企業に設備投資を促す税制ですね。第3次補正予算では、研究開発を国として後押しするための基金2兆円も設け、電化と電力のグリーン化や水素社会の実現、CO2固定・再利用等の重点分野の研究開発を向こう10年支援していきます(参照:経産省資料)。

エネルギーの変革は必須だが、自動車産業にも大試練

電気自動車のステーション(Dmitriy Popoff/iStock)

少し気がかりなのは自動車産業です。自動運転や、MaaS(Mobility as a Service :マース)と呼ばれるICTと組み合わせた新しい車の乗り方など、100年ぶりとも言われる大変革に直面しているわけですが、ハイブリッド車やEV(電気自動車)といったエネルギーの転換にどう対応するか。世界的にはテスラ社製や中国製のEVおよびMaasが台頭しつつある中で、トヨタをはじめとする日本勢がどう立ち向かっていくか。

もちろん、日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が先日、報道各社の取材に対して「国のエネルギー政策の大変革なしに(政府の目標)達成は難しい」と指摘されたような根本的な問題はあります。

一方で、世界との競争は予断を許さなくなっているのも事実です。EVで最重要な部品となる電池シェアの近年の動向について、経産省に確認したところ、つい4年前、日本は世界トップの35%のシェアを占め、中国(当時29%)、韓国(同14%)をリードしていたのが、昨年(2019年)は中国が40%、日本は28%と逆転され、韓国も18%と追い上げられているという危機的な情勢です。

自動車は部品メーカーや、ガソリンスタンドなど国内に裾野が大変広い産業なので、なんとしても日本経済の主翼として引き続き踏ん張ってもらわねばなりません。

政策効果を示唆する世界的経営学者の理論

コロナ禍以前から指摘されていた産業構造の転換と併せて、カーボンニュートラルが日本企業に否応なく変革の試練を突きつけている格好です。

「政府が無理な目標を掲げては意味がないのではないか」とのご批判もありますが、世界的に著名な経営学者でハーバード大学教授のマイケル・ポーター氏は次のような考えを示されています(ちなみにポーター教授といえば、「ファイブフォース(5つの力)分析」や「バリュー・チェーン」といった今日の企業経営で不可欠な理論を提唱されました)。

いまのように不確実性の高い経済状況にあって、企業も含めたイノベーションを社会全体に促すには、政府が短期にあれやこれやと介入するのではなく、あらかじめ高い数値目標を掲げて長期の移行期間を確保し、規制緩和を含め、適切な政策的対応を図るほうが政策効果はより有効になるというのです(下記、図解参照)。

最後は「やってみなはれ」の精神で

ビジネスの歴史を振り返ると、革新を起こし、奇跡的な成長を遂げた企業は、創業者などが崇高な理想と目標を掲げ、従業員が一丸となってその実現に取り組んできました。大阪でいえば、サントリーの初代社長、鳥井信治郎さんの「やってみなはれ」が思い浮かびます。

この言葉、鳥井さんが我が国初のウイスキー製造に乗り出した時など、未知の分野への挑戦を決意し、周りから反対されるたびに述べたものとして有名です。そこから従業員のトライ&エラーを奨励すると思われがちですが、時代によって解釈が変わっているようで、初代の鳥井さんと2代の佐治敬三さんの時代は、「創業者の決めた方向性に従い、戦術レベルで社員が挑戦を行っていく」「社長が決めたことを社員が何とかしてやってみろ」という意味合いがあったと解釈しているようです(参照:サントリー「やってみなはれの歴史」)。

誰かが言わねば国を挙げての社会構造、産業構造の転換はできません。そこはまさに政治の役割。世界各国の脱炭素政策競争にあって、菅総理の掲げた“脱炭素、やってみなはれ”に賭けてみる価値はあるのではないでしょうか。それが、日本の新しい産業政策であると思います。

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太田 房江
参議院議員(大阪選挙区、自民党)、元大阪府知事

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