日本経済の「失われた20年」 - 池田信夫

2009年02月03日 16:30

オバマの就任演説は、意外に地味だったという世評が多いようですが、経済政策としてみると、なかなか含蓄があります(読売新聞訳)。

米国は依然として地球上で最も繁栄し、力強い国だ。我々の労働者は今回危機が始まった時と同様、生産性は高い。我々は相変わらず創意に富み、我々が生み出す財やサービスは先週や先月、昨年と同様、必要とされている。能力も衰えていない。[・・・]我々は新規の雇用創出のみならず、新たな成長の礎を整えることができる。道路や橋を造り、電線やデジタル通信網を敷き、商業を支え、我々を一つに結び付ける。


この不況のさなかに「景気対策」とか「財政刺激」といった言葉をまったく使わず、「米国の生産性」を強調し、「雇用創出」を強調したことが印象的です。今回の8000億ドルを上回る財政政策も、インフラ投資によって米国の生産性を高める政策と位置づけています。これはNEC議長のサマーズの考え方だと思われ、ここ30年の経済学の進歩を反映しています。短期的な財政・金融政策の効果は、かつて信じられていたほど大きくないことが実証的に明らかになってきました。経済全体にヘリコプターから金をばらまくような政策によって、本当に必要な人に金が行き渡る保証はないからです。

かりに景気対策に効果があったとしても、それは財政政策が終わったら元の木阿弥です。定額給付金を支給する政府は「全治3年」といっていますが、不況が3年で終わる保証はまったくありません。バラマキが終わった段階で経済が治癒していなければ、またバラマキをやらなけらばならない。それは日本の場合、財政赤字によって制約されており、これ以上赤字が増えると国民の不安がかえって高まります。金融政策も、ほぼゼロ金利になって、もう弾は撃ちつくした感があります。

だから日本経済が立ち直るために必要なのは、生産性を上げて潜在成長率を高める長期的な政策です。図のように、日本の潜在成長率は1980年代の4%から90年代に1%以下に急速に低下し、その後わずかに回復したものの、今回の不況でまた低下したと推定されます。この3%の損失がもう20年近く続いたため、日本のGDPはそれ以前の成長率を外挿した水準に比べて20%以上低い。つまり90年代以降、「失われた20年」が続いているのです。


日本の潜在成長率(経済財政白書)

このまま1%前後の潜在成長率が続くと、経済財政白書が懸念するように、日本は長期衰退の局面に入るでしょう。それは成熟した社会の宿命ともいえますが、昨今の「格差問題」が示しているように、衰退する社会というのは必ずしも安らかではなく、かえって限られたパイの奪い合いが激化する不安な社会になるおそれが強い。貧しい人に再分配するためにも、一定の成長は必要なのです。

こうした長期的な問題については、財政・金融政策は何の役にも立たない。潜在成長率を引き上げるには、この図でいうTFP(全要素生産性)を高めるしかありません。それにはイノベーションを高め、競争を促進して生産要素を流動化する必要があるのですが、昨今の「雇用対策」は逆に雇用の固定化を進めています。

これは松本さんもおっしゃるように「資本家が労働者を搾取している」というマルクス主義の影響が強いと思います。本来マルクス主義には「共産主義革命」という長期の理論があったのですが、それが崩壊したため、最近の「階級闘争」派の人々の話は「資本家はもうけをよこせ」と求めるモノトリ闘争でしかない。こんなのは階級闘争としても堕落した形態です。もう20年も失ったのだから、われわれもそろそろ子孫に影響する長期の問題を考えてはどうでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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