違法「カタルーニャ大使館」の開設に拘るカタルーニャ州政府

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カタルーニャ州政府がコロナパンデミックにあって感染者そして死者が多く出ているにも拘わらず、世界15カ国とEU本部に、存在が違法とされる「カタルーニャ大使館」の大使の給与として多額の資金を使っているという批判がつい最近ジャーナリストが集まっての討論で話題になった。

「違法」でも世界15カ国に存在する大使館

この情報の出どころは11月8日付にてスペイン電子紙『OKDIARIO』が掲載した記事によるものである。それによると、世界15カ国とEU本部に違法「カタルーニャ大使館」の大使の給与として130万ユーロ(1億6000万円)を使っているという批判の記事を掲載した。大使の年俸は8万7546ユーロ(1070万円)と報じている。

例えば、EU本部にはサッカー監督グアルディオラ氏の姉フランチェスカ・グアルディオラ氏が就任している。同様に在ベルギー大使にはプッチェモン前州知事と一緒に逃亡したマリチェル・セッラ前農務長官が就任している。

15カ国へのカタルーニャ大使館というのは以下の国で開設されている。ベルギー、スウェーデン、ドイツ、英国、イタリア、フランス、スイス、オーストリア、ポルトガル、クロアチア、リトアニア、米国、メキシコ、アルゼンチン、チュニジアの15カ国の首都にそれぞれ開設されている。なお、スウェーデンは北欧3カ国、クロアチアはセルビアとボスニアも含み、リトアニアはバルト三国のラトヴィアとエストニアも兼ねている。

今年10月にはオーストラリア、日本、セネガルの3か国にもカタルーニャ大使館を開設することを州政府は発表した。カタルーニャ大使館は勿論各国の首都に開設しているということで日本の場合は東京に近くカタルーニャ大使館が登場することになる。

東京にも進出。違法の理由

ここで一つ疑問が沸く。カタルーニャ大使館というのは合法なのか?という疑問である。カタルーニャは自治州であって国家ではない。国家の外交は外国に開設されたスペイン大使館が代理を務めることになっている。カタルーニャ大使館というのは、あたかも外国に日本大使館とは別に例えば東京都が東京大使館を設けるようなもので、これは勿論違法である。スペイン憲法裁判所もその存在を違憲だとしている。

だから、カタルーニャ州政府が独立のための違法住民投票を2017年10月1日に実施したあとスペイン政府はカタルーニャの自治機能を一旦停止させると同時にカタルーニャ大使館も閉館させた。この時点で州政府はすでに世界27カ国に開設していたが、その機能を停止した。この27カ国の中には東京も含まれていた。

そのあとカタルーニャ州選挙が実施されたが、またもや2つの独立派政党が連携して過半数の議席でもって政権を担うこととなった。スペイン政府は自治機能を復活させた以降は独立反対政党が政権を担うことを望んだが、そうはならなかった。ということで自治機能が復活したあと、この連立政権はまた大使館の開設を再始動させたのである。

カタラン人というのは物事を執拗に要求して行けば最終的に希望する物を獲得できると確信している人たちだ。それが違法であってもお構いなし。独立すればスペイン政府は如何なる干渉もできない、と考えているからだ。

カタルーニャ州政府が大使館開設に拘る理由

ここで捕捉として言及しておきたいことがある。スペインが民主化になった以降、カタルーニャで実施された選挙で独立派を支持する有権者の票が独立に反対する票を上回ったことは一度もない。常に独立反対票の方が票数は多い。ところが、選挙区による議席数の割り当ての不平等が影響して独立支持派の議員の方が反対派の議員よりも上回るようになっている。

ではなぜカタルーニャ州政府は大使館の開設に拘るのかというと、カタルーニャが将来独立するためである。大使館を開設した国でロビー活動をしてカタルーニャは独立するための十分なる歴史的背景を持っている。それをスペイン政府が邪魔していると訴える機関としてカタルーニャ大使館を機能させるのである。

また、同時にカタラン語の普及にも努めている。スペインがセルバンテス協会を通してスペイン語の普及とスペインの歴史と文化を伝えているようにカタルーニャ州政府にはラモン・リュイル協会という組織があり、大使館を通してカタラン語とカタルーニャ歴史と文化の普及に努めている。

