株価が予言する民主党政権の未来

2009年12月03日 11:19

某米系投資銀行勤務/藤沢数希

2009年8月30日衆院選、自民党の歴史的な惨敗により戦後初の本格的な政権交代が起こった。鳩山由紀夫率いる民主党政権が生まれたのだ。「アメリカ型の『市場原理主義』は崩壊した」と世界同時金融危機を総括した鳩山首相は、経済成長を最重視した小泉・竹中の構造改革でボロボロになった日本経済を立て直すため、「友愛」により新しい経済システムの構築を目指すと宣言した。競争より平等、成長より分配を重視し、経済合理性にこだわらず社会に友愛精神を醸成し本当に豊かな日本を創っていくことを目指す民主党政権がここに誕生したのである。

政権発足後まだ3ヶ月であるが鳩山由紀夫率いる民主党政権は矢継ぎ早にさまざまな政策を実施している。
郵政再国有化。政権の重要ポストへの官僚登用。社内失業者への補助金延長による失業率を抑える労働政策。事業仕分けによる次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトの廃止。そして、史上最大の概算要求と過去最大規模の国債発行。
これからさらに子供手当て、農家への所得補償、公教育を担う教職員の待遇改善、労働組合に守られる正社員労働者の権利強化などが実施されていく予定である。また200兆円の郵便貯金を経営難で困っている地方の中小零細企業などに貸し出し、小泉・竹中構造改革で疲弊した地方経済を活性化する政策も亀井静香金融相を中心に活発に議論されている。

ところがこのような「友愛」政策にもかかわらず日本株がまったくさえない。下の図は米国S&P社が算出している国別の株式市場のパフォーマンスである。各国通貨の変動をとりのぞくためにすべてドル建てで計算してある。年初来の日本株のパフォーマンスはS&Pが算出する45か国中44位である。ブラジル、ロシア、インド、中国などの新興国は軒並み株価が2倍前後になっており去年の経済危機からV字回復している。米国、欧州の先進国も最悪だった2008年から株価は順調に回復しているようだ。しかし、日本株のパフォーマンスはわずか7%であり、かろうじてモロッコに勝っているだけである。年初来で円高ドル安がかなり進行したので、自国通貨の円でみると日本の株価はなんと年初来でマイナスなのである。世界の株式市場の中でまさに日本のひとり負けなのだ。

もちろん民主党政権もこういった状況をただ手をこまねいていみているだけではない。国民から拍手喝采を浴びた事業仕分けで1兆円程度の予算を削減した民主党は、報道によると景気刺激のために3兆円程度の財政出動を実行する予定である。しかし、それでは国の歳出が事業仕分けでスリムアップするどころかさらに増えるわけである。いったいあの事業仕分けはなんだったのだろうといいたくもなる。いや事業仕分けが悪いといっているわけではない。財政出動が悪いといっているわけでもない。しかし一貫性を欠いているといわざるを得ないのだ。

2009年世界の国別株価パフォーマンス
出所:S&P社のウェブサイトより筆者作成

もう少しくわしく株価をみてみよう。ここでも世界各国の株価をくらべるためにすべてドルに換算した。下図をみると日本株の下落はちょうど民主党政権が誕生してからはじまっていることがわかる。このわずか3ヶ月の間に世界の主要先進国の株価から比較して15%も下落した。

2009年政権交代と株価の推移
出所:Yahoo Finance等から筆者作成

なぜこれほど日本株は売られるのだろうか。直接的には金融危機による損失がほとんどなかったはずの日本がなぜこれほど低迷するのだろうか。世間では民主党が財政出動をしないからだとか日銀が金融緩和しないからだとかいろいろな憶測が飛んでいるが、筆者は日本の潜在成長率が低下したためだと考えている。潜在成長率とはGDPが毎年どの程度成長するかを表す指標である。それではこの成長率と株価の関係をみていこう。

株式とは会社の未来の利益の分配権である。だから株価は会社の将来の利益予測から決まるのである。そして会社とはつぶれない限りずっと存続しつづけるので、未来永劫の利益を適切なレートで割り引いて足し合わせたものが株価なのだ。このレートが投資家からみれば株式の期待リターンであり、投資家からお金を集めて事業をしている経営者からみれば資本コストである。会社の利益が一定の割合で毎年成長するという簡単な仮定を使えば、株価がどうやって決まるのかを理解できる。これはゴードン・モデルとよばれるもので等比級数の公式から次のように導ける。

 株価=利益÷(資本コスト-成長率)

たとえば一株あたりの利益が500円で資本コストが7%、毎年利益が2%増加するなら、株価は500円/(7%-2%)で1万円になる。日経平均のように日本を代表する会社で構成される指数をひとつの日本株式会社だと考えれば、指数の水準も計算できる。日経平均を構成する全会社の利益をこの指数一単位分に換算して一指数あたりの利益を計算する。そして日本株全体の資本コストと利益成長率を考えて同じ計算をすればいいのである。
さて、この成長率が2%からゼロになると株価はどれほど下がるのだろうか。500円/(7%-0%)で7100円となる。実に2%の成長率の低下で30%も株価は下落してしまうのである。メディアの報道は直近の決算動向に集中しがちだが、株価にとってもっとも重要なファクターは長期成長予測なのである。

