もう「危機モード」は卒業しよう - 池田信夫

2010年03月01日 15:01

金融危機は最悪の局面を脱し、欧米諸国は「出口戦略」をさぐっています。ところが日本だけが「二番底」を防ぐと称して2次補正をこれから執行し、財務相は日銀にインフレ目標を強要しています。これが愚劣なのは、インフレ目標が実現不可能であるばかりでなく、現在の日本で意味のない問題だからです。


磯崎さんも指摘するように、日本の銀行は資金過剰で融資先がなく、国債を買っている。こんな状態で日銀が銀行の保有する国債を買っても、資金がさらにダブつくだけで、マネーストックが増えるはずがない。日本経済のボトルネックは資金供給ではなく、資金需要すなわち投資の不足なのです。

これをマクロ経済学で、自然利子率がマイナスになっているといいます。自然利子率とは実体経済の均衡する金利水準で、通常はプラスですが、資金需要が供給を大きく下回るとマイナスになり、デフレになります。名目金利はゼロ以下にならないので(マイナスの)自然率より高くなり、意図せざる金融引き締めが行なわれます。これを避けるためにインフレを起こして実質金利をマイナスにしようというのがリフレですが、これは前にみたように、理論的にも実証的にも現実性がない。

それより大事なのは、自然利子率がマイナスになっている異常な状態を是正することで、それには投資を増やすしかない。今回のアメリカの金融危機でも、在来型の財政政策を主張したのはクルーグマンぐらいで、他の(主流の)マクロ経済学者は減税を提言しました。この場合の減税は「有効需要」を追加する一時的な減税ではなく、インセンティブを変える投資減税や法人税の減税です。

これまで税は財政の帳尻や「乗数効果」などのケインズ的な概念でしかとらえられなかったが、最近はそのインセンティブに及ぼす効果のほうが大きいことが注目されています。特に日本の法人税率はOECD諸国で最高水準であり、資本逃避で投資が失われる原因となっています。対内直接投資がGDPのわずか3%しかないのも、資本市場や労働市場の規制と並んで税制によるところが大きい。これを是正して、中国などからの直接投資を引きつければ、資金需要が増えることも期待できます。

「まず短期の需給ギャップを埋めてから長期の構造改革をすればよい」などというのは、長期の意味を取り違えたものです。経済学で短期というのは「短い時間」という意味ではなく、投資水準を所与とした場合という意味です。投資を変数とする政策が長期であり、投資減税や法人減税は、当てにならないインフレ目標よりはるかに即効性があります。ところが鳩山政権の打ち出す税制は、内部留保課税など、投資に逆インセンティブを与えるものばかり。

政府支出に比べて過少で(個人・法人の)所得税に片寄り、膨大な租税特別措置で抜け穴だらけの税制を是正することは、インセンティブを改善して投資を拡大する効果があります。政府もいい加減に「危機モード」は卒業し、投資を高める改革に取り組んでほしいものです。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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