地中海を挟んだ対岸のモロッコからカタルーニャに出稼ぎに行くのを望む人はスペイン語よりもカタラン語の習得を義務付けているということを筆者は聞いたことがある。

カタルーニャで外務省に匹敵するのがディプロカッ(Diplocat)という組織で、カタルーニャ大使館の開設並びに大使の人選はこの組織が担っている。昨年11月に掲載された電子紙『LAINFORMACIÓN』によると、2011年から2017年の自治機能が停止されるまでにディプロカッが使った公的資金は4300万ユーロ(52億9000万円)と報じている。公的資金ということはカタルーニャの独立のための外交活動に反対する人が納めた税金も違法大使館の開設に関係した費用に使われていたということになる。

しかも、カタルーニャ大使館が開設される場所はどの国でも一等地だ。家賃の安いところなど彼らの対象外だ。それではみすぼらしいイメージを与えてしまうだけだというのが理由らしい。独立を目指すからには外国でカタルーニャ州のイメージを外見からしてより良いものにする必要があるからだ。

カタルーニャ州政府の独立への意欲が如何に凄まじいかというのを示す例として、今年8月に再度掲載された電子紙『Vozpopuli』によると、スペイン政府が自治機能を停止させて州政府が保管していた独立プロセスに関しての書類を押収したが、その中に州政府のカタルーニャ共和国になった暁のプランが明らかにされていたという。

それによると、この先10-15年間で世界60カ国に大使館を設けるというプランが明らかにされたというのだ。ということで、州政府が如何に大使館の開設に重要度を置いていたのかというのが明白に分かる。

再び大使館開設の動きが出た政治的事情

ということで、自治機能が復活して独立派政党が政権に就くとまた大使館の開設に動きが始まったのである。最初に英国、アイルランド、スイス、ドイツ、イタリア、フランス、米国に開設した。それに対してスペイン政府はその阻止に動いて憲法裁判所に訴えた。2018年10月末にそれが違法であるという判決が下った。

スペインのサンチェス首相(本人ツイッターより)

ところが、その判決の前の6月に当時国民党のラホイ首相に対し社会労働党のサンチェス党首(現首相)が議会に内閣不信任案を提出。それが議会で可決されてラホイ首相は辞任。サンチェス党首が首相になり政権が国民党から社会労働党に移ったのである。

サンチェス氏は首相にはなったが、社会労働党は過半数の議席も持っておらずカタルーニャの政権を担っている独立派の下院議員の票も必要になっていた。また彼の内閣不信任案が可決したのもそこに独立派の支持票があったからである。

そのような事情から、サンチェス首相は今度はカタルーニャ高等裁に憲法裁判所の判決をもとに大使館の廃止を求めて提訴した。カタルーニャ州政府の独立派の下院議員の票を常に必要とするサンチェス首相にとって提訴はしたが、それを強く押す意向はない。

さらに、州政府にとってラッキーだったのは、カタラン人でカタルーニャ独立反対派のジョセップ・ボレイル外相がEUの外務安全保障上級代表に就任したことであった。この人選で、スペイン政府内でカタルーニャ大使館開設に強く反対を表明する外相がいなくなったのである。そして、その後釜に就任した外相アランチャ・ゴンサレス氏は国際貿易のエキススパートではあるが、外交については全くの素人である。

これでスペイン政府は暗黙の内にカタルーニャ大使館の開設をあたかも認めたかのようになって、「カタルーニャ大使館が違法行為をするようなことがあればスペイン政府はその大使館の閉館を即刻命じる」と表明しただけに終わっている。そもそも大使館の開設そのものが違法なのであるから、違法行為をするしないの云々を政府が言う前に即刻大使館の開設を廃止させるべきである。が、それができない事情がある、

というのも、今は極左派政党ポデーモスとの連立政権であり、しかも過半数にはまだ届かないサンチェス政権には常にカタルーニャの独立派政党の下院での議席票が必要となっている。だからカタルーニャ大使館の廃止を命じるだけの力はない。しかも、ポピュリズム政党ポデーモスはカタルーニャの独立派政権を味方しているのであるから尚更違法カタルーニャ大使館の廃止を政府が決めることはできない。

カタルーニャの独立への動きは今後も止むことなく続くのは確実である。カタルーニャで独立への動きを容易にするような姿勢を示せば、バスク州政府もそれに呼応してスペイン政府にカタルーニャに付与したのと同じような権利を要求するようになる。それは将来的にはスペインの統一を難しいものにする可能性も生まれるかもしれない。

実際、スペインの王家を抱く立憲君主制を廃止する方向に彼らは動きている。政権にしがみつこうとしているサンチェス首相による現政権は危ない橋を渡っているのである。社会労働党内部でも本来の社会労働党が歩むべき道から逸れているサンチェス首相の動きに反対する動きも次第に強くなっている。