国民全体の所得であり一国で創出される付加価値の合計であるGDPの多くが企業活動から生み出されるのだから、利益の長期的な成長率とGDPの潜在成長率はほぼ同じものだと考えていいだろう。実際、ゴードンモデルの成長率は通常、GDPの長期成長率の予測値が使われる。このGDPが富のパイであり、GDPに税率をかけたものが国の税収でこれが福祉のための財源となる。このGDPを増やしていくことが極めて大切だと多くの経済学者は考える。小泉・竹中の構造改革もいかにして経済を成長させるかということを目的として政策がつくられたのである。

民主党政権が誕生してからの日本株の低迷は、世界の投資家が民主党政権では日本経済は成長せず長期停滞に陥るのだろうと予測していることを意味する。株価とはもっとも正確で客観的な将来予測なので、その意味するものは重い。残念ながら株価は成長戦略なき民主党政権が日本経済を長期停滞にたたき落とすことを予想しているのである。

次の図をみていただきた。これは小泉純一郎と竹中平蔵率いる自民党が郵政選挙とよばれた2005年の衆院選で圧勝したときの株価の推移である。衆院選の9月11日が基準になるようにやはりドル建てで世界の株価との比較をしている。

2005年郵政選挙と株価の推移
出所:Yahoo Finance等から筆写作成

驚くことに小泉政権はわずか数カ月の間に世界の先進国の株価を20%以上もアウトパフォームしたのである。その後も日本の株価はずっと高止まりしていた。まさに日本株のひとり勝ち状態だったのだ。一部の民主党幹部から市場原理主義だと非難された小泉政権だが、この間失業率は3%台で推移して、赤字国債と税収のプライマリー・バランスははじめて継続して改善しつづけたのである。小泉・竹中政権の成長戦略をみて、世界の投資家はこれならまた日本は復活する、日はまた昇ると確信したのだ。そして株価は素直に上昇した。
本来、勤勉でモラルの高い日本人はものすごいポテンシャルを秘めている。しかし、経済成長を阻む巧妙な仕組みが既得権益層によって国中に張り巡らされてしまっているのだ。経済成長はベンチャー企業などの新しいチャレンジャーにより実現される。しかし既得権に安住する者が政治と癒着して新規参入者を排除しようとするのだ。逆にいえばそういった構造を改革していけば、日本はまだまだ世界の中でやっていける。2005年の株価はそのことを雄弁に物語っているのだ。
皮肉なことに、弱肉強食の小泉・竹中政権が結果的には一番弱者にやさしかったのだ。

税金をもらう人ばかりになったら税金を払う人がいなくなるので社会が成り立たない。税収が30兆円ちょっとしかないのに赤字国債を発行して100兆円の予算を組んでいてはいつかは財政破綻する。企業を悪者にしてさらなる負担を強いてつぶしたり、外国に追い出したりしたら、雇用する人がいなくなるので失業者はどんどん増える。労働者が減って扶養される高齢者がどんどん増える少子高齢化社会で、経済が成長しなければ、税負担は増え福祉はどんどん減る。こういうことを理解するのに経済学のPhDは必要ないだろう。

確かに鳩山首相は本人も自ら認めているように恵まれた家庭で育ったためお母さんからもらった(借りた?)10億円をうっかり失念していたほどで、細かい数字にはこだわらない人なのかもしれない。それでも30兆円ちょっとの税収で100兆円の予算を組んでいてはそのうちつじつまが合わなくなることぐらいはわかってほしい。少子高齢化が急速に進展する社会で、競争や成長を否定してグローバル経済に背を向ければ、国際社会の中で生きている日本の国民がどんなに不幸になるのかわかってもらえないだろうか。結局、日本がグローバル経済の中で存在感を失い国の富が縮小していけば、最もしわ寄せを受け辛い状況に置かれるのは一番経済的に弱い人たちなのだ。

本当に日本国民は、若者やこれから生まれてくる子供たちに赤字国債を使って負担を押し付けながら、国にお金をばら撒いてもらうことを望んでいるのだろうか。戦後焼け野原から必死に努力してここまでやってきてその間に国民一人一人が蓄えた貯金を、政治家が勝手に福祉と称してばら撒くことを望んでいるのだろうか。
筆者は日本人がそこまで堕落してしまったとは考えていない。
むしろもっと創意工夫をして世界中の人がおどろくようなモノやサービスをつくりだし、また世界のなかで認められ豊かになりたい、そして、未来の子供たちに豊かな国を残してやりたいと多くの国民は願っているのではないだろうか。

参考資料
株価の計算に関しては、たとえば「なぜ投資のプロはサルに負けるのか?」の第3章株価とは何か?の解説を参照。
成長戦略って何だ?、金融日記
景気が悪くて需要が足りないから財政出動するという考えが日本経済をボロボロにした、金融日記
勝間さんのインフレ政策を実行するとどうなるのか?、金融日記
途上国が貧しいのは先進国が搾取しているからではないし、貧乏人が貧しいのも金持ちが搾取しているわけではない、金融日記
「改革」はどこへ行った??民主党政権にチャンスはあるか?、竹中平蔵
成長戦略の中心は中国とのポジショニングだ – 池田信夫

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