携帯電話の周波数問題等について(補足と意見)― 向井 敬

2010年04月20日 19:30

ここでは「事実上の標準(デファクト・スタンダード)」の考えに基づいて携帯電話の周波数問題等について技術的観点と費用観点より補足及び意見したいと思います。

どの周波数が世界共通なのか?
次世代LTEサービス用の周波数ですが、現在日本国内で割り当てられている(割り当て予定)の周波数は日本固有のものであることはこのサイトの読者の方は、池田先生等の記事で既にご存知の方も多いと思います。私自身も仕事上でこれに苦慮しており、それじゃ一体どの周波数が世界共通なのか?と問われれば、私自身現時点で答えられるのはLTE規格を作っている3GPPが公表する所のIMT Core bandである2GHz帯域及び拡張領域である2.5GHzが基本で、その他は現行GSMの850/900/1800/1900帯域や、北米で新たに割り当てが予定されている700MHz帯域がいずれはデファクト・スタンダードになるのでは?としかお答えできません。 


周波数切り替えは簡単ではない
例え日本固有の周波数を使ったとしても、周波数切り替えによってローミングは容易に可能だとおっしゃられる方が多いので、事実に基づき誤解を解きたいと思います。

現在販売されている多くのGSM端末は上記4つの帯域(850/900/1800/1900MHz)をカバーしており、WCDMA端末もIMT Core bandである2GHz帯域を始め、GSMと同じ4つの帯域がデファクト・スタンダードとなっており、日本で販売されているローミング可能な3G端末は何れも/何れかをサポートしています。

「チップにプログラムを組み込めば良いのでは?」などという、いとも簡単に実現出来るような記述が各所にありますが、 携帯電話のアプリケーション部(CPU+OS)はiPhoneやAndroid端末のように、近年ものすごい進化を遂げましたが、パソコンで言うところのモデムに相当する部分、特に無線部分に関しては実は基本的な構造/方式は数十年前から実現されているものとほぼ変わりません。 勿論部品メーカやプリント基板メーカの努力によりサイズはかなり小さくなったものの、無線部のプリント基板表面積を主に占める受動部品(フィルタ、デュプレクサ、アンプと呼ばれる部品)の構成は20年前のアナログ携帯電話の頃からそれほど大きく変わっておらず、またこれらは周波数依存の高い部品で、少しでも周波数帯域が異なると、その帯域のために部品一式を追加する必要がでてきます。 

また周波数や方式切り替えを行うソフトウェア部分に関しても、複数の周波数帯域や方式を行き来する切り替えが多ければ多いほど、「電波を直ぐ掴む」という動作が遅くなりますし、単に周波数を切り替えるだけでなく、掴んだ周波数がSIMカードに記載されている主契約キャリアのものか又はローミング契約のあるものか?という判断もその都度必要になります。 勿論これらの切り替えがスムーズに行われるために度重なる試験や相互接続性試験(IOT)が必要になり、それらの費用は1機種につき軽く億を超える金額となります。 

レガシーネットワークとの切り替えについて(方式の切り替え)
意外と知られていないところで、現在国内で販売されている主な端末、特に3GでWCDMAを採用しているソフトバンクさん、NTTドコモさん及びイー・モバイルさんの端末は海外で自動的に(手動もあり)GSM網とWCDMA網という方式を切り替える機能が付いています。(デュアルモード機能)これはユーザがネットワークを意識することなく、自動的にローミング契約のあるキャリアに切り替え出来るように追加された機能で、筆者の独断と偏見では恐らく日本製端末は世界一この機能が安定して動いていると信じております。 しかしながらこの機能を開発及び検証するには巨額のお金が必要で、実験設備は元より、世界中の国でこの機能の検証を行うだけで、1機種で簡単に数億から十数億の費用が発生します。 次世代LTEでは国内キャリア全てがサービス当初はレガシーネットワーク(現行サービス、WCDMAやCDMA 1X)との切り替えを想定しておりますが、残念ながらLTEにおいて日本以外の国でレガシーネットワークとの切り替えを想定している所が殆ど無く、結果的にLTE<->WCDMAデュアルモード端末用のプラットフォームが数少ない事態を招いています。 

考察及び意見
日本ではこれらの開発をSIMロック有で代表される端末メーカとキャリアとで協業を行うことで実現出来ているのがこれまでの実情です。 一方海外ではキャリアと端末メーカはSIMロック無しで分業しており、端末メーカ/プラットフォームベンダが個別にこれらの開発を行うため、少数特定メーカしか生き残れない状況となったのも事実です。 

もし全ての端末のSIMロック解除なんてことになったら、これら機能を開発/検証するための費用負担はだれが行うのでしょうか? さらに端末の値段が上がり、結果的にユーザ負担となれば、ユーザがどのような判断を下すでしょうか? せめてデュアルモード端末用のプラットフォーム開発に費用が回せるように、少なくとも日本固有周波数のための開発費用の削減や、キャリア・コンセプトで作るSIMロック有り端末及びメーカ・コンセプトで作るSIMロック無し端末の共存共栄を真剣に検討すべきではないでしょうか? レガシーネットワークとの切り替えについては費用面も含め、要否を検討する必要があるかもしれません。 いずれにせよ一方的なSIMロック解除とか、周波数再編は既得権益だから出来ないとか言っている場合じゃないと私は考えます。
(向井 敬 シグナリオン・ジャパン株式会社代表取締役)

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