NTT組織改編問題―再論 - 松本徹三

2009年11月26日 00:17

やっぱりNTTの組織改編は必要だ」と題した11月18日付の私のブログ記事をトラックバックしていただいた「経済学101」というサイトのコメントに一応反論しておくことが必要と感じましたので、この記事を書いています。(ちなみに、「経済学101」は、カリフォルニア大学バークレー校の博士課程で学んでおられる青木さんという方が運営しておられるものですが、視点が幅広く、面白くて為になるサイトだとお思いました。)


先ず、青木さんの「競争により技術が発展するとは限らない」という論点ですが、その点については私にも異議なく、私も別にそう決め付けているわけではありません。技術開発の「モチベーション」と「その為の最適組織」は様々であり、「競争」が全てに必要とは私も思ってはおりません。非営利の組織でなければ出来ないこともあるでしょうし、「気兼ねなく大金を使える」ことが必要なテーマもあるでしょう。

但し、私が繰り返して申し上げているのは、11月11日付のブログ記事でも述べているように、「大きな組織を維持しなければ、まともな技術開発は出来ない」という従来のNTTの主張は誤りであるという事です。

このことに関しては、「かつて幾多のノーベル賞学者を輩出したベル研も、AT&T分割後はその力を失った」ということが、それに対する反論として、何度も鬼の首を取ったように喧伝されており、青木さんも若干そのことに触れておられます。しかし、これは話がおかしいと思います。

かつてのAT&Tは、電話システムの発明者であるグラハム・ベルの理念を継承した企業体で、競争をする必要もなく、資金もあり余っていたのですから、その中の「ベル研(通称)」は、幾多の有能な研究者を惹き付け、彼等に自由に研究させる事が出来ました。しかし、その資金は、実は「電話をかけるたびに利用者が支払う電話料」から賄われていたのです。そして、「これはフェアではない」という考えが次第にアメリカ国民のコンセンサスとなり、これがAT&T分割の一因にもなったのです。

その結果として、「ベル研」は、世界の他の通信機器メーカーと対等に競争する「ルーセント・テクノロジー」の傘下に入り、その経営に貢献する事を求められる立場になったのですから、「あまり浮世離れのした基礎研究はやりにくくなり、それ故に、過去のような力を失った」という一面が生じたのも事実でしょう。しかし、それでは、どうすればよかったのでしょうか? これを惜しむ人たちは、「いつまでも電話料で研究費を賄うべきだったのだ」とおっしゃるのでしょうか?

今、別なところで、たまたま「スパコン開発談義」が盛り上がっていますが、もし、普通の企業ではとても間尺にあわないような「基礎研究」が国として必要なのなら、それは国民のコンセンサスを得た上で、国立の研究所でやればよい事です。(或いは、国の委託研究として富士通などの会社でやればよい事です。)これは、「通信事業への競争原理の導入」といった議論とは全く別の次元での議論です。

次に、青木さんは、「これは『生産者対消費者』の議論ではなく、『競争事業者同士』の言い争いなので、議論の筋が違う」と言われ、また、PSで、「私がNTTの競争相手であるソフトバンクの役員である事を先ず断ってから議論すべきだった」とされておられます。しかし、私が過去1年半以上にわたってブログ上でNTT問題について論じたのは、延30回を超えていると思いますし、日頃からアゴラを読んで頂いている方は、私の経歴を熟知されていると思いますので、毎回その事を断るわけにもいきません。青木さんには、そのことを先ずはご理解頂きたいと思います。

また、「アゴラでの議論は、自分の現在の仕事とは極力関係をもたせず、あくまで一市民の立場で(主として利用者の観点から)行う」という私のメッセージも、既にこれまでにしつこいほど何度も繰り返しておりますので、この点も、相当数の方々には、或る程度はご納得頂いている筈です。青木さんにはこの前提が理解して頂けていなかったことが残念です。

(そもそも、「会社の見解」というものを表明する必要がある時には、私もわざわざ「個人のブログ」などを使う必要はなく、会社の中の然るべき人にその意見を表明してもらえば済むことです。現実に、ソフトバンクでは、「社長室」や「渉外部門」等の担当者がそういう任務を担っています。しかし、「個人ブログ」には「個人ブログ」としての別の意義があると私は思っており、1年半前に「日本の情報通信の将来を考える」という標題の個人ブログを立ち上げ、それを引き継いだアゴラ上でも「情報通信に関する意見」を頻繁に出しているのは、それ故です。)

