スパコン保護政策がIT業界をだめにする - 池田信夫

2009年11月20日 06:39

読者に誤解を与えるといけないのでお断りしておくと、きのう西さんと私は論争したわけではなく、基本的な意見は一致しました。私がブログ記事で問題にしたのは、スパコン自体の是非ではなく、その調達方法です。早い話が、もし国際入札で富士通のスパコンが選ばれていれば、何の問題もない。ところが西さんの説明でも、富士通の設計(SPARC64の超並列化)では300億円以下のコストしかかからない。それがなぜ1230億円になるのか。ここが問題です。


先週発表されたスパコンのTOP500では、クレイの「ジャガーXT5」が第1位になりましたが、その性能は1.7PFLOPSで価格は1990万ドル(約18億円)。これはアップグレードなので、総コストは50億円程度と推定されます。ここからTFLOPS単価を計算すると、300万円程度。10PFLOPS機なら300億円以下で調達できるはずです。

このスパコンの話題は、きのうの慶応のシンポジウムでも出て、佐々木俊尚さんは「役所がITゼネコンに食い物にされている」と批判し、岸博幸さんも「役所の担当者がものを知らないからぼったくられる」と言っていました。私が批判したのも、メーカーの社員が理研のプロジェクトリーダーになって自社の製品を調達する、明白な利益相反です。これは民間企業でも許されない。

このように無知な官僚に業者が食い込み、随意契約で暴利をむさぼるITゼネコン構造が政官業の癒着を生み、結果的には佐々木さんもいうように、日本のITの国際競争力をだめにしたのです。きのうも西さんと一緒に話を聞いた日本の通信学界の大御所の言葉によれば、日本のITは「産学ともに壊滅状態」です。これは日本経済が今後、立ち直る上でも深刻な問題で、日本にはもうリーディング産業がないのです。

ところが民主党政権の出してくる政策は、返済猶予法案のような温情主義ばかり。このように特定の業者を税金で救済したり育成したりする政策が、結果的にはITゼネコンのような「甘え」を生んで企業をだめにするということがわかっていない。きのうのシンポジウムでも、出席者全員の意見が一致したのは、「国産品調達」とか「日の丸技術育成」などの裁量的なターゲティング政策はやめるべきだということでした。

かつて日本のスパコンは、アメリカよりも性能がいいにもかかわらず米政府の入札から「国防上の理由」とやらで排除されました。そうして保護されたクレイ社は経営が破綻し、SGIに買収されました(現在のクレイ社はその後、売却されたもの)。政府の保護によって産業を育成することはできないしイノベーションも生まれないことは、スパコンの歴史が証明しているのです。

私は、スパコンそのものに反対しているわけではない。理研の研究に必要なら、国際入札をやり直し、同じスペックでIBMやクレイと競争すればよいのです。富士通に国際競争力があれば、300億円以下で落札できるでしょう。そうして世界に通用するコストで製品開発できない限り、日本のIT産業に未来はない。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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