金融資本主義は「労働なき富」か - 『現代の金融入門』

2010年02月07日 00:07

★★★★☆(評者)池田信夫

現代の金融入門 (ちくま新書)現代の金融入門 [新版]
著者:池尾 和人
販売元:筑摩書房
発売日:2010-02-10
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衆議院予算委員会で鳩山首相は、自民党の質問に「ガンジーの『労働なき富』というものは、行きすぎたマネーゲームとかカジノ経済と言われるような行きすぎた金融資本主義。これは何とか是正しなければならない」と答弁した。金融資本を憎むのは彼だけではなく、『ヴェニスの商人』の昔から金貸しは悪徳の代名詞である。オバマ米大統領も「ウォール街のロビイストと闘う」と宣言した。

しかし日本に「行きすぎた金融資本主義」はあるのだろうか。ウォール街にはあったかもしれないが、邦銀は今回の金融危機でほとんど無傷だった。それは彼らがリスクの高い証券化商品をほとんど手がけていなかったからだ。このような相対取引は、たしかにリスクは小さいが、扱えるリスクの幅も小さい。このため邦銀は、世界の金融市場ではマイナープレイヤーでしかない。

本書は、金融の機能をコンパクトに解説した入門書である。金融はリスクを社会全体に分散して取引することによって、新しいビジネスを可能にする。著者もいうように、自動車は行動範囲を広げる一方、交通事故も起こすが、だからといって自動車を禁止しろという人はいないだろう。同様に、金融もリスクを扱うだけに危険な側面があるが、適切に規制して使いこなせば企業活動の幅を広げ、経済を活性化する。

他方で、金融政策に過大な期待をする向きもある。「デフレ宣言」で日銀に圧力をかけた菅財務相は、日銀が通貨供給を増やせばデフレが止まると思っているのかもしれないが、そんな「魔法の杖」はない。経済の実力は実体経済で決まり、金融の役割はその実力からの「振れ」を修正する安定化だと著者は説く。

日本経済の長期停滞の一つの原因は、人々がリスクを恐れて投資をしないことにあるから、市場型間接金融の導入によって資産運用を多様化し、人々がもっとリスクを取れるしくみをつくることが必要だ。輸出産業に限界が見えた今、サービス業の生産性を上げる必要がある。金融はその中核であり、イギリスではGDPの1割を占める。成長期の終わった日本の家計にとっても、これまでに蓄積した資産を効率的に運用することが重要だが、民主党の成長戦略に金融はまったく入っていない。おまけに首相が金融を「労働なき富」よばわりするようでは、日本の未来は暗い。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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