成程、青木さんのおっしゃられる通り、寡占体制にならざるを得ない通信事業のような設備産業においては、同業者同士の「共謀」は各事業者にとっては誘惑に満ちた選択です。しかし、誰もが納得できるような理由がなければ、そんな「共謀」は利用者の目にミエミエになってしまいます。

そもそも、「独占・寡占の弊害を防ぎ、利用者の利益を守る」為に、監督官庁としての総務省が存在しているのであるし、そうでなくても、競争環境下にある事業者にとっては、利用者の支持と共感を得る事がビジネスに勝ち抜くための必須条件ですから、どの事業者もそんな事を迂闊に行う事はしないでしょう。

原口総務大臣の推進する四つのタスクフォースの第二グループは、NTTの組織再編議論に最も近いところに位置するわけですが、「ここにNTT出身者だけが入っているのは片手落ちではないのか」と問われた原口大臣は、既に「当事者でなければわからない事もあるから、当事者の参加は妥当。競合他社にも当然関与してもらう」と答えています。

まさにその通りです。「専門的な知識を要し、具体的なところまで落とさなければ問題点が見えてこない」という性格をもったこういった議論では、「当事者同士で大いに論争させ、それを中立的な第三者が公平に評価する」という手順が一番良いと思います。

青木さんの第三の議論は、これが最も本質的な議論だと思うのですが、一言で言えば、「NTTが光通信網の独占供給者であったとしても、その上で各社のアプリケーションを競争させる事は誰にとっても望ましい筈だから、その辺の事を十分議論せずに『垂直統合が悪い』という結論を導き出すのは性急だ」という事のように聞えます。しかし、私は、もとより、そんな短絡的な事を言っているわけではありません。

現在NTTが行っているサービスは、3層に分けられると考え、一番下に「物理的な光通信網(0種)」があり、その上に「NGN」、更にその上に「アプリケーション」があると理解すべきです。そして、「アプリケーション」は「NGN」に、「NGN」は「光通信網」にそれぞれ大きく依存している(1社でやった方がやり易い)と考えると、「光通信網」で独占的な立場にあるNTTは、全階層において圧倒的に有利な立場を占める事が出来ると言えます。青木さんご自身もおっしゃっておられるように、NTTは、「どうすればトータルで自社に有利になるか」を考えた上で、如何様にも利用条件を定め、全体のビジネスをどんな方向にも誘導出来るからです。

それから、青木さんはiPhoneの例を上げておられますが、iPhoneは急成長してはいるものの、Windows、Symbian、RIM、Androidと、競争相手には事欠かず、そのプラットフォームが独占の域に達していると考えている人は誰もいません。ですから、「光通信網」の問題などとは比べるべくもありません。

PCにおけるWindowsの独占的な地位については、私も比喩に使いました。成程、米国でも欧州でもMicrosoftは分割を免れましたが、欧州委員会は米国司法省よりは厳しい立場を取っており、その「反競争的な行動」に対して相当のペナルティーを課しています。

私の考えは、池田先生とは異なり、「NTTの組織再編問題は、独禁法ではなく、産業政策の観点から前向きに議論したほうが良い」というものである事は、先のブログでも申し上げた通りですが、独禁法に詳しい或る弁護士先生と話したところでは、「光通信サービスにおけるNTTの現状は、独禁法に抵触するものとして、今すぐにでも十分立件できる」との見解でした。しかし、その場合でも、自動的に企業分割命令が出るというところまでは、すぐには行かないのではないかと思われます。

<追記>

私としては、今回の「経済学101」のような、私の見解に対する「理論だった批判」は、大いに歓迎するものです。

12月には、たまたま、アゴラで、私の「連続セミナー」を企画して頂いておりますが、出来れば、NTT関連の企業の方々にもそういう場に是非参加して頂き、私に大いに議論を吹きかけて頂ければ面白いと思っています。(尤も、今回のセミナーは、「携帯端末に関連したサービスビジネス」に焦点を当てる予定ですので、「光通信網などに関連したNTTの組織問題」について論じる事はあまりないとは思っていますが…。)

松本徹三

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