龍馬の幕末日記① 『私の履歴書』スタイルで書く

2021年01月01日 06:00

AlexSava/iStock

新年明けましておめでとうございます。

昨年は、NHK大河『麒麟がくる』にあわせて「光秀と信長の真実」というシリーズを、『浅井三姉妹の戦国日記』というかつて書いた本をリメイクして短期連載したら好評だったので、『織田と豊臣の真実』『豊臣と徳川の真実』も書かせて頂きました。

新年は幕末に舞台を移して、『龍馬の幕末日記』というタイトルで新シリーズを始めます。『坂本龍馬の「私の履歴書」 』(SB新書。 本は絶版ですがKindle版でお読み頂けます。ぜひ、入手してください)という本を活用し、私が書いた他の著書も使いながら、坂本龍馬の目を通した幕末という時代を描きます。

司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」など時代小説のなかでの坂本龍馬はスーパーヒーローだし、NHK大河ドラマ「龍馬伝」の主人公も、現代の若者に受けそうです。しかし、それは幕末の動乱期のどろどろした現実の中で生きた、龍馬という土佐出身の青年の実像とはかけはなれたものであり、そんな大衆娯楽小説やドラマから、世の中や人生について教訓を得ることができようはずもありません。

あえて言いますと、「賢者は歴史から学ぶ」などという格言を信じるなら、歴史小説や大河ドラマなど見ないことをお勧めします。とはいえ、硬派の伝記や研究書からは、龍馬の息づかいが聞こえてきません。そこで、龍馬が現代にタイムスリップして、「私の履歴書」を新聞に連載したらどうなるかという想定で書きました。

できる限り、確かな資料のみを使い、不明だったりいくつもの説があることや、私の推測にすぎないところは、それと分かるように書き分けてあるし、それでも足りないことは注釈にしてあります。また、『竜馬がゆく』については、細かく、どこが史実と違うかも指摘しています。

プロローグ:「龍馬神話」は気恥ずかしい

慶応2(1866)年または3(1867)年に上野彦馬が長崎に開業した上野撮影局で撮影(高知県立民俗歴史資料館所蔵品/Wikipedia)

『「日本を洗濯」した大胆な改革者』
『「船中八策」という独創的な提案で維新を実現したヒーロー』
『郷士という低い身分だが命がけの「脱藩」で天下へ雄飛』。

令和の世に生きる人たちには、私、坂本龍馬のキャッチコピーとしてこんなところが、心に焼き付いていることだろう。

だが、そんな風におおげさに言われるのは、人に誉められることが嫌いなほうでない私でもさすがに戸惑ってしまう。

ルックスから言っても私はそんな格好良いわけではなかった。身長は六尺(180センチ)足らずあったが、体重も80キロほどあって、一言で言えば押し出しの良い体育会系の体型だ。

それに髪の毛が薄くて、しかも、天然パーマだ。長崎で撮った有名な写真では眼を細めて遠くを見つめていかにも気宇壮大そうだが、あれは、ひどい近視のせいだ。顔には眉間など何カ所にもホクロがあり、背中には毛が濃く生えていた。

声は低音でゆったりと話し、国事については熱っぽく話したが、それ以外は寡黙だった。挨拶などあまりせず、人の家で寝転がったり、庭で立小便するなど傍若無人で行儀は悪いといわれていた。

大河ドラマでの福山雅治さんなど二枚目タイプが、ドラマや映画で私の役をやっていただいて光栄だが、だいぶタイプが違う。やさしかったからか、女性に結構惚れられたのは事実だが、イケメンでないのにもてたのが自慢なのだ。

そういうふうに龍馬神話を壊していくと、少し幻滅される読者も多いかもしれない。たしかに、私は決してスーパーマンではない。それでも、幕末というとてつもなく面白い時代にあって、土佐という国から離れて、武士の志と商人の自由闊達さを併せた感覚で自由にのびのびと生きて、日本が世界の大国として活躍できる土台をつくるのに少しはお役に立てたのだから、間違いなく悔いのない人生であった。

明治の新しい日本や日清・日露戦争の勝利をみることはできなかったが、大政奉還という区切りに一役買えて、しかも、暗殺されてしまう少し前には、正々堂々と凱旋と言うほどではないにせよ、高知の故郷に立ち寄って兄の権助、姉の乙女など懐かしい人たちと再会できたのだから、まずは、幸せだったと満足している。

そんな私の長くはない生涯について、小説やドラマではスーパーヒーローとして扱われがちだ。司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」では、もう、若い時からとてつもなく志が高い青年になってしまっているし、大河ドラマの竜馬も爽やかすぎる。

そういう龍馬は爽快な気分を与えてくれるかもしれないが、やはり乱世に生きる令和日本の人たちにとって、実際的な参考になるとは思えない。むしろ、現実離れした無責任な気分をもたらすだけでないか。

その意味で、もっと、生身の人間くさい龍馬の真実を知り、真剣に自分がやれることに情熱をもって取り組める参考にしたいなら、この連載は役に立つだろう。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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