デフレ化するキャリア

2009年12月10日 10:00

株式会社ジョーズ・ラボ代表取締役/城繁幸

先日、「サラリーマンの生活防衛」という特集で某週刊誌の取材を受けたところ、記者からこんな質問をされてしまった。
「ユニクロやエイサーのような企業が、庶民の生活を苦しくしている悪の元凶ですよね」
まだまだこういう意見は多いようだ。


僕が大学進学した頃、パソコンは欲しかったが手が届かなかった。当時はNECが独自企画で殿様商売していたから、そこそこのスペックでモニターからプリンタまで一式そろえると50万近くしたためだ。
一方、現在使っているPCはネットのBTO企業から購入したもので、そこそこのスペックで10万程度に過ぎない。15年前と比べると実に40万近く値下がりしたわけで、消費者としてこんなに幸せなことはない。もちろん、差額の40万円は自分の好きなことに使えるわけで、少なくとも個人のトータルの消費は一円も下がらない。本当に良い時代になったものだ。いまどきPCに40万以上出したい人なんていないだろうから、きっと国民の大多数も同じ意見だろう。

ただし、アンハッピーな人も中にはいる。パソコンを作っている側の人たちだ。さすがに部品はすべて海外調達にシフトしているものの、ほとんど利益の出ない事業に成り下がってしまった。当然、人件費を含めたコストは引き下げ圧力がかかり、こういった業種に勤めている労働者は昇給も抑制される。個人的に、こういうケースは「キャリアのデフレ化」と呼んでいる。

よく言われるように、日本の問題点は、産業構造的にパソコン同様にコモディティ化しやすい製品が多いということ、そしてそういった事業から高付加価値の事業への転換が一向に進まないという点にある。本音では富士通もNECも利幅の薄いPCなんて撤退したいのだが、人が切れない以上、現状維持しか行なえない。かつてNECの事業部長時代にDELLのPCを部門に導入した武勇伝のある西垣氏も「10年は泥のように働け」と講釈を垂れる普通のおじさんになってしまった。他の製造業も似たり寄ったりだ。

従来、大手企業の賃金カーブは54歳あたりがピークだったが、朝日新聞の労使が40歳ピークに切り下げようと交渉中だそうだから、競争の激しい製造業なら35歳あたりに下がるのではないか。生涯賃金で言えば3割くらいは減るだろう。
そういう意味では、雇用調整助成金の支給条件を緩和するという現政権の選択は最悪だ。それは組織の新陳代謝を妨げるモルヒネにしかならない。国の政策にまったく期待できない以上、キャリアデフレ対策で個人が出来ることは、より付加価値の高い専門職か、中国との置き換えのきかないサービス職への転職しかない。

それができない大多数の中産階級にとっては、減っていく可処分所得に相応な安い製品を提供してくれるユニクロのような企業は、悪人どころか救世主である。

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