雇用を確保しながら労働移転を行う方策 - 松本徹三

2009年08月03日 12:00

池田先生は常日頃から、「当面の雇用を確保するために『将来性がなく、生産性も低い産業分野』を保護し、これによって、国家レベルでの競争力強化に必要な『将来性があり、生産性も高い産業分野』への労働移転を阻害する政策」の愚を、繰り返し指摘しておられます。しかし、政治の現実は、この明らかな愚策を敢えて行わざるを得ない状況を作り出しています。私は現実主義者ですから、この両方を何とか両立させる方法がないかといつも考えてきました。今回はその具体策の提案です。


相当以前に、私はアゴラのブログで「光通信網を全国規模で建設すべし」という議論を展開しましたが、(ICT最先進国への道 – 何故「光通信網」なのか?)おそらく大方の人達は、これを「目先を変えた公共事業拡大策」として捉え、「めったに車の通らない高速道路の建設」と同じ次元の「税金の無駄遣い」として、冷ややかに見てこられたのではないかと思います。しかし、これは誤解です。

私がこの構想にこだわっているのは、「光回線網(ブロードバンド)」は、当初は電灯しか考えていなかったにもかかわらず、今や多種多様な家電製品をサポートしている「各家庭への電力線の施設」と同じで、「先行して施設することによって、多くの新しい需要が喚起される」という効果を信じているからです。

今やどんな過疎地に行っても、電力線が来ていないような家はないように、近い将来、「ブロードバンドがつながっていない家などは考えられない」ということになるのは確実でしょう。それなら、早い時点で、先行的且つ計画的に施設する方が経済的にも合理的であり、「とにかく何らかの経済刺激策が必要」と考えられている現時点こそが、そのタイミングであると考えたわけです。

(技術的には、「これからは無線の時代なのに、何で今更『光通信』なのか」と考えられる方も多かったようですが、この点については既に反論したことなので、ここでは詳しくは再論しません。私は長年無線通信の仕事をしてきた張本人ですから言えることなのですが、電磁波という物理現象は扱いが厄介なもので、「飛躍的に効率的な高速無線通信」などというものは、そう簡単・安価に実現できるものではありません。真の大容量通信を考える限りは、既につながっている電話線を単純に光ファイバーに変える方が、多くの場合はるかに合理的です。勿論最後の数十メートルは別の話ですが…。)

「長期的に見て、経済的に辻褄が合う投資」であり、「通信密度の低いところの不採算性を通信密度の高いところが補うメカニズム」が成り立つ限りは、この計画のために税金を投入する必要はありません。全国規模の電話線の施設が、「電話債券の発行」などの方法で税金を使うことなく実現できたのですから、この計画も、「政府保証付の長期目的債」を発行すれば、税金を使うことなく遂行可能でしょう。このような「未来志向の目的債」なら、私は自分自身でも海外の投資家に売り捌く自信もあります。

さて、前置きはこのくらいにして、本論に入ります。何故この計画が「目先の雇用確保」と「長期的な労働移転」に有効なのかということを説明したいと思います。

今、日本中には、膨大な量の「銅線をベースとした通信網」が施設されており、その規模は、日本列島には巨大な銅山が眠っているといわれるほどだと言われています。そして、この更なる拡充と保守のために、多くの工事会社が存在していて、そのそれぞれが多くの技術者や労働者を雇用しており、その多くは50歳以上の中高年層だと言われています。

しかし、旧来の通信網は既に飽和状態にあり、NTT東西による光通信網の新規工事も経済性の理由から頭打ちになりつつあるため、これらの工事会社とそこで働く人達は、仕事の先細りと人員削減におびえている状態です。

池田先生は、「これらの余剰労働力はソフトやサービス分野での新規労働需要が吸収すればよい」と言われるかもしれませんが、現実問題としては、昨日まで電柱に登って配線工事をしていた人に、明日からパソコンを使ってソフトのメンテナンスをやれといっても無理というものです。労働移転は、長い時間をかけてじっくりと計画的に進めていくのでなければ、あらゆるところで不幸な事態が起こります。

ところが、今、「何れはやらなければならなくなる筈の銅線から光ケーブルへの付け替え工事」を前倒しして5年間ぐらいの間に一気にやってしまうことにしたらどうでしょうか? このような工事に熟達している中高年の労働者は、5年間の仕事が保証されて、不況下でももはや雇用不安におびえる必要がなくなる一方、若い世代の労働力は、ブローバンドが可能にする種々の新しいサービス事業が、これからじっくりと時間をかけて吸収していくことになります。

こうすれば、現在の中高年層が安定した老後を送っているであろう5年後には、池田先生が力説しておられるような「労働移転」が、全国規模でスムーズに実現しているということになるのではないでしょうか?

私は基本的に市場原理主義者に近い考えを持つ人間ですが、時と場合により社会主義的な施策が必要となることを否定するものではありません。特に今はその時期だと考えております。そして、現在のような未曾有の不況下で、社会不安を回避しつつ産業構造の転換に対応する為には、私が提案しているような長期的な国家プロジェクトがどうしても必要な気がするのです。

私はどこかで何かを見落としているでしょうか?

(余談ですが、中国は世界有数の銅の消費国であり、現在その需要が更に急拡大している為、銅の地金の国際相場は急騰している由です。世界有数の地下銅山を持っている日本は、上記の施策によって、相当の外貨も稼げるはずです。)

松本徹三

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