沖縄密約をめぐる政府の嘘を許したメディア - 池田信夫

2009年12月02日 00:32

沖縄返還の日米交渉をめぐる密約文書の情報公開を求めた行政訴訟で、きのう元外務省アメリカ局長、吉野文六氏が東京地裁に証人として出廷し、1971年の沖縄返還協定調印の直前、米軍用地の原状回復補償費400万ドルを「日本が肩代わりする」との密約を交わした、と証言した。これは外務省の当事者が密約の存在を公の場で認めた、最初の証言である。なぜこんな当たり前のことが明らかになるまで、38年もかかったのだろうか。


この密約は、1972年に毎日新聞の西山太吉記者がスクープしたが、その取材方法をめぐって外務省の職員から国家機密を漏洩させたとして、検察は彼を逮捕した。起訴状には西山氏が局長秘書と「情を通じた」という表現があり、これによって問題は男女関係を利用して取材した手法の問題にすりかえられ、毎日新聞は他のメディアからも批判を浴びた。西山氏は退社し、裁判でも有罪となった。

同じころ、ペンタゴン・ペーパーズと呼ばれる事件があった。これは1971年に米国防総省の研究を受託していたランド研究所のダニエル・エルズバーグが、ベトナム戦争に関する機密文書をニューヨーク・タイムズに提供した事件だ。これに対してニクソン政権は報道の差し止めを求める訴訟を起こしたが、連邦最高裁は認めなかった。エルズバーグは国家機密漏洩の罪で起訴されたが、無罪になった。

二つの事件を比べると、日米両国の報道の自由についての考え方の違いがよくわかる。毎日新聞の場合は、新聞が事実を報道することを国家公務員法違反の幇助という罪に問うことは法的にも疑問があったが、裁判所は取材方法に不正があったという理由で西山氏を有罪にした。これに対して、アメリカではNYタイムズは訴追の対象にもならなかった。エルズバーグが違法な手段で文書を持ち出したとしても、公知の事実になった文書を報道することは憲法修正第1条に定める言論の自由だからである。

最近の地球温暖化をめぐる電子メール漏洩事件でも、NYタイムズを初め世界の主要紙は、地球温暖化についてのデータが偽装されていた疑いがあることを報じたが、日本の新聞はまったく報じなかった。これは偶然とは考えられないので、おそらく環境省が記者クラブに「違法な手段で公表された情報は報道するな」と申し入れたものと思われる。

報道機関は国家権力を監視する装置なのだから、いざとなったら犯罪に問われてでも真実を明らかにするのが仕事である。日本のメディアは、その緊張関係が記者クラブによって失われ、政府の許可を得て報道する性癖が身についているのではないか。沖縄密約の場合は、その存在を否定してきた歴代の外務省幹部こそ国家公務員法違反(国会での虚偽答弁)である。メディアは今度こそ、過去にさかのぼって外務省の責任を徹底的に追及すべきだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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