代表的家計について - 池田信夫

2009年09月22日 13:18

池尾さんの記事へのコメントの続きですが、ライブドアのコメント欄は800字以内なので、記事として書きます。非常にテクニカルなので、マクロ経済学に興味のない人は無視してください。


池尾さんがリンクを張っているKocherlakotaの論文は、おおむねその通りですが、1.は「経済学が異質性を無視していない」と書いているだけで、池尾さんのいうように「代表的個人がすべてを決めているわけでもない」と主張しているわけではありません。

The heterogeneity comes in different forms. It may be heterogeneity in terms of income or wage realizations. It may be heterogeneity in terms of job arrivals. It may be heterogeneity in terms of sex or age. It may be heterogeneity in terms of information about the macro-economy.

これらは最適化の主体としての代表的家計の仮定を放棄しているわけではなく、それがどの程度の異質性のもとで妥当な仮定かを調べているだけでしょう。この分野の新世代の代表であるAcemogluの教科書も、Sonnenschein-Mantel-Debreuの定理を引用して、異質な個人の選好を単一の代表的家計の合理的な効用関数として集計することはできないと認めています。

このように集計が不可能になるのは所得効果が原因なので、全国民の所得が等しいと仮定すれば、代表的家計の仮定は成り立ちます。また所得効果が無視できるCES効用関数のようなものを仮定すれば、集計は可能です。しかしこれらはいずれも、代表的家計の存在をいかに正当化するかという研究で、その仮定を否定するものではありません。その仮定をはずした成長理論も存在するようですが、きわめて抽象的でtractableな定量的結論は出せない、とAcemogluはのべています。

また多くのモデルでは、代表的家計は永遠に生きて無限の将来にわたる集計的な超過需要関数をすべて正確に予見し、最適成長を実現すると仮定されています。もともと代表的家計はRamseyの最適貯蓄の理論で使われた規範的な概念でしたが、それがいつのまにかすべての個人が全能の神のような計画主体であるという記述的モデルにすり替わっているわけです。Sargentはこの点をもっとストレートに告白しています:

Evans and Honkapohja: Do you think that differences among people’s models are important aspects of macroeconomic policy debates?

Sargent: The fact is that you simply cannot talk about those differences within the typical rational expectations model. There is a communism of models. All agents inside the model, the econometrician, and God share the same model. The powerful and useful empirical implications of rational expectations – the cross-equation restrictions and the legitimacy of the appeal to a law of large number in GMM estimation – derive from that communism of models.

私の理解では、代表的家計の仮定はDSGEのコアで、これを除いた「真水理論」はありえない。もちろんCochraneもいうように、今のところDSGEよりシャープな定量的結論を出して計量的な検証にかけやすいマクロ理論はなく、不完全性や摩擦を導入するベンチマークとしては有用だという反論もありうるでしょう。科学理論がすべてそうであるように、問題は他のパラダイムとの相対評価ですから、今のところDSGEが他よりベターな理論であることは私も認めます。しかしそれが「批判よりはすでに前に進んでしまっている」とはいいきれないと思います。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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