国の借金額最大を報道しない理由 - 岡田克敏

2009年08月18日 11:34

 「財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券を合計した「国の借金」の総額が6月末時点で860兆2557億円になったと発表した。3月末に比べて13兆7587億円増え、過去最大額を更新した。税収減や経済対策に伴う借金が膨らんだため。7月1日時点の推計人口の1億2761万人で計算すると、1人あたりの借金は約674万円となった」(8/10 NIKKEI NET)

グーグルニュースで検索すると、主要紙のなかでこれを報道したのは日経、読売、産経で、報道しなかったのは朝日、毎日であったことがわかります。すべて見ていたわけではないので断定はできませんが、NHK総合テレビも報道しなかったものと思われます。


 小さな問題だと思われるかもしれませんが、メディアの認識を示すものと考えれば、その意味は小さくありません。財務省発表なので、朝日、毎日、NHKは知らなかったのではなく、知っていながら故意に報道しなかったものと考えられます。右寄りと言われる3社が報道し、左寄りとされる2社とNHKが無視したことは興味深いことです。

 財政の危機的状況を白日に晒すような報道は、バラマキを戦略の中心に置き、財源問題を曖昧にしている政党にとっては不利に働き、具体的な増税計画を示すような政党には有利に働きます。

 借金が最高額になったという発表は、ことの重大さを知らせるよい機会です。にもかかわらず無視した朝日、毎日、NHK(推定)は財政赤字の状況を国民に知らせることが重要とは考えていない、と推定できます。無視したのは、彼ら自身に財政が危機的状況にあるという認識が乏しいためなのか、あるいは他の政治的な理由のためかわかりません。どちらにせよ納得できるものではありません。報道した3社もその扱いは大きいとは言えず、危機という認識は薄いようです。

 02年、日本国債は格下げされ、先進国で最悪、ボツアナと同じ格付けになったことが話題になりました。「私の任期中には、消費税率を引き上げない」という小泉元首相の発言は03年です。この当時から増税の必要性が議論されていたことがわかります。その後、3代の首相が続いた09年まで税率は上げられませんでした。さらに、次の民主党ら3党の共通政策では今後4年間は消費税率を上げないとしていますから、その場合は13年までは現行のままとなります。結局、03年からすると、10年間も増税せず、借金を増やし続けることになりそうです。

 文芸春秋9月号に「16兆円マニフェストを検証する」という記事があります。そこに日本の財政状況を家計に例えたわかりやすい話があるので概要を紹介します。

 『父親の年収(税収)は460万円、配当や貯金の取り崩し(その他収入)90万円を繰り入れ、さらに330万円を借金し、合計880万円になった。家計の4割近くを借金で賄うだけでなく、過去の借金残高が5500万円、利子の支払いだけで200万が消える』

 極めて危機的な状態であることは明らかです。しかし、今この家で議論しているのは金を何に使おうかということばかりで、きちんとした借金返済の計画を考える気持ちもないようです。刹那を楽しみ、「あとは野となれ山となれ」と言わんばかりの態度と映ります。

 アルゼンチンのような破綻が起きなかったとしても、先送りは解決をより困難なものにし、将来世代の負担を増やします。そして家計の例で言えば病気をするゆとりもないわけで、不測の事態が起きたときの選択の幅は確実に狭くなります。

 国の借金が過去最大となったことを主要メディアの半分が無視し、他のメディアもたいして大きく取り上げないという事実は、濃淡はあるもののメディアが財政危機を深刻なものと認識していないことを示しています。日本の政府債務が先進国中最大になり、さらに悪化していく背景にはこのメディアの見識があると思われます。

 ドイツのメルケル首相は付加価値税(消費税)を16%から18%に上げることを選挙公約に掲げて政権を獲得しました。日本の公約は甘いものばかりと相場が決まっているので、両国の差に驚きます。GDPに対する政府債務残高比率が日本の1/3ほどの国で、国民が財政再建の方向を選択したことは注目に値すると思われます。

 ユーロ圏の財政規律に違反した状態という事情もあったようですが、少なくともドイツのメディアの見識が日本のメディアと同様であれば、増税が選択されることはなかったかもしれないと想像します。日本のポピュリズムを主導しているのは国民というより、むしろメディアではないかと思われます